メルヘン◆エッヘン さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
麦が香り、秋の風が体を吹き抜ける。冷たい空気に身震いし、市場の喧噪が香ってくる。
素晴らしい作品です。世界でもっと評価を受けていいかもしれないと思います。日本的モチーフなどはないのだから、特に。絶賛します。
少し変わり者視点でレビューを続けます。
■素朴で、悠然と流れる“空気感"と自然と対峙する人間との関係性は、作り物の世界なのに生きているかのように感じさせる。
麦が香る。秋の風が体を吹き抜ける。このような"空気感"は簡単に醸成できるものではないのでしょう。とてもよい印象を持ちました。
この作品には、時代が移り変わろうとする瞬間を舞台にした面白さがあります。
作品の通底にあるのは、おそらく地中海北、東周辺のヨーロッパ、オリエントでしょうか。それらを模しており、都市国家から大規模な国家への変遷期にあたるのだろうと私の知識では考えました。ガラスも一般的ではないようです。
むろんモザイクのように様々な要素がちりばめられているわけで、特定するのはヤボな話です。大切なことは、「時代の端境期」にあり、それが深みを与えているのは確かなようです。
それらをバックグラウンドにわたしたちの目の前にホロの個の物語が、美しくそして哀切をこめて描かれていきます。
さて、ここでいう「端境期」とは、
①▲「神話や伝説」と「人間」がそれなりに訣別
②▲宗教が組織化され権力組織を構成(本来の意図を喪失)
③▲経済社会の発展、商業の組織化(知識集約化)
など、流通、経済社会、権力構造の「構造変革の初期段階」にある世界ということです。知識化していく社会の前段階です。
この世界(設定ではない)の中であったればこそ、北の故郷へと向かうヒロインの思いがより鮮明になり、古き良き時代と新しい合理化された時代の狭間が舞台となった中で、生き生きとした登場人物たちのドラマが生まれたのではないかと思わずにはいられません。
①の象徴はむろん、「伝説としての豊穣の神として人間に信じられなくなってきた」ホロに凝縮されており、③は「合理主義的な視点で物事を考える」クロエとみることができます。
ちなみに、②の宗教権威の画一化は事前段階ですから、他民族宗教の空気は残っているようです。北欧神話の神が死んでいった過程を振り返ってみると理解しやすいでしょう。
皮肉なことに、行商人ロレンスはホロの豊穣の神としての役割を否定する役回りで物語はじめから登場するのです。――この構造はすぐには私は気が付きませんでした。やられました。――ホロを否定する代表勢力は、実はクロエよりもロレンスです。ここは大事かもしれません。というのは、老獪なホロがそれに気がついていないとも思えないからです。そして、そのふたりが旅の仲間となるわけですから、気がついてしまうとときおり見せるホロの諦念、あるいは悟りにも似た言動がより重みをまして感じ取れるのかもしれません。
■すなおに楽しんだ、ホロのギャップ萌え
もちろん、老獪であるはずのヒロインのなぜかかわいらしい台詞回し、時折みせるしぐさのかわいらしさのギャップなどがアニメらしい面白さ、楽しさにもつながっています。(個人的には原作表紙絵のヒロイン風がより魅力ですが)
■楽曲にはさほど興味をもたないのだけれども、本作にはうなりました。
音楽を含めオープニング、本編、エンディング。作品世界を伝えるべく最適の解を求めてクリエイトされた作品ではないかと思います。
「無関係な楽曲選定になっている作品」と比較して考えると、本作ではBGM含めてアコースティックな楽曲が統一採用され、全体に適合します。大人の事情で、作品の質を下げるような無粋な真似はされていません。好感がもてます。
■作品のトーン、色彩計画
美しい抑えられたトーンではじまるオープニングは決して派手ではないものの、そのまま自然に本編につながっていきます。そして、その色合いがとてもすばらしいのです。既に高い評価を受けている作品ではありますが、評価数値よりも一度は観ていただきたい名品です。良いモノに巡り会えました。
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当初は、パッケージにあるようなネコ耳(狼耳だけど)が登場する萌え系だと思い敬遠しました。誤解でした。
※ネタバレなしで、この魅力が伝えられていれば嬉しく思います。一話で引き込まれ、半日で見終えました。