ぷれんばにら さんの感想・評価
4.5
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「たまこまーけっと」のラインナップ
{netabare}たまこまーけっと。「たまこ」の「まーけっと」。
マーケットには、何か商品が並んでいるのが普通です。では、「たまこまーけっと」に並んでいるもののラインナップとは、一体何でしょうか。
おもち。もちろんそれも並んでいるでしょう。「あの娘は可愛いもち屋の娘」ですから。
でも、ラインナップはそれだけではないと、私は思います。
けいおん!シリーズの作成スタッフという大変大きな看板を背負い、山田尚子監督らが発表した新作品。世間からの注目が相当なものであるのは、山田監督達も当然知っていたはずです。そんな中、あえて原作なしの完全オリジナルアニメというハードルを設定してまで、私達に伝えたかったものは何か。見て欲しかったのは何か。必ず答えがあるはずだと思い、毎回視聴していました。
物語の主人公・北白川たまこは、うさぎ山商店街に住む高校生。おもちと、商店街のことが大好きな、とても心優しい女の子です。
また商店街のみんなも、たまこのことが大好き。たまこが学校に出かけるときは「いってらっしゃい」。下校時は「おかえりなさい」。みんな自分の子供のようにたまこを可愛がっています。
そんなうさぎ山商店街の雰囲気は、本来この世にいるはずのない言葉を話す鳥・デラちゃんをも受け入れてしまいます。最初は戸惑っていた商店街のみんなや、たまこの家族も、すぐにデラちゃんとコミュニケーションできるようになります。その理由は1つ。デラちゃんがたまこと仲良しだから。それだけで、たまこと同じように可愛がってくれる。優しくしてくれる。
最初にこの雰囲気に気付いたのは、3話の主人公である朝霧史織ちゃんだったと私は思います。デラちゃんを抱えながら初めてうさぎ山商店街に来たとき、初対面なのに「たまちゃんのお友達?」と自分を歓迎してくれるみんなに少し戸惑っていた史織ちゃん。しかし、担任の先生をたまこの家に案内する時、担任の先生も自分と同じく歓迎されているのを見て、史織ちゃんがふと、自分が初めて商店街に来た時のことを回想するシーンがあります。「たまこは商店街のみんなに愛されている。たまこがいるから、この商店街の優しい雰囲気がある」と。作品の中で最も重要なシーンの一つです。
現在、うさぎ山商店街のような活気のある商店街が日本で減ってきていると聞きます。「シャッター商店街」そんな言葉も聞かれます。人気がなく、ただシャッターが下りているだけの商店街。それは、何もない道路よりもずっと寂しいものです。0ではなく、マイナスだから。
最終話にも、うさぎ山商店街が一時的にそんな感じになってしまうシーンがあります。ほんの数秒映されるだけで、シャッターが再び開くことも分かっているのですが、その空虚感はたまこにも、私達視聴者にも、何かぐっと心にのしかかるものがあります。
うさぎ山商店街のような商店街が、日本にもっとあってほしい。あるいは、うさぎ山商店街のような商店街を、日本人みんなで守り、次世代に残していきたい。最終話であえて、シャッターが閉まっているだけのうさぎ山商店街を見せた演出に、私は山田監督ら製作スタッフのそんな願いが込められていたように感じました。
「たまこまーけっと」という作品があったことを、忘れてはいけない。私はそんな衝動に駆られ、ブルーレイを単発で全て購入することに決めました。
「たまこまーけっと」には、おもちだけでなく、うさぎ山商店街そのものや、山田監督達からのメッセージ、そして、数え切れないほどの優しさや温かい気持ちが並んでいる。
私には、確かに、そんな風に見えました。{/netabare}