STONE さんの感想・評価

3.4
物語 : 2.5 作画 : 4.5 声優 : 3.0 音楽 : 4.5 キャラ : 2.5 状態：観終わった

世界観が素晴らしいだけに、勿体ない

　いわゆるスチームパンク作品の一つなのかな？。
　戦艦やヴァンシップの動力源はクラウディア機関をベースにしているため、他のスチーム
パンク作品のように蒸気機関があちこちに見られるような感じではないが、19世紀の
ヴィクトリア時代風のデザインで統一された感のあるガジェット等が、スチームパンク的で
いい雰囲気を醸し出している。風俗などに関してはアナトレーが西欧風で、デュシスが中央
アジア風な印象。
　加えてくすんだ感のあるブラウン、グレーを中心とした色使いが、レトロ風なこの世界を
より効果的に見せてくれる。
　この世界観は目に見えるものだけでなく、そこの世界に生きる人々の精神性も現代人の
それとは異なる。まだ騎士道精神が宿る、そんな世界。
　更に音楽が素晴らしく、一つの架空世界を丸々描くという、スケールの大きさをより盛り
上げてくれた。

　なんといってもこの作品の魅力は、ヴァンシップによる飛行シーン。この辺はプロペラ機
全盛の20世紀前半の感覚で、特にパイロットが直に風を感じる第一次世界大戦時の空の
エース達の物語を彷彿とさせる。

　こんな感じで、映像と音は非常に個性的で素晴らしかったのだが・・・。

　話は主人公であるクラウスと、彼が乗り込むことになる戦艦シルヴァーナを中心に
描かれる。
　そのためクラウスとシルヴァーナ周辺の出来事は割と克明に判るが、この世界全体の動きは
あまり描かれておらず、時代の流れなどはいささか判りづらかった。
　歴史的な大事などはピンポイントで描かれるが、そこに至るまでのいきさつが描かれて
いないため、やけに唐突な印象があった。
　こういったブツ切り感はストーリー全体の勢いも失っており、終盤こそ盛り上がって
いたが、全体的にはやけに淡々とした印象が強い。

　判りづらいと言えば、そもそも全体的な説明が足りない印象。
　対立するアナトレーとデュシスの二国があり、ハイテクノロジーを独占することで二国の
上位に位置するギルドがあるという状況の中、ギルドの支配から脱するため二国が同盟を
結んでギルドに挑む、と各国家の立ち位置やおおざっぱな流れはシンプルで判りやすい
ものだが、そこに至るまでのいきさつや背景などがさっぱり判らない。
　あまりにも判らないのでネットで調べてみたら、作品内では語られていないことが次々と
判明。
　ネットに迅速なアクセスができるようになってから、この作品に限らずこういった作品が
増えてきたように思うが、他のメディアで補完しなければ理解できないというのは作品として
問題なのでは？
　一歩譲って尺の問題で断念したというのなら判らなくもないが、そこまでギチギチな印象の
脚本でもなかったしなあ。

　架空世界とはいえ、激動の歴史を描いた作品ゆえに多くのキャラが登場するが、クラウス
中心に描いた作品のせいか、あまり他のキャラの掘り下げができておらず、正直なところ
魅力的なキャラが少なかった。
　個として味のあるキャラはそれなりにいたのだが、どうもストーリーにうまく絡んでこない
感じ。

　ではクラウスのみ光っているかと言うと、肝心のクラウスがあまりパッとしないと言うか。
　主人公が巻き込まれる形でストーリーの流れに乗ってしまうのはよくあるパターンで
あるのだが、間違いなく激動の時代の中心の一つであるシルヴァーナにいながら、あまりにも
存在感がなく、序盤でアルヴィスを守るために頑張ったのが嘘みたい。

　時代の流れを縦軸とするなら、個々のキャラの感情の動きが横軸。その横軸の大きな要素
として恋愛を描くのは結構常套手段。
　この作品もクラウスとラヴィ、クラウスとタチアナ、アレックスとソフィア、更に恋多き男
モランなどが描かれるが、いずれも触れられている程度でストーリーの大きなウェイトを
占めるまでに至らず。
　恋愛というのはキャラの感情を大きく動かすため、キャラの魅力を引き出すのに効果的な
だけになんとも勿体ない。

　結局、雰囲気を楽しむ作品になってしまった感が強いが、こういった激動の時代を描いた
作品はその流れを克明に追うのが楽しいのに。
　世界観などは非常に良かったために凄く残念感が残る作品でした。