hiroshi5 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
夏目と小泉八雲
以前、霊的存在が人間の精神にどのような影響を与えるのかということを考えている時に幼い頃読んでいた「怪談」という本を思い出した。
私は霊を見たこともなければ、その存在も肯定していない。しかし、宗教や心霊というものを信じることによって心的影響があることは肯定している。
私も受験時には毎日の様に最寄りの神社にお賽銭を投げては合格祈願をしていた。お賽銭を投げることで、私が何かをしているという満足感に浸れるのと同時に、不合格でもそれは一部神様のせいだと罪を押し付けることができるからだろう。
しかし、意外にも振り返ってみれば私も幽霊や怪談を信じていた時期があった。それの大本が小泉八雲の「怪談」だろう。
今ではお馴染みの「雪女」や「ろくろ首」は小泉八雲が執筆したことで一般的に広まったとされている。
単なる偶然だろうが、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは夏目に似た人生を送っている。
2歳の頃に両親が離婚し、大叔母の家に預けられ、その後も家を転々と変わったとされている。
16歳の時に左目を怪我で失明。同年に父が病死、翌年に大叔母が破産してハーンは退学を余儀なくされる。
19歳でアメリカに渡り、24歳で新聞記者になる。
その頃、初めて英訳された「古事記」に興味を持ち、日本に渡ることを夢見る。
40歳を迎えた頃、初めて日本に渡り、英語教師になる。就職先となった学校は偶然にも「古事記」にも出てくる出雲。
彼は教師をしながら出雲大社を初め、様々な日本の神にまつわる場所を訪れた。
翌年には女中であった小泉セツと結婚する。
セツとの結婚生活は一風変わっており、夜な夜なセツが出雲に伝わる昔話をハーンに語った。特にハーンは怪談に興味を示し、セツの話を英訳して出版したのが「怪談」だ。
幼少のころのハーンは極端に臆病で、夢の中や、時には昼でさえ、オバケのようなものを見た、と彼自身語っている。その時期のその恐怖について、彼は「夢魔の感触」に書いている。
おそらく、幽霊の恐怖の起こりは、幽霊を信じることとひとしく、やはり夢からはじまったものなのだろう。とにかく、特異な恐怖である。これほど強い恐怖もないが、同時にまた、これほど正体の分からない恐怖もない(『小泉八雲作品集』第九巻。)
夏目のおける幽霊の存在は「恐怖」とはだいぶ違うが、共通する点も多い。
人間の神聖な精神や根本的な感情「喜怒哀楽」といったものを直接的に表現し、具体化したものが幽霊や霊的存在だとするなら、小泉八雲の日本に対する精神と夏目が持つ優しさは同じだと思えて仕方が無い。
小泉八雲は日本人の謙虚な態度をこう説明している。
日本人の精神には常に神の存在が垣間みれる。自然(神)を支配下の置くのではなく、共に歩んでいる。
残念ながら、彼が来日した頃には明治維新が始まっており、彼が賞賛した日本人の独自の精神は蔑ろになることになる。
もし、小泉八雲が現代に生きていたならば、彼は「夏目友人長」を見てどう評価するのか見てみたいものだ。