にゃっき♪ さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
When the Going Gets Tough, the Tough Get Going
少人数の密室劇ではなく、閉鎖された世界でのシミュレーションというべきでしょうか。
艦内の支配体制は現実の社会制度をなぞるように、リーダーが変わるごとに封建制度、無法地帯、恐怖政治と変化し、怪しげな宗教まで現れる始末。
傲慢、嫉妬、怒り、怠惰、強欲など人のマイナスの感情描写を嫌というほど見せられるので、精神的な耐久度が落ちているときは控えた方がいいと思いますが、一度は視聴してみることをお薦めしたい作品です。
最初はただのエリート意識の塊でしかなかったツヴァイのルクスンを筆頭に成長を遂げたキャラもいますし、冷酷なブルーのようなキャラの意外な一面まで描いていたのは好感がもてましたが、仮面を剥がされ、壊れていったキャラが何と多い事でしょう。
しかし、異常としか思えない行動の動機づけを、理不尽な迫害や近親相姦(?)、果ては殺人にいたるまで、生い立ちや過去のトラウマにいちいち丁寧にかぶせていたことはどうにも鼻につくし、何度も回想シーンを繰り返すのは明らかに説明が多すぎるように思いました。
主人公である昴治は感情移入するのがためらわれるくらい、無能なうえに周囲に流されやすく、自分ならどう動くかの判断を視聴者に委ねるために、艦内の状況の移り変わりを見渡せる場所におかれたモブキャラと考えた方が良いような扱いです。
けれど、どんなに無力であっても絶望せずに真剣に問題と向きあう彼の姿勢がクライマックス直前までぶれなかった事が、この作品の良心であり救いであったように思います。それゆえ決断に真剣さが微塵もない昴治の捨て身の説得は、イクミやファイナ、シュタインの身勝手な行動を衆目に晒し、心の病巣をえぐるだけの暴力行為でしかなかったように感じました。現実問題、私たちは政治に対してあまりにも無力です。しかしどうせ無力であるからと、無関心に何も見ず何も考えない事を選択して良いはずがありません。情報操作が当たり前に行われているなかで、周囲を見渡せる場所に身をおき、流されずに自分の判断が出来るように努めるべきでしょう。
全滅して当たり前にもかかわらず、学生から犠牲者を出さずに、希望に溢れるような終わり方にしたのは夕方に放送していた限界なのでしょうか。
刺激を食わせるだけ食わせた鬱展開の果てに、無理矢理に大団円に繋げた印象が強く、道理を放棄してはじめて成立するような虚飾でかためた美しいエンディングは残念としか言えません。
個人的にはラストに不満を残しはしましたが、内向的な問題を打開し、無力さに絶望しない道を示すことで、現代の社会状況を観察視点から描こうとした素晴らしい意欲作だと思います。