しゅりー さんの感想・評価
4.1
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
置き忘れた物を感じさせる旅
惑星連合に属する植民惑星カーマインで先代の記憶を継承して
人々を導く預言者、詩女(うため)となった少女ベリン。
任地である都へと旅に出る彼女を標的にしたテロが計画されていると報せ、
「貧乏くじ」だと言いながら部隊を率いて警護に訪れた帝国第三皇子トリハロン。
二人が旅の中でお互いの価値観をぶつけ合いながら次第にわかりあっていく物語。
ファイブスター物語(以下FSS)の永野護さんの原作、監督、脚本で制作された劇場作品。
制作はオートマチック・フラワーズ・スタジオ、角川書店とクレジットされています。
以前から少人数体制で制作されているらしいという話だけは雑誌で目にしていました。
タイトルまでの映像などからFSSと繋がる世界観なのだろうなと思います。
しかし、FSS自体昔の映画とコミック1、2巻あたりを眺めた程度の知識しかないので
あまり設定云々の詳細な部分は気にせず観てみました。
本作のロボットデザインはL.E.D.ミラージュなどの頃よりも
オーガニック(ブレン)的な側面が増えた印象を持ちました。
戦闘中にゴティックメード(以下GTM):カイゼリンの装甲各部が
様々な色に光る描写は、カイゼリンと搭乗者トリハロンの
感情が各色ごとに表現されているように感じられておもしろいです。
GTMはそれほど過激な戦闘はしませんが、GTMの動作に感じる
息吹のようなものやGTMのいる状況の描き方が好印象です。
どんなに素晴らしいデザインのロボットが出てきても、その巨大な存在が
人々から見てどう見えるのか、どんなスケールで動いているのかといった
部分の描写が弱いと巨大ロボットらしく見えないと思うことがあります。
そうした部分について、周囲が荒野で人間との対比が出来るシーンも少ないながら、
自然に巨大ロボットが動いているように感じられる構図、重々しい動きが
描写されていたのがこのアニメの凄さではないかと思っています。
上記のような「自然さ」はロボットの出ていない場面においても感じました。
例えば劇中に雨の中、外を眺めるためにカーテンをめくるシーンがあります。
最近の劇場アニメならカーテンをめくるまでの一連の動きの中で室内と室外を
それぞれ見せて舞台の説明を優先する事が多いかなと思います。
ところが本作は外からのアングルで室内のキャラがカーテンをめくるのを
静かに見せてくれる。これが、雨が吹き荒れる外と暖かな灯の室内の温度差を
少ない絵の動きで出しているように思ったのです。
結局そのカーテンの向こうの室内やその他多くの構造物の中の様子は
劇中であまり描かれず、他にも動きの少ないシーンが多いため
舞台設定などに興味のある人は不満に思うかもしれません。
この部分を少ない描写での演出の妙ととるか、少数精鋭の限界と見るかで
また印象は違ってきそうな気がします。
{netabare}個人的には話が多少前後しますが戦ってほしかったフォルムのGTMが飛行シーンのみで
戦闘がないなど大物らしさのあるロボ、キャラに肩透かしを感じる部分はありました。
伝統の物干し竿の出番はないのですか。そうですか…。{/netabare}
キャラクターは基本的に永野護さんらしい手足の長い独特のフォルムで
意匠の細かい服もかなり出てきますが、あまりアニメで不自然は感じませんでした。
またベリンやトリハロンが皮肉を言ったり、一喜一憂する表情描写の数々が
独特な顔立ちのなかで心に突き刺さる強い印象を与えてくれました。
キャストはベテランの声優さんが多く名を連ねていて、
演技そのものも素晴らしかったですが、中でも特筆すべきは
80年代から全く衰えを知らない、むしろ以前よりもベリンのような
少女の役が活き活きと演じられているような川村万梨阿さん仕事の素晴らしさです。
全体を観終わって内容に目新しさは感じませんし、退屈に感じるかもしれない
部分はあるのですが、個人的に無視出来ない何かを感じるアニメでもありました。
武器や戦いを忌避するベリンと自身の持つ力の意義を強く意識しているトリハロン。
二人の交わす言葉の内容だけでなく、その言葉を発する表情やその場面の色使い。
物語内の風景、その他のキャラクターの何気ない仕草、ロボットの存在感などに
どこかに置き忘れたような懐かしさを匂わせる。そんな印象を感じるアニメでした。
永野護さんのデザイン、FSS的な世界観に興味のある方は機会があればご覧ください。