takumi@ さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
ひとり静かに生と死、生き方について見つめなおしたくなる味わい深い作品
今まで観たどのアニメとも違う雰囲気を持った作品だった。
思想や宗教、哲学的でもある内容はもちろんだが、それよりも
赤みを極力抑え、全体的にグリーンの強いセピア風な色調と
舞台となる街の雰囲気が、イタリアかスペインの田舎町のように見え
ピアノやギターを中心とした透明感と郷愁をそそる感じのあたたかい音楽から
昔に観たビクトリ・エリセ監督の映画『ミツバチのささやき』
『マルメロの陽光』『エル・スール』のような印象を受けた。
一言で言うと「ひとりで静かに生と死について考えたくなる作品」
高い壁に囲まれたグリと呼ばれるヨーロッパ風の古びた街。
大きな繭から生まれた灰羽と呼ばれる人たちは、背中に淡い灰色の小さな羽を持ち、
頭には光の輪があるのだが、「天使」という言葉は一切出てこないし
実際に天使とは別物らしい。その街には灰羽ではない人間たちも暮らしているが、
灰羽たちはオールドホームと呼ばれる廃墟のような建物に住み
着る服はすべて人間たちの着古した古着であり、年齢は小さな子どもからさまざま。
壁から外の世界には行けず、そのほかにも厳しい掟があり、
生活は決して豊かではないが、灰羽連盟という組織からの援助とともに
その中でつつましく、楽しく穏やかに過ごしている。
だが時折、ある巣立ちの時期を迎えた灰羽がひっそりといなくなる。
物語が動き出すのはここから。
繭の中での夢以外、自分に対しての記憶がないのはなぜか。
この街の存在、そしてこの街で生活するその意味とは。
また、巣立ちとは何なのか。
壁の向こうには何があり、繭の中で見た夢は何を意味するのか。
また、その夢を元に名前が与えられるのはなぜか。
羽の色がまだらに黒ずむ罪憑きとは何なのか。
羽を再び淡い灰色にするには、何が必要なのか。
果ては、その街で与えられた仕事を使命としている意味までもが
観ていくうちに自分の中で答えが浮かび上がってくる。
作品の中で誰かが答えをハッキリこうだと説明することはあえて避け、
あくまでも観ている人が受け取っていく手法は賛否あるかもしれないが、
僕はそういう観方がけっこう好きなので心地良かったし、最終的にはすごく感動できた。
頭を逆さにして空から一直線に落ちていく少女。
何かを必死で訴えようとするカラス。
冒頭から伏線というよりはキーワードとなるものがたくさん散りばめられ、
ある程度、ヒントになるようなことは登場人物たちのセリフによって
説明はされるものの、肝心の答えは視聴者1人1人に投げかけられる。
そういう作品はよく「丸投げ」と言われてしまうが、この作品の場合
何が言いたいのかは、すごく伝わってきやすかった。
たぶん、宗教色の強い内容のため、あえて明快にしていない部分が多く、
観た人それぞれの経験や信じているものによって、
受け取り方もさまざまになるのを良しとしているのだと思う。
だからキリスト教や仏教に当てはめて考えるも良し、それ以外の宗教や思想でも良し。
しかし、信仰しているものによっては反発を感じる人もいるかもしれない。
でも、どんな宗教を信仰していようと、そこには共通点が1つある。
それは「信じることが大切」ということ。
この作品はその点、問題なくわかりやすくメッセージを放ってくれる。
僕の場合は自分の中にある死生観と、すごく近いものを感じることができて
嬉しかったし、いろいろと納得できたので良かった。
でも、もっとじっくり考えてみたい点、謎が残っているのでそれは今後の課題かな。
だって、白黒答えをハッキリ出すのじゃなく、灰色の羽を持つ人たちのお話なのだからね(笑)
■今現在は何の宗教にも属していない自分としての解釈
<世界観とそれぞれの意味>
{netabare}
「羽と光輪は、この世界で償うべき罪のないことの証」だというセリフはあったが、
飛ぶことのできない小さな羽と、ひな鳥の羽のような淡い灰色は
未熟者の象徴ということなのではないだろうか。
そして頭の上の光輪は、巣立つ頃消えかけることから
灰羽としての寿命をあらわすのかもなと思った。
さらに、街の人が言う「灰羽は神の祝福を得た者」という言葉から、
それは事故や自殺で一度死んだ人間(実際は天寿を全うしていない者)の中から、
もう一度生まれ変わるチャンスを与えられた者、ということではないかと。
灰羽として過ごしていく日々の中で自分を見つめなおし、
繭の中で見た夢⇒自分の死の瞬間の風景から、自分の犯した罪に気づき、
誰かに許され、救われることにより、巣立ち⇒「再生」を迎える。
自分の罪に気づけない者や、報われない否定的な想いを持つ者(自殺者だった者)は
羽が黒ずみ始めてしまうが、その罪を思い出して救いを求め、
許しを得た者は色を戻すことができるのだと思う。
また、グリという街では贅沢や無駄を避けつつ、生前と同じようにさまざまな人とふれあい、
助け合いながら過ごすことで、あたたかで清らかな魂を取り戻す役割と、
自分の起源となるような本質をあらわす「真名」をみつけだす「試練」が必要。
それによって、カルマが断ち切られる、あるいは浄化され、
ようやく再生への巣立ちを許されるのかも。
結局、自殺という自分で死を選んでしまうという罪は、自分で自分を檻に閉じ込め
他人を拒絶してしまったことに起因しているという考え。
逆に言えば、誰かに救いと赦しを求めることのできる「信頼」があれば
諦めずに済んだという教えでもある。
何かに救いや助けを求める時、その相手を信じていないとできないわけで、
しかし自殺したくなるほどの悲しみや憎しみ、どん底を這うような苦しみを味わうと、
他人なんか信じられず、こういう教えとか考えって払いのけたくなるものだが、
それを救うために宗教があるのだという前提で考えていくとこうならざるを得ない。
なにしろ宗教は「信仰」で成り立っているものだからね。
まずは「信じなさい」というわけだ。
{/netabare}
<では、グリの街に住む灰羽以外の人々は何なのか?>
{netabare}
一旦死んで、再生するまでに試練を課せられながら魂を浄化する世界なので、
灰羽および灰羽連盟の人以外の人々は、神様の分身とも考えられる。
規則もあり、質素ではあるが現世とほぼ同じように過ごしながら、
人として生きる穏やかさ、人を信じる気持ちを育て、色々なことに気づかせてくれる存在
ということなのではないだろうか。
優しいパン屋さん、古着屋さん、もうすぐ赤ちゃんを産む図書館司書など。
大晦日にそれらお世話になった人々に、感謝の意を込めて贈る鈴の実のエピソードが
とても良かったし、象徴的だった。
{/netabare}
<共学の灰工場にいる男の灰羽たち>
{netabare}
主人公であるラッカが住むオールドホームは女性と子どもたちだけだが
男女ともに暮らしている地域も少しだが描かれていた。
そこでの男の子はけっこうやんちゃで、女の子もちょっと雰囲気が違う。
灰羽にもおそらくランクみたいなものがあるのかもしれない。
その人の罪の種類、死に方によって償い方も違うから区別されているのかも。
{/netabare}
<冒頭に登場したカラスは何だったのか?>
{netabare}
最初のうちは、ラッカの生前の死の瞬間、助けようとした鳥なのだと思っていたが
繭の中で眠っている時、繭を真っ先に見つけたレキが、日ごと繭に
話しかけていたシーンがあるので、その声と想いが鳥の姿となって
ラッカの夢の中で登場したのではないだろうか。最終回を観ててそう確信できた。
また、鳥はグリの世界でも唯一、壁を越えるのを許されている存在であり、
日々灰羽たちを見守っているようなカットもたくさんあって象徴的だった。
{/netabare}
<レキの存在>
{netabare}
さらに、レキの真名からいくと灰羽たちを助け、救い導くものの意味がある。
しかし7年という歳月をここで暮らし、そろそろ期限的なものを迎えていた。
そこに生まれたラッカを救い、彼女からも救われたことを最後に、
ようやく罪を赦され、巣立つことができたのではないだろうか。
{/netabare}
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いろいろ考察はしてみたが、正解はひとつじゃないような気もする。
だから断定はしたくないし、できない。
自分の考えとしては、「あの世」というものが本当にあるのかどうかはわからないけれど、
現世で味わう天国や地獄のような気持ちもある意味、試練であり魂の育成と思うし
前世での罪は今世で自分が背負い、多くの試練や褒美を与えられながら
それをどう解消していくかによって、来世での自分が決まるような気もしていて。
でも、この作品のように{netabare} 前世と現世の間の短い時間、
救われないまま死を迎えてしまった魂を浄化する{/netabare}
グリの街みたいな場所があったらいいなとは思った。
そこでただ単純に善行を積むとかじゃなく、日々のさまざまな出来事の中で
気づかせていく、思い出させていく、というのが好感持てる。
音楽もほんとうに素晴らしかった。
原作は同人誌だったらしいが、とても心に残る良い作品だったと思う。