みかみ(みみかき) さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
本作の評判のよさは「救い」。
こころの機微をきっちりと描くことを話のメインにしてしまうと、評判を獲得しにくいエンターテイメントの世界で、これだけきちんと評判を獲得できている、ということは、本当に「救い」だと思う。
こころの機微を、まともなレベルで描いて、受け入れられるだけの回路をきちんと構築した岡田麿里は、この点で、本当に偉大な仕事をしたのだと思う。
■転調する、描写の水準――虚実のリアリティ・ミックス。
『とらドラ』の面白さは、こころの機微をきっちりと描いているが、「ずっと心の機微を描いている」…というわけではないことにある。
この作品におどろくのは、こころの機微の水準が、全体の「後半」になってから突如として描かれはじめる、ということだ。
途中まではどうみても、学園ラブコメの萌えアニメで、ある種の萌え文化に馴染みのない人であれば耐えられないものだし、逆の種類の人にとっては直球ストライクのはなしだ。こうした話のなかに登場する学園はやはりファンタジーのなかのもでしかなく、言うまでもなく現実には存在しない。女性はすべて偽物である。その偽物の女性のリアリティを、おもしろく見ることのできる感受性を経由してでしか、本作は見ることができない。
しかし、後半になってから、本作の登場人物たちは、急遽、実際にありえそうな人のこころの機微をもったものとして丁寧に描かれはじめ、空気感は一変する。この急激な転調のなかにわたしは、ぐい、と捕まれた。
存在しない女の子の質感と、現実の人間のリアリティが絶妙にまじりあった快作だと思う。
■鋭い女性と、ギャルゲ的女性、どちらがメイン・ヒロインなのか。
あと、true tearsと比較をして本作をみるととても面白かったのだが、本作は最終的には、大河が選ばれるというシナリオになっている。
これがtrue tears的な人選だったら、アミちゃんエンドだったのではないかと思う。true tearsのそういう決着のさせ方はオタ界隈では不評だったのかもしれない。ここでアミちゃん=非ギャルゲロボット、とせずに、大河=ギャルゲロボットに最も近い存在 をエンドにもってきた、ということがなんともいえず、感慨深い。
また、作画等に関してもきわめてすばらしい。
たまたまテレビをつけたら、たまたま、この16話が放映されていて、その作画、作話、双方の水準のあまりの高さにひさびさに驚いた。驚いて、ふりかえって全話、見返してしまった。全話を通してみても、16話はきわめてすばらしい。
これを見て以後「岡田麿里」の名前はわたしにとって、安心の品質保証になった。
■追記:教養小説的であるというはなし
はてな村の反応ってどうなの?と思ってみてみたら、
これが教養小説としての構造をもっている、とかっていうこと自体に対するdisとか、承認欲求問題云々でいまだに丁々発止やっていて、なんか読む気萎えた。承認欲求のはなしとか…まあ、わたしもエヴァのところで書いたし、10代~20代中盤までの永久の人気トピックだとは思う。…でも、そういうことでしかこの作品を語りえないというのは、なんか日本のサブカル・コミュニティ全体に寂しさを感じる。何のかんの言ってもサブカルの一番の需要者は10代~20代中盤でしかないんだろうなぁ。そこはやはり、映画のコミュニティとかのほうが語りの多様性が出てくるわなぁ、とかなんかしみじみ思った。