てけ さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
2つに分断されたストーリーについて行けるか
原作未読。
2022年10月31日、フルダイブ方式のMMORPG「ソードアート・オンライン」が発売された。
主人公のキリトは、ベータバージョンのテストプレイヤーであり、他人より情報を多く持っていた。
意気揚々とゲームを始めるキリト。
しかし、ソードアート・オンラインには恐るべき仕掛けが施されていた。
序盤に多くの専門用語が飛び出してきます。
また、オンラインゲーム独特のシステムや風習など、経験者でないとわからない展開が序盤から繰り広げられるため、ある程度の予備知識があったほうがいいと思います。
↓ネタバレではなく、予備知識です。不要な人は読み飛ばしてください↓
{netabare}
ベータテスター:
オンラインゲームが正式稼働する前段階で、テストに参加する人たちのこと。この段階でバグやステータスの調整を行う。修正を繰り返す必要があり、サーバーに負荷がかかるため、少ない人数でのテストが基本。キリトはこのテストに選ばれた1000人のうちの1人。事前にゲーム内容をある程度知っているため、一般プレイヤーより情報面で有利となる。
スキル:
ゲーム内では自由に動けるわけではなく、一定時間の「溜め」を条件にして発動できる技がある。一番強い技をただ連発するだけではゲームとして面白みがないし、弱い技を生かす意味でも、時間制限がかけられているのが一般的。
また、攻撃に限らず、料理だったり、武器製造だったり、自分の好みにあったスキルを鍛えて、それを商売にすることもできる。何を選択するかはプレイヤー次第。
パーティー:
一緒に戦うメンバーのこと。一時的なもの。敵が落としたアイテムの分配でもめることも。
スイッチ:
攻撃担当や防御担当の切り換え。たとえば、大技を出すため、一時的に他のパーティーメンバーに攻撃や防御を任せ、大技の準備が整ったら、攻撃するプレイヤーを切り替えて敵にたたき込むなど。慣れないパーティーならなおのこと「スイッチ」という合図が必要になる。
ギルド:
オンラインゲーム内で作られるグループ。小規模なものから大規模なものまであり、運営方針もさまざま。交流、情報交換、資産の共有、助け合いなどができる。まったりおしゃべりをメインにするギルドもあれば、レベル上げの効率を追求した軍隊のようなギルドもある。あくまでプレイヤーの集まりであるため、裏切り行為も可能。そういう風習に縛られるのを嫌い、ギルドに加入していないプレイヤーをソロプレイヤーと呼ぶ。
PK:
Player Killの略。つまりゲーム内での人殺し。導入しているゲームとしていないゲームがあるが、SAOでは認められている。通常、オンラインゲームでPKをしたプレイヤーには、何らかのペナルティが課せられる。
チート:
システム上不可能なことを行うため、データを改ざんすること。たとえば、スキルを溜め無しで発動できたり、お金を使っても減らなかったり。不公平であり、ゲームバランスが崩れるため、禁止されている行為。
GM:
Game Masterの略。ゲームバランスを整えたり、イベントを執り行うために存在する特別なプレイヤー。上記のチート行為が可能。
{/netabare}
さて、SAOは多くの見所、多くの欠点がある作品だと思います。
まず惹かれるのはその世界感。
近未来と中世が一緒になったような、独特な雰囲気は魅力的です。
剣を片手にメニュー画面を開く、見ていて新鮮ですね。
戦闘シーンにも力が入っています。
大人数での戦い、剣を使ったラッシュ、迫力があります。
しかし、不自然な点も目立ちます。
ゲームに参加しているのは、日本に住むごく一般の人にもかかわらず、しゃべり方が仰々しい。
たとえば、ゲーム内で「○○様」という敬称を使うのは、雰囲気を出すためとはいえ、違和感が大きいと思います。
そして、キャラクターの心理描写と、緊張感のバランス。
これが一番のポイントで、評価が分かれる部分だと思います。
前半は、緊張感のある中、スピーディーにストーリーが進んでいきます。
しかし、心理描写が雑です。
次々に新キャラクターが出てきてはいなくなり、感情移入している暇がありません。
何より、主人公のキリトが何を考えているかわかりにくいのが、一番の欠点だと思います。
後半になると、今度は心理描写が細かく行われるのですが、前半のような緊張感がなくなってしまいます。
このギャップが、物語を2つに分断してしまっています。
{netabare}
アスナと相思相愛になる過程があっさりしているのに(むしろサチに肩入れしてたような)、後半、アスナにひたすらこだわるキリトには違和感を覚えました。
{/netabare}
その結果、
・心理描写を重視する人は、前半でドロップアウト
・前半の緊張感や世界感に惹かれた人は、右肩下がりのイメージを受けてしまう
という結果を招きかねません。
前半部分を思い切って削って、特定の人物を強調するなど、構成をもう少し工夫する余地があったと思います。
世界感の表現、声優の演技、演出はハイレベルですので、エンターテイメントとしての基本は揃っています。
したがって、
・序盤で主人公に感情移入できるか
・前半と後半のギャップを受け入れられるか
・細かい粗を気にしないか
このあたりが、この作品を楽しめるかどうかの決め手になると思います。
なお、テーマ性は主人公の口から直接語られています。
簡単に言えば「相手の意図がどうであろうと、相手の行動に対処するしかない」ということです。
{netabare}
キリト「誰もがお互いのことを本当には知らない、偽りの世界。現実も、仮想世界も、本質的には変わらない。その人が誰かという疑問に意味はない。出来るのはただ、信じ、受け入れることだけ。自分の認識する誰かが、本当のその人なのだから」
{/netabare}
現実世界でさえ、相手の言動に対応するしかないわけですから、相手の表情や仕草を直接認識できないネット上だと、なおさらそれが目立ちます。
作者は、自分のオンラインゲームの経験上から、それを強く感じ取ったのかもしれません。
私もオンラインゲームのギルドマスターをやっていた経験がありますので、言いたいことは伝わって来ました。
オンラインゲームに限らず、ネット上でのコミュニケーションすべてに共通するテーマ。
あにこれでも同じことが言えると思います。