イシカワ(辻斬り) さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
全アニメシリーズの中央に位置する作品
記載されているレビューに対する反論・論戦を行いたい人は、メッセージ欄やメールで送りつけるのではなく、正しいと思う主張を自らのレビューに記載する形で行ってもらいたい。
なおこれらのレビューは個人的推論に則ったものである。
言い切っているような表現も、独自の解釈の一環であり、一方的な決め付け・断定をしているのではないものだと思ってもらいたい。
まず断わっておきたいのであるが、このレビューを読む人は、以下の攻殻アニメシリーズの一覧をすべて視聴終了した人に限らせていただきたい。
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX
攻殻機動隊S.A.C 2nd GIG
GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊
イノセンス –INNOCENCE
攻殻機動隊S.A.C. Solid State Societyソリッドステートソサイエティ
なぜなら、内容がすべての作品に関わってくるからである。
攻殻アニメシリーズは前後の繋がりはない、パラレルワールドであるとのコメントが発信されたこともあり、繋がりがあることについて話し合おうとすると、否定的な言動をした視聴者と衝突してしまうことがあった。
そこで、どのように繋がっていたのかを、全シリーズにまたがって、説明していこうという試みをしたいと思う。
他の作品の繋がりや、時間軸の前後が存在していることを示唆する内容は、作品内に出ているのであるが、もっとも顕著な内容は、台詞である。次に関連事項だ。
結論から先にいわせてもらうと、GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊という作品は、すべての作品の中央に位置しているだけでなく、時間軸としても中間点だ、というのが筆者の見解だ。
まず、STAND ALONE COMPLEXとS.A.C 2nd GIGの時間系列について。
注目すべき台詞・内容について。
S.A.C 2nd GIGの第一話、再起動という名称。
再起動という題名は、公安9課の再起動を表している。つまり、一度を停止している、ということである。ではいつ停止したのか。なにぶん第一話以前に停止していなければならない。なぜなら、一話より前の設定がないと、そういう作りにはならないからだ。では、どこで9課が停止したのか。それは、STAND ALONE COMPLEXの第24話 孤城落日 ANNIHILATIONで、9課を武力制圧しようとする厚生労働省の黒幕達が用意した部隊の突入によってである。罠に嵌められたが、荒巻課長の取引により、危機を脱した。9課は再び表向きには存在しない部隊となった。
そして再起動では、少佐がこんな台詞を口にしている。
草薙少佐「今の内務省自体、国内各省庁のクッション役としてしか機能していない。大臣の首が挿げ替わっていないのは、何処からも脅威と思われていない証拠でしょうね。今迄はそれが9課の隠れ蓑になっていた訳だけど」
前回までは、内務大臣の部下、内務省所属という形であったのが、再起動の回で、総理大臣直属の部隊に変更された。原作では最初から総理大臣だけが命令できる権限を持つ特殊部隊という設定だった。
草薙少佐「ラボで構造解析されたタチコマを復元したの。今日から9課の一員だ」
タチコマ「そーゆー事。宜しくね、バトーさんっ」
STAND ALONE COMPLEXでは、タチコマはラボに送られ構造解析されていた。前作との繋がりは自然と見えてくる。
笑い男事件に関連する、二つの作品にまたがる台詞
S.A.C 2nd GIG第5話 動機ある者たち INDUCTANCEより。
警察庁長官「何らかの情報を媒介にした、笑い男事件タイプのテロ群の台頭だ」
これは政府要人たちの会議が開かれているシーンでの発言だ。笑い男タイプ、ということからも、時間軸として過去に笑い男事件が起きていなければこの台詞を用いることは不適切となる。
STAND ALONE COMPLEX第22話 疑獄 SCANDAL
荒巻の実の兄、洋輔が、招慰難民地区にて発見されると言うニュースが飛び込む。
招慰難民地区はS.A.C 2nd GIGの重要な地域だが、この回はSTAND ALONE COMPLEXであって2nd GIGではない。洋輔はS.A.C 2nd GIG第23話 橋が落ちる日 MARTIAL LAWにも登場してクゼと会話している。
同じ設定の別次元の話、近似値の平行世界で、時間の流れがストレートに過去から未来へ流れている、という見方は可能だろう。タチコマのラボ送りの一件は同じ時間軸の流れ、過去から未来に流れているという見方はできる。
しかし、作者側から、視聴者へのメッセージとして、『前作を見ているとわかります』という決定的な見せ方だという指摘とは、また違っている。時間がストレートに過去から未来に移動しているかという点とは別に、『前作との関連性』を作者側が意図しているか、という点についてである。ストーリーが一連のものとして見立てて適切かどうかはまた異なるし、そういう風に制作側が意図したといえるとはまだこの段階では断定できない。
STAND ALONE COMPLEXとS.A.C 2nd GIG
確実に他の作品と繋がっているという決定的な点について
バトー「残念だったな。ん……?」
ワタナベ「やあ……」
バトー「てめえは!?」
荒巻「貴様ら!いつからこの件に謀計をめぐらせていた!?」
草薙「課長!」
荒巻「急げ!奴を消させてはならん!」
トグサ「少佐!」
これはS.A.C 2nd GIGのラスト、第26話 憂国への帰還 ENDLESS ∞ GIGに登場する「ワタナベ」をバトーと荒巻が発見した際に発した台詞であるが、S.A.C 2nd GIGすべてを通しても、この「ワタナベ」の登場した場面はこの回のこのシーンだけだったと思う。にもかかわらず、いきなりな台詞だ。
はっきりいって、前もっての説明などまったくない。名前すら呼ばれない。S.A.C 2nd GIGだけ視聴していた人には何者かもわからない。
このワタナベは、前作STAND ALONE COMPLEXの第10話 密林航路にうってつけの日 JUNGLE CRUISEに登場して、名前を名乗っている。
サトウ「CIAのサトウ・スズキです」
ワタナベ「ワタナベ・タナカです」
作者側は、前作を視聴した人にだけわかるよう、わざわざこのような作りをしたと、独断と偏見を以て意見したいと思う。
パラレルワールドであるのだから、いくら同じ登場人物が出てきたとしても関連性はない……といっても、CIAが2nd GIGの事件に絡んでいたという「視聴者への見せ方」は「制作者自身によって他の作品との関連性があることへの示唆を明示した」としかいいようがない。というのが筆者の見解だ。
時間軸としてSTAND ALONE COMPLEX→S.A.C 2nd GIGとなる。
個別の11人事件の終わり、2nd GIG第26話 憂国への帰還 ENDLESS ∞ GIG
桜の24時間監視監視を決め込んでいた9課のシーン。
トグサ「少佐、まさか全てに達観しちゃった、とか言うんじゃないでしょうね?」
ここで気になったのは、二つのキーワード「少佐」と「達観」である。達観すると何が起きたのか、である。実は、このキーワードを考えた時、筆者は他のシリーズでの台詞を思い出していたのである。
傀儡廻の事件、攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society
草薙「私は何に達観していたのかしら?何を探してネットを彷徨って居たんだと思う?真理、知己、それとも特定の誰か・・・もしかして自分の非力さを、組織やシステムのせいにしていただけなのかしら?」
バトー「なあんだ。随分としおらしいじゃねえか。色々やって気が済んだか?で?これからどうする?また個人的推論に則った事件への介入って奴を、一人で続けてくつもりか?」
草薙「それも限界かもね・・・規範の中に居る時は、それを窮屈と感じるけど、規範無き行為はまた行為として成立しない。結局堂々巡り」
バトー「なあんだそりゃ?そりゃつまり9課に戻るって事か?」
2nd GIGで達観した少佐は、トクザの指摘どおり、Solid State Societyで帰還して、何かに達観していたのかしら? と続いているのである。これは口にしているキャラクターは違うものの、かなり意図的なものだと推察できる。
自分の非力さを、組織やシステムのせいにしていただけ、というところをみると、そうしたかった理由があったのだということになる。その理由が原因となり、放浪という結果を生んだ……達観に至った原因、放浪して9課に戻ってきたという結末。この辺りから時間軸の流れを整理してみようと思う。
2nd GIGで達観→Solid State Societyで帰還。時間軸として、2nd GIGが過去で、Solid State Societyは未来の話となる。
もう少しわかりやすく、事件の中心人物や名称などを使うと、個別の11人事件のほうが、傀儡廻より過去の話ということになってくる。
傀儡廻事件、Solid State Societyでは、少佐の帰還直前に荒巻とトグサの会話がある。
荒巻「ふぅ・・・トグサ、少佐が9課を去ってから、どれ位になる?」
トグサ「そろそろ2年、ですかね」
荒巻「そうか・・・」
失踪してから、9課に戻らなかった空白期間が2年、少佐がいなくなったというシナリオが過去にあったことを示唆している。そして、失踪するシナリオというと、GHOST IN THE SHELL、人形使い、プロジェクト2501なのだ。
繋げてみると、笑い男→個別の11人→プロジェクト2501→傀儡廻の順番である。
一つだけ残されたのはイノセンス –INNOCENCEだが、これもまた、GHOST IN THE SHELLと繋がりがあるのだ。
GHOST IN THE SHELLでの終盤、失踪直前に少佐はバトーにこういっている。
草薙少佐「2501・・・それいつか、再会する時の合言葉にしましょ」
INNOCENCEでは、ハッカーであるキムの根城にバトーとトグサが入り込んだ時、少女型の儀体が、2501と続いて書かれたトランプ型のカードを四枚並べているシーンがある。この少女型の儀体に、筆者は見覚えがあった。GHOST IN THE SHELLでバトーが少佐のために用意した少女型儀体とそっくりであるし、ゴスロリの服装もほぼ同じだ。一部ファンの間では、この少佐のことを「コドモトコ」などと呼称していた。二つの作品はコドモトコで繋がっていたわけである。
INNOCENCEだけは、特別な二つ名、名称らしきものがない。
笑い男→個別の11人→プロジェクト2501→INNOCENCE→傀儡廻という順番で繋がった。
自分の非力さを、組織やシステムのせいにしていただけなのかしら? という少佐失踪の理由とはなんだったのか。少佐が悩んでいた、様子がおかしかったのは、全作品をあげると二か所である。長い間こうしてチェックを繰り返してみると、押井監督のやり方がわかってくる。
1.置かれている人物の相対関係が極度に類似。
2.わかりやすいキーワードがある。
GHOST IN THE SHELL
荒巻「あいつ、どうかしたのか?」
バトー「人形遣いの一件以来変なんだって、総合評価のレポートに書いといたでしょうが!読んでねぇのかよ・・・」
これはGHOST IN THE SHELLの荒巻とバトーの台詞だが、非常に類似した話が2nd GIGに出てきている。これまで監督が仕掛けを作っていた内容からすると、類似性を確認することで、ある程度推察可能となってきていた。そこで、比較してみよう。
2nd GIG第22話 無人街 REVERSAL PROCESS
荒巻「バトー、少佐の奴はどうしたんだ?」
バトー「出島でクゼの電脳に潜ってから少し変だって、報告書にも書いたでしょうが」
少佐が変だという内容があり、それを荒巻とバトーが報告書という形で話をしている。
内容は、それぞれ、人形遣いとクゼである。
第20話 北端の混迷 FABRICATE FOG
バトー「ちっ、まるで思春期の餓鬼が運命の相手と出会っちまったって面だな」
これはクゼと少佐が初めて接触した後の言葉だ。
2nd GIG 第23話 橋が落ちる日 MARTIAL LAW
バトー「お前の外部記憶を使ってゴーダと話した時、悪いと思ったがクゼについての記憶を覗かせて貰った」
草薙「で?」
バトー「別に何かを見たって訳じゃねえんだが、クゼに特別な感情がある様だな。奴の脳に潜った時何があった?」
草薙「別に何かあった訳じゃない。だが奴の記憶に触れた時、昔に別れた誰かの様な気がしてな」
昔に別れた誰か、については、恐らく幼少時のクゼだろう。
2nd GIG第11話 草迷宮 affection
草薙「そう・・・話してくれて有難う。きっと女の子も初めて好きになった男の子を、今でも探しているんでしょうね」
老婦人「初めて好きになった?」
飛行機事故により、クゼと少佐はお互いが儀体となり、体に違和感を感じ続けるようになった。
飛行機事故にあったクゼと少佐は、両想いの初恋であったことがわかる。意外な一面といえるだろう。
2nd GIG 第25話 楽園の向こうへ THIS SIDE OF JUSTICE
草薙「で、復讐をどう果たすつもりだ?」
クゼ「俺に結線している者の記憶とゴーストをネット上に運び去る。核が投下されればそれで彼等も肉体を喪失するが強制的な進化を遂げる可能性が手に入る」
草薙「彼等がネット上で個を特定し続けられる可能性は?」
クゼ「それは分からない。だが先駆者として下部構造に残った人間に対し絶えず上部構造を意識させ、啓発していく存在にはなれるだろう。太古の昔人類が霊的な存在に対し尊敬や畏怖を感じてきた様にな」
草薙「それがお前を落胆させた者達への復讐と救済か?」
クゼ「俺は革命と信じているがな。お前も見た所全身義体の様だな。なら肉体と精神の不一致と言う疑心暗鬼に悩まされた経験は少なくはあるまい。どうだ、俺と一緒に来るか?」
草薙「難民は、行くつもりなのか?」
クゼ「ああ。残念ながらな。彼等の多くは核による自爆テロと言うシナリオを実践する事の方を望んでいる。自分達は負けなかったと思い込みたいんだろう。それもまた低きに流れる行為だと言うのに・・・」
草薙「そうか」
草薙「バトー。私は今からクゼの言う方法で難民を救出してみる。お前は核攻撃の事実を自衛軍に知らせるんだ。聞いてるか?バトー」
バトー「馬鹿野郎・・・!お前を一人で行かせやしない・・・待ってろ・・・行かせやしねえぞ!」
一度は、クゼと共にネットの向こう側にあると信じた楽園へと行こうとした少佐。しかし、クゼは結果的には暗殺され、真実は闇に葬られた。しかし、クゼ自身は、ゴーストダビングならぬ、ゴーストムーブでネットに意識とゴーストをアップロードさせていた節がある。
少佐が探していたものとは、クゼの意識とゴーストではなかったか。
2nd GIG以降、クゼの意識とゴーストがどこにいったのか、それらしい「続き」がなかった。と筆者は考えていたのである。無論、「事実上、連続したストーリーの関連性がある」と個人的推論に則った構造解析によって筋立てした、極めて個人的な思想に基づくものだ。
もし、「事実上、連続したストーリーの関連性がある」の中にクゼのゴーストと意識の部分が秘められていたとしたら……
GHOST IN THE SHELLにて
解析班の赤服が、人形遣い、2501について説明している台詞である。
「ゴーストをダビングした時に生じる擬似ゴーストラインに似ていなくもないんですが、ダビングに特有の情報の劣化が見られません。いずれにせよ障壁周辺の地図を作成した上で潜ってみなけりゃ確証はありませんがね。じゃ、私あれの検査の途中なんで」
ゴーストダビングは、ダビングすることによる劣化があった。しかし、このゴーストには劣化は見当たらないのである。それは、ゴーストダビングしたのではなく、まるごとムーブしたからではないのか。
GHOST IN THE SHELLにて
人形遣いと少佐の台詞
草薙「最後に一つだけ・・・私を選んだ理由は?」
人形遣い「私達は似た者同士だ。まるで鏡を挟んで向き合う実体と虚像の様に」
キーワードは「少佐」と「似ている」だ。
この少佐と似ているというキーワードは、2nd GIGに何度か登場している。
2nd GIG第17話 修好母子 RED DATA
チャイ「俺、最初にあんたを見た時ロウに似てるなって思ったんだ。だから誘った。でももういいよ。俺は一人でやる。ロウだっていつも一人で戦ってたんだ。」
ロウとは、クゼのことである。
老板「お前もロウと同じ人種か?」
少佐と似ているというキーワードはシリーズ全体を通しても、2nd GIGとGHOST IN THE SHELLだけだ。ここまで来て、直感的に、これは仕掛けをしたのだろう……と筆者は感じたのである。
クゼが少佐のもとに戻ってきた。無残にも変わり果てた姿で。
しかし、ひょっとするとまだ、クゼの意識とゴーストのオリジナルが現存しているかもしれない。そう思って、少佐はひたすらに、ネットの海でさまよっていたのかもしれない。
GHOST IN THE SHELL
「我童子のときは語ることも童子のごとく、思うことも童子のごとく、論ずることも童子のごとくなりしが、人と成りては童子のことを棄てたり」
原型は聖書の引用部分であるらしいこの言葉は、結婚の時に用いるような言葉だということだ。
人形遣いをなぜ少佐が受け入れたのか。
その答えは、クゼのゴーストにあるとしたら……
しかし、これは人間としての結婚といってよいものなのか。
INNOCENCEでの少佐の台詞。
「孤独に歩め。 悪をなさず、 求めるところは少なく。 林の中の象のように」
この文章はブッダからの引用だが……
原型はこのようなものであるらしい。
「聡明な伴侶を得られるのなら共に歩め
聡明な人と歩めないのなら一人歩め
愚かなものを道連れとするな。
孤独に歩め、悪を為さず
求めるところは少なく、林の中の象のように」
結局、GHOST IN THE SHELLでの、少佐と人形遣いの融合は人間でいうところの結婚には至らなかった、伴侶たりえなかったことを指す、孤独に歩め=一人歩め、なのではないかと感じたのである。
これは言外の原型の言葉の中に隠された暗号のようにも感じられたのである。
以上、これが筆者の見立てた攻殻の筋立てであり、憶測である。無論、これが事実であるかどうかなど定かではない。