2S-305 さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
美しい情景の中、登場人物の心情描写が秀逸でした。
最近発売になったBDを購入して初めて見ました。
最初のオープニングから引き込まれ、一気に見てしまいましたが、1クールアニメでは最良といえる出来栄えだと思いました。
この作品は登場人物のきれいごとだけではない細かな心情描写と雪国の情景があいまって一種独特の風情を醸し出しています。
ざっくり言ってしまうと、優柔不断・ポエムでファンタジーな主人公(眞一郎)と、幼いころから思いを募らせながらも、とある事情で心に秘めていた少女(比呂美)、そこに天然系少女(乃絵)が現れ物語は展開していきます。
前半の山場は眞一郎の母から告げられた衝撃の言葉を、思い人である眞一郎に告げてしまう場面。兄弟かもしれないことから思いの内を明かすことができず、しかしその思いを捨てることが出来ない比呂美(これはこれですごいですね)が乃絵と付き合うとその兄から告げられたのち、眞一郎の母からの一言もあり衝動的に明かしてしまうのですが、その動機が自分以外の者と付き合うことに対しての嫉妬であったりやり場のない憤りであったり・・・。ちょうど眞一郎が比呂美が4番が好き(兄弟かもしれない主人公を好きとはいえないことからくる虚言なのですが)と言ったのを聞いて、そののち眞一郎がとってしまった行動と相似形だったりしますが、こういうことって現実でも結構あったりするのでドキリとしました。心無い言動、思わずやってしまうことってありますよね。
乃絵の兄の言葉「好きなものを好きで入られなくなるのってきつい・・・、感情をコントロール出来たらどんなに良いか」このあたりの言葉がずしりと響いて来ます。
中盤以降はサブヒロインや主人公の親友三代吉を交え、レディースコミック顔負けにすれ違い・愛憎入り乱れていくわけですが、やはり主人公のおぼっちゃまな優柔不断・鈍感・無神経っぷりは容赦ないです。自分のことを好きな女の子に親友との仲をとりもっちゃうとかとんでもなく残酷なことしてますね(三代吉の爪のアカ飲ませてやりたくなります)。三角関係を成立させるためには、主人公が鈍感・優柔不断キャラじゃないと話が成立しないとはいえ常軌を逸しています。
そんなこんなで眞一郎の母が比呂美の母に持つ鬱積した感情(乃絵の立位置が比呂美の母、比呂美の立位置が眞一郎の母と似たような関係だったのかもしれません)に由来する心無い一言や行動から比呂美が自暴自棄になり家を飛び出してしまい、大きく物語は展開していきます。
バイク事故をきっかけに、眞一郎が無意識に比呂美への思いが表出し抱きかかえる場面での比呂美の涙。初めてお互いが素直に感情表出させた場面だったように思います。ここで乃絵も直感的に眞一郎の心情を悟ることになります。
その後いくつかの誤解(兄弟疑惑等)はとけますが、既に乃絵と付き合っていることから未練がありながらも身を引く決意をし家を出る比呂美(ここは身を引くのではなく、比呂美が自分なりの区切りをつけるため、という解釈もあるかもしれません)、そこでようやく思いを告げ主人公もやっと男らしい態度を見せたかと思いきや、やっぱり煮え切らない主人公。父親のナイスガイっぷりを見習ってほしいですね。
終盤は祭りの情景の中、物語は加速していきます。比呂美を思いながらも乃絵に強く惹かれる主人公の思いを繋ぎ止めたい気持ちで思わず行動してしまう比呂美、眞一郎が比呂美のことを思っていることに気づき、止めようと思いながらも会いに行ってしまう乃絵。様々な人間の葛藤。
その中でようやく向き合う決心をした眞一郎。その後の結末は・・・。物語のテーマである「本当の涙」、ここは是非見ていただいてあれこれ想像するのが楽しいでしょう。
以上私感をつらつら書いてしまいましたが、セリフだけではなく情景描写などで語られるシーンが多いので、人それぞれの感じ方が出来るのも良いと思います。演出もそうですが、人物の対比も象徴的で、主人公・比呂美の関係と乃絵・兄の関係、比呂美と眞一郎母、比呂美と乃絵兄など似たもの同士や同じような境遇であったりと、設定だけみるとゲームチックであったりしますがそれを安っぽく見せず、素直に感情移入できるストーリー・演出は秀逸ですね。また、にわとりのネーミングも傑出しています。
個人的には乃絵の天真爛漫さも良いですが、自己嫌悪に悩む人間っぽい比呂美の弱さが好きです。
比呂美の見開いた瞳も大きな見所ですね。
広くお奨め出来る良作だと思います。
(※以下はラストネタバレ)
特に印象に残った場面を2つあげると、
1つは、比呂美のために眞一郎が喧嘩をしたときに負った傷を防波堤で乃絵が指でつつくシーン。どこかの文学小説みたいなシーンですが、乃絵の色んな感情がないまぜになったような切ない表情もあいまって何ともいえない趣を漂わせています。このシーンでどうしようもなく結末が暗示されているようにも思えます。
2つめはラストの抱擁シーン。これはバイク事故の際の場面とリフレクトしており、全く同じ情景ですがその行為に至る眞一郎の心情が全く異なり、自らの意思で乃絵への想い・痛みを背負った上で能動的に選択した行動であることに大きな意味が含まれているように感じました。まさに物語のラストを飾るに相応しい名場面だったと思います。
2013.03.03 21:51投稿 2013.07.19一部修正