ソラ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
私はいつからか、自分の生命と自然とを切り離して考えることができなくなっていた。
こう話すのは写真家の星野道夫だ。彼はアラスカに長期滞在し、生涯で数え切れないほどの自然の写真を記録し続けてきた。私はその記録や言葉の数々に鳥肌が立ち、感動して泣いてしまってその場で勢い余って一緒にいた連れと写真展にあった著書まで買ってしまった。
美しいものは美しく。汚いものは汚く。残酷なものは残酷に。獰猛な生物は獰猛に。可愛い生物は可愛く。肯定も否定もしない。そこにある現実をありのままに写す。
そうやってただ、ただひたむきに生き続ける姿に蟲師を重ねてしまう。そんな姿に感銘を受け、自分もついこういう生き方に憧れを抱いてしまうが、それと同時に自分の無力さを実感してしまう。
星野道夫は44歳という若さで自身が自分の生命だと語るヒグマに襲撃されて亡くなっています。
かなり有名な写真家ですが、是非ネットでも写真集でもどのような形でもいいので写真をご覧になって何かを感じ取ってもらいたいです。できれば大きく引き伸ばされた写真展で見ることをおすすめします。
もう一人、中村征夫という写真家は水中の自然を生物を星野道夫と同様、ただひたむきにありのままの自然を記録している人物がいます。彼も私が心が惹かれるような写真を数多く残している。
特に35年間撮り続けている東京湾の写真が印象的だ。
今でも放射性物質で汚染されている東京ですが、彼は今よりさらに排気物質で酷く汚染されていた時期に撮影を始めたのだ。彼が最初に東京湾に潜った時に汚染されていながらも卵を抱えて必死に生きようとする母蟹の写真が印象的だった。
それを見た瞬間、彼はまだこの東京湾は死んでいないと確信し、東京湾を撮りつづけようと思ったと同時にその母蟹に強く感情移入してしまい。
東京湾の母蟹を3匹ほどを東京湾以外の比較的きれいな海へと逃がした時のことを後悔していた。
『これでよかったのか。もしかしたら外敵がいる場所に逃がしたのかもしれない。自分は勝手に自然界の法則に逆らってしまったのではないのか。自分は自然界のことについて何も知らない。』
と。
その姿はまるで5話の『旅をする沼』で人を助けた時のことを悔やんでいたギンコに似ている。
そうやって、彼らの存在は蟲師という作品をまた味わい深くする。
生涯永遠の旅を続けている。
今まで触れることがなかったような日常に触れたことのある人物の話は興味深い。また新しい価値観を自分に生みだしてくれるかもしれないからだ。それがとてつもなく快感なのである。
ある意味、面白いだとか面白くないなどの次元を超えているのかもしれない。
愛すべきフィクションとドキュメンタリーの融合。
■
『(アニメ界、写真界とか)物事に壁なんていらない、なくしてください。あってもつまらないだけだから。』
蟲師のオープニングとエンディングのディレクター菅原一剛という写真家が本編のインタビューで監督に言ったセリフなのですが、自分が日頃から思っていたりすることでもあって聞き入っていた。その言葉が蟲師という作品の本質を象徴している。上で書いたような他ジャンルとの意識の共有をすることで、さらに表現と面白さの幅が広がる。国交と同じ。ジャンルごとに線引きはあると思うけど壁はない。通れないわけではない。
(敬称略失礼しました)