STONE さんの感想・評価
3.5
物語 : 3.5
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
一介の少女には大きすぎる問題
「LAST EXILE」の続編ということになっているが、ストーリー自体は
「LAST EXILE」からそのまま続いているわけではなく、舞台を変えた次の時代の話といった
感じ。そういう意味では他の方々が言われているように、前作を未視聴でも話が判るようには
なっている。中盤には一応、前作の総集編も入れてくれているし。
ただ、詳細な部分に関しては前作を視聴していてこそ判るような箇所も多い。世界観や
メカを始めとするガジェットの設定もそうだし、キャラの感情的な部分にしても、例えば
ディーオのヴァンシップの後部座席や誕生日へのこだわりや、アリスティアがジゼルと
ファムの関係を、自分とタチアナの関係に重ね合わせて観るような部分などは前作未視聴だと
判りづらいかもしれない。
ストーリー自体は本作より登場するキャラを中心に動いていくが、前作のキャラも何名か
登場する。この重複キャラの登場の仕方が小出しで上手いことじらされる感じ。
冒頭にディーオを出しておいて、「それだけか」と思っていると、しばらくしてタチアナと
アリスティアのコンビが、中盤にはヴィンセントとアルヴィスが登場。アルヴィスに関しては
中の人が変わっていたけど。
「前作キャラはここまでか」と思っていると、終盤にはソフィアがそれもシルヴァーナに
乗って大トリ登場といった感じで出てくるし、最後の最後には前作の主役コンビである
クラウスとラヴィも出てくると、まあサービス精神旺盛な印象。クラウスとラヴィに関しては
中盤で放映された前作の総集編の最後にも、現在の二人の状況といった感じで描かれていた
けど。
作画に関してはカラーリングなどがかなり鮮明になっており、更にキャラデザインも前作は
絵画的趣きがあったのに対して、本作はいわゆるアニメキャラといった感じになっている。
そのため同じようなメカを使いながらも、前作で感じられたようなレトロフューチャー感は
失われた感じ。
この作風の変化は、前作との統一感を損ねているが、あえて次の時代の話ということを強調
するのであれば、これはこれでありなのかもしれない。
あとメカの描写などは、本作の方が良くなっているが、これは単に作画技術の進歩による
ものなのかな。前作とは8年ぐらいの開きがあるし。
作画の印象とは別に、キャラのファッションなども前作が19世紀のヴィクトリア時代を
思わせるスチームパンク的だったのに対して、本作は20世紀初頭を思わせるディーゼル
パンク的雰囲気を感じる。
ただ、これはアデス連邦の描写が多かったことから感じる印象かもしれない。キルトや
ストールなどはスコットランド風だし、アウグスタの服装はアジア風ではあるが、全体の
印象はやはりナチスドイツを思わせる。
古くは「宇宙戦艦ヤマト」のガミラス帝国や、「機動戦士ガンダム」のジオン公国など、
軍事国家を印象づけるためにナチス風にするのは判りやすいパターンではあるのだが、
個人的にはこういったステレオタイプはあまりいただけず、もっと工夫が欲しいかも。
作品世界の世界情勢は前作より複雑になっており、そのためか前作ではあまり描かれ
なかった時代の流れなどは本作ではしっかりと描かれている。
前作は主人公を中心とした冒険譚といった感じだったのに対して、本作は激動の時代を
描いた歴史モノといった印象が強い。
そのためか戦闘シーンなども、前作は戦争を描きながらもその中におけるキャラ個人に光を
当てた描写(ヴァンシップの空中戦など)が印象的だったが、本作はもっとマクロ視点に立った
艦隊戦の描写などが多い感じが強かった。
世界情勢に関しておおざっぱに書いてしまうと、エグザイルによって帰還した人々と、元々
残っていた人々との闘争を描いたもので、この辺はイスラエルを中心とする中東情勢を
思わせるものがある。
作品全体にある種の悲劇性を感じさせるが、これは前作におけるデルフィーネのような
個人的欲望により行動するような、いわゆる悪役キャラがいないことが大きい。
前作のような勧善懲悪が根底にあるような作品の場合、その敵を倒す方向で動いていけば、
それなりに作品にカタルシスを感じることができるが、本作の場合は各キャラがそれぞれ、
この世界を良くするために行動した結果衝突してしまうため、どうしても悲劇性が伴って
しまう。皆が皆、それぞれの正義を持っているからやっかいなことになる。
結局は世界が平和になるには、「各国が和平を結んで共存していく」のと、「強国が全てを
統一してしまう」のとどちらがいいの?、といったところで、一度は前者に絶望して後者を
推し進めたルスキニアも、最終的には再び前者に希望を託す形を取り、作品は前者を選ぶ形で
終了したが、「これで世界平和になりました」と単純に言えるものではない。
最終回こそ、第2回グランレースで皆が笑い合うシーンで終わっていたが、戦争による
遺恨は各個人には残っているだろうし、戦後の復興で各国家間の利害が合わない場合はまた
紛争が起きるかもしれない。何よりもルスキニアが言っていた、限られた資源に対して人口が
多すぎるという、需要に対して供給が不足しているという根本的問題がまったく解決されて
いないことは、今後の大きな問題に繋がりそう。
まあ、世界平和のための正解などないというのが本当のところで、正解があるのなら現実
世界での紛争などはとっくに無くなっているだろうし。
そういった意味で、一応は締めるところを締めてくれたが、どうも収まりの悪さが
ぬぐえない感のある作品。こういったテーマを扱う以上、この収まりの悪さはどうしようも
ないのかな。
主人公に関して、前作のクラウスが内に闘志を秘めたタイプだったのに対して、本作の
ファムは感情表現豊かで、考えるより先に行動するタイプ。ファムが引っ張るべきところを
引っ張り、ナビのジゼルが抑えるところを抑える感じで、なかなかいいコンビだった。
こんなタイプの主役ゆえに、前作のクラウスに較べて要所要所で大活躍を見せ、それは
各局面においては大きな変化をもたらす。しかし、世界情勢が複雑かつ、規模が大きくなった
ためか、一介の少女がいくら活躍しても時代はそれとは関係なく動いていく感じで、ある種の
無力感さえ感じてしまった。
作品世界のスケールが大きいため、個々のキャラの動きでどうなるものではないという
感じ。
音楽に関して、前作も作品スケールに合った雄大さを感じさせる良好なものであったが、
本作は前述のように悲劇性が強まったためか、雄大さに加えて叙情性が増した感じ。
個人的には本作の方がより好みだった。