hiroshi5 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
音楽に国境は存在する。
音楽を通して心を通わす物語。P.A.Worksとあって作画は相変わらず素晴らしいが、「Another」や「花咲くいろは」と比べると少しクオリティーが低かったように感じた。
キャラクターの個性が突飛していなかったため、誰が主人公なのかも良く分からず、また物語の展開もやや遅いという不満点はあった。しかし、全体として一貫性を保持しており、特質性がないため大衆に共感されやすい内容になっていたと思う。
友情、愛情、その他もろもろ、口に出すと恥ずかしいようなものを上手く表現できていた。
しかし、それらを前面的に押し出しすぎていた感は否めない。
物語の完成度は高いしメッセージ性も充分だと思うが、少し全体をこじんまりさせ過ぎてしまったというのが個人的総評だ。
かなり抽象的なコメントになってしまったが、まぁ観てもらった方が早い。
さて、ここで少し音楽についての社会的通念を記しておく。
作中でこんなセリフがあったかは覚えていないが、よく人々は「音楽に国境はない」「音楽は国境や人種を越える」と言ったセリフを発言する。
しかし、残念ながら音楽に国境は存在する。
正確に言えば、音楽と文化は切り離すことができない。
「音楽に国境はない」という意味はおそらく音楽的な快感、リズムは多分に生理的なものであるから、そこには一定の普遍性があると主張しているのだろう。だが、ただの音階的な快感に身をゆだねているだけでは深い理解とはいえない。
国境や時代を超え、人々の心を打つ音楽を作った偉大な作曲家バッハやモーツァルトは強い個性を持った人物であり、クラシック音楽そのものもヨーロッパの文明やキリスト教の強い影響があり、民族の血と涙の歴史が深くこめられているからだ。つまり、強烈な特殊性を有しているのである。だからバッハやモーツァルトを深く理解するためには、その人となりや文化的背景、そしてその民族に固有なものを学ばなければ、本当の意味で国境をこえたことにはならないのである。
これは「狼と香辛料II」レビューでも書いたことの続きになるが、音楽とは客観的に理解するものではなく、主観的に理解するものだ。
「コクリコ坂から」レビューで書いた「上を向いて歩こう」もその具体例だ。
実際、アメリカに渡って「スキヤキ」として流行した時、殆どのアメリカ人は歌詞を正しく理解せず、単なるハッピーソングだと思い込んでいたらしい。
「上を向いて歩こう」ほど悲しくて寂しい歌はないのに、アメリカ的解釈をしていてはこの曲の価値は半減してしまう。
もう一つ例を挙げておこう。
まずはこの曲を聴いて頂きたい。
http://www.youtube.com/watch?v=8QPD0-_qPMI
タイトルは「strange fruit」奇妙な果実。
この曲を始めて聴いて「涙を流した」という話はそこらじゅうにある。しかし、その人たちは大抵、この曲に込められた意味、当時の社会背景、そしてビリー・ホリデーという女性を知れば知るほど始めに流した己の涙の軽さに失望する。
奇妙な果実とは首吊りされた黒人の頭を指す。黒人差別が酷かった当時、彼女は凄まじい暴行を受けていた。夫からも暴力を振るわれ、酒に溺れ、麻薬に手を出し、喉を潰しても、晩年の彼女は叫ぶようにしてこの曲を歌い続けた。
その、暗いくらい歴史無しにしてこの曲をどう理解するのか?
これが、圧倒的な直感では超えられない壁であり、音楽を隔てる境界線だ。
だから音楽に国境は存在する。