じぇりー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
観るたび心を打つ。言葉の一つ一つの持つ重み。
名前もない、タタラ場の病気で余命いくばくもなさそうな老人がこう言う:
「生きる事はまことに苦しく辛い。世を呪い人を呪い、それでも生きたい」
心に杭が刺さるようだった。同じ思いをしていたから。
そして、名曲「もののけ姫」の一節:
「悲しみと怒りにひそむ
まことの心を知るは森の精
もののけ達だけ」
アシタカがまるでサンの凛とした横顔を思い描きながら紡いだような愛情あふれる詞だと思う。
{netabare}サンは人間として生を受けながら、敢えて人として生きる道を選ばなかった。アシタカと共に人間としての生き方を選べば、人間として、女としての幸福を得られたかもしれない。だが、彼女は彼女を育てた森と森の仲間たちと生きていくことを選んだ。
アシタカも自身の片腕に憑りついた呪いが起こす暴走と本来の自己の持つ良心の狭間で常に戦っている。彼は「人間でありながら、もののけ」になってしまった。
もののけに憑りつかれながらも人間として生きようとするアシタカと、人間として生まれながらももののけとして生きようとするサン。
真逆の道を歩み・選ぶ二人だが、己の信念を貫き、己に課せられた運命に抗う姿は同じものだ。
有名な美和明宏(犬)とのシーンがこの物語の大きなキーと言えると思う。
「お前にサンを救えるのか」
「わからぬ。だがともに生きる事はできる」
2人は離れていても、共に生き続けていくことができるのだろう。道を分かつことになっても。{/netabare}
人間の身勝手な欲望と、思い込みによって迫害を受けるサンを含む森の民たちはまるで、現代における、はみ出し者・出る杭をとことん打ち続ける日本の社会が持つ排他的精神の被害者のように、私の眼には映った。
宮崎駿氏のジブリ作品は、その作品のテーマとメッセージ性の深遠さが、常人にとって不可侵の領域を構築しているだけに、この考察など、まだ上っ面をなぞっているだけにすぎないのだろう。
大人になるにつれ、感じることも変わってくる。だから何度でも見てしまう。
巨匠の勇退によって、新たな「投げかけ」を受けることもできなくなってしまうのは、非常に惜しいところだ。