九条 さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
自己は一人の他者である。
人は状況に応じて様々な自己を使い分けており、他者によって形成される自己も、同じく複数存在する。
つまり、誰もが複数の自己を生きているのであり、自己の固有性に対する懐疑へ誘われる恐れがある。
本作では、主人公(未麻)の本来的な自己、アイドルとしての自己、女優としての自己の三者間の葛藤を
サイコホラーに実体化しており、自己が他者化される現象において連続性や統一性を揺らがせている。
アイドル時代の偶像としての未麻を求める支持層と、女優としての未麻が抱く自己の規定に齟齬があり
未麻という実像を大衆が共有する偶像が侵食していき、終局的に現実と虚構の境界線も混濁していく。
この演出方法は、今敏監督ならではの手法であり、「妄想代理人」や「パプリカ」の原点に当たる部分を
幻影や精神異常を以て収斂されている。そしてそれらが客観を有さず未麻の主観で語られることにより
ストーカー事件や殺人事件にミステリアスさを拡散し、自己は一人の他者であり得ることを痛感させる。