Tuna560 さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
『千年女優』作品紹介と総評
今敏監督のオリジナルアニメ作品。
今監督作品は何作か観ましたが、この作品が一番のお気に入りです。
(あらすじ)
芸能界を引退して久しい伝説の大女優・藤原千代子は、自分の所属していた映画会社「銀映」の古い撮影所が老朽化によって取り壊されることについてのインタビューの依頼を承諾し、それまで一切受けなかった取材に30年ぶりに応じた。千代子のファンだった立花源也は、カメラマンの井田恭二と共にインタビュアーとして千代子の家を訪れるが、立花はインタビューの前に千代子に小さな箱を渡す。その中に入っていたのは、古めかしい鍵だった。そして鍵を手に取った千代子は、鍵を見つめながら小声で呟いた。
「一番大切なものを開ける鍵…」
少しずつ自分の過去を語りだす千代子。しかし千代子の話が進むにつれて、彼女の半生の記憶と映画の世界が段々と混じりあっていく…。(wikipedia参照)
千代子の半生と、鍵の持ち主(”鍵の君”)に寄せた想いを綴ったドキュメンタリーとでも言いましょうか、追体験と言いましょうか…。
彼女の出演した映画作品を劇中劇(幻想世界)として組み込み、まるでオムニバス作品を観ているかの様な感覚に陥りました。劇中劇の時代設定は戦国時代や幕末、戦時中から未来までと様々で、黒澤明監督の『夢』が連想されました。(実際に、黒澤監督の『蜘蛛巣城』の有名シーンが出て来たからかもしれませんが…。)
しかし、その劇中劇は千代子の半生とリンクしているため、一つの物語として成立しています。また、その幻想世界に入り込んでしまった立花と井田が視聴者と立場が似ているため、代わる代わる世界観に対応し易く感じました。
本作のテーマとしては「愛の形」ではないかと思います。
{netabare}”鍵の君”に逢いたいが為に女優の道を選ぶ千代子。最初は彼がいるであろう満州に渡る為、戦後は彼への想いと女優業を結びつけ映画に出演し続けます。映画に出演することで、彼に自分の現在の姿を見せたいという気持ちもあったかもしれませんね。
しかし、彼との再会の望みが絶たれても、千代子は女優業を続けます。それは、役を演じることを通してのみ彼と繋がることができ、彼を想い続けることが出来るから。
「私、何処までも貴方に会いに行きます」
「あの人を追い掛けている私が好きなの」
これらの千代子のセリフは、その現れだと感じました。
千代子にとって、「彼への想い」と「女優業」は切っても切り離せない関係へとなり、これこそが千代子の「愛の形」だと感じました。「愛すること」=「生きること」…一種のアイデンティティの形成ですね。
そして、もう一つ気になったのは「月」を用いた暗喩です。
”鍵の君”は月に対し、「十四日の月が、一番好きだ」というセリフを述べています。それは、月が満月に向かって満ちるからで、満月は欠けるしかないからであると。
千代子の追憶の最後の世界観は月面の世界。宇宙船に乗り込み、月面から飛び立つ千恵子の姿は、満月から飛び立つ様にも見えます。それは、月が満月から欠けていくことを意味し、千代子が死に向かっていくことを表してるのではないかと思いました。
たった90分の作品ですが、女優一人の一生が凝縮されていることに、とても感動しました。{/netabare}
この斬新な切り口で描かれた女優の人生は、アニメでしか表現出来ないことではないかと思います。
様々な作品の中で”生きた”彼女こそ、まさしく”千年女優”だと感じました。