しゅりー さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
衰退した世界で繰り広げられる長閑なSF
2012年夏、AIC ASTA制作。
PCにインストールして遊ぶ恋愛ADV(とあとがきでは書いてある)のシナリオに
多く携わっていた田中ロミオさんのライトノベルを原作に持つ全12話のアニメ。
監督は最近「ペルソナ4」等でお名前を拝見した岸誠二さん。
シリーズ構成はこちらも岸監督作品でよくお名前を目にする上江洲誠さん。
現人類が衰退によって今の文明を維持出来なくなり数世紀が経った世界。
旧人類(今の人)である「わたし」が謎の新人類、「妖精さん」との間を取り持つ
国連の調停官(既に名前負けしているありふれた職業)となって色々苦労するお話です。
放送前はあのフ○フルの幼体だかギ○ギ亜種だかみたいな格好の
プロセスチキンさんの出てくるPVのせいで不気味な印象を持っていました。
それがいざ蓋を開けてみるととても長閑で親しみやすいクスノキの里の風景に
仕草がかわいらしい妖精さんという2つの要素でかなり観やすい物に感じまして。
ですがしかし。風景と妖精さんに騙されて観てみるとそこに待っているのは
今では廃れてしまったようなSFネタが厳然と存在するエピソードの数々。
このアニメ、何度私を騙してくれれば気が済むのでしょう。
{netabare}以下ちょっと妄想ですが6話にあの話が来たのは1979年から1980年頃にかけて
公開されたという映画「スタートレック」に対する皮肉になるのでしょうか?
スペースシャトル「エンタープライズ」は宇宙に行けませんし、あの探査機は6号までは
製造されてません。 昔の人が描いた宇宙への夢って儚くなってきましたね…。{/netabare}
戸部淑さんの原作イラストと坂井久太さんのキャラデザで描かれた主人公の「わたし」も
外見通りでは済まない軽い毒舌、かつ俗物っぷりを見せつけてくれます。
私は世代的にコジコジやぼのぼの等の持っていたブラックな部分を思い出したりしました。
そんな「わたし」を演じる中原麻衣さんの語りは本当にキャラクターに合っていて、
原作を読んでみると自然に文章が中原さんの声で想像出来て私キモイと引いてしまいました。
映像面では妖精さんの愛らしい仕草に癒されつつ、ストーリーが進むにつれて
本編内のシュールさを際立てる独特なリズム感によってグイグイ引っ張られたイメージです。
どんな驚愕の展開でも「わたし」と同じように脱力した印象で受け止めてしまう
ちょっと危険な世界観がアニメの動きと大谷幸さんの音楽によってよく表現されていました。
世の中ではOPテーマ「リアルワールド」の「衰退ダンス」が人気を博したようですが、
私はEDテーマ「ユメのなかノわたしのユメ」が耳に残ってしまったクチです。
あの伊藤真澄さんの歌声を聴くとどうしても学生時代にWOWOWで観たアニメを思い出すのです。
さて本作については時系列シャッフルの件がかなり物議を醸していました。
1、2話は世界観を説明する取っ掛かりとして、かつインパクトのあるエピソードとして
なかなか優れた話だったと思いますが、中盤はさすがにまだ原作未読だった私にとって
混乱してしまうエピソードがいくつか出てきて困惑しました。
原作既読の方にしてもアニメで観たかったエピソードがスルーされていたりと
色々と不満が出ていたのではないでしょうか。
きっと限られた放送スケジュールで最低限アニメにしたいエピソードを取捨選択されたの
でしょうし、最終話の余韻もかなり素敵に感じたので個人的な不満はそれほど大きくないです。
それでもここまで来たら他のエピソードもしっかりアニメで観たいと思ってしまいます。
BD/DVDでは原作2巻のエピソード「人間さんの、じゃくにくきょうしょく」がショートアニメの
連作で描かれるらしいですが、出来ればTVアニメの2期が観たいです。
全体を通して物語を高評価したい部分とアニメの構成にちょっと不満が残る部分などで
どう人に奨めたものかと戸惑ってしまうアニメですが、個人的には好きな部類に入りました。
妖精さんの容姿に心ときめいた方、画風に似合わないブラックかつシュールなネタを
求めている方は一度観てみてはいかがでしょうか?