ぱるうらら さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
この映画の中心は一体誰なのでしょう…。 キョン?ハルヒ?それとも長門?
『涼宮ハルヒの消失』はラノベ原作、SF学園系劇場版アニメです。
この『消失』編は、ハルヒシリーズ特有の非日常なSFの話、特に今作は時間平面の改変という壮大な設定の下、話が進んでいきました。
この『涼宮ハルヒの消失』のラノベ原作は私にとって、未だこれを超えるものはないと言えるくらい衝撃的な作品でした。
故に、それを劇場版アニメにすることについては当初若干の不安がありました。なぜなら、原作における壮大な設定・内容、特に世界改変後のキョンの喪失感をしっかりと表現することが出来るのか、原作の内容を時間内に纏め上げることが出来るのかと思っていたため。
その結果が皆さんもご存知の通り『エンドレスエイト』の無茶な放送の仕方。おそらく元々その枠に消失編がはいっていたからかも知れません。そして劇場版のあの2時間43分という放映時間、アニメのOPとEDを抜いた放送時間を約20分と考えて約8話分に渡る内容。(アニメ映画においては歴代2番目の長さだそうです)消失編をやるには妥当な時間でしょう。
特にハルヒを発見するまでのキョンの葛藤、不安、そして消失感を表現するには時間を掛けねばなりませんから。
そさもなくば、キョンに対して感情移入することはまずないでしょう。キョンへ感情移入をすることがこのアニメの本質に触れる、つまり楽しむための大きな土台となっているのですから。そして、やはり原作においてもキョンに感情移入し、あの世界観に入り込むことが楽しむ上での大前提でした。 原作は、ここがとてもうまく表現できていました。
また、原作においては約8ページにわたるキョンの心の声(頭の中)のシーンのアニメーションにおける表現の仕方、これがこのアニメの総合的な評価に?がる重要な一場面で花以下と思い、ここをどうやって表現するのかが私の注目すべき点でした。 ただ頭の中でキョンが語るだけでは芸がありませんからね。
とにかく、この物語を存分に表現するには最低でも2時間43分くらいの時間は必要だったということです。きっと制作会社もそのように思っていたでしょう。限られた時間の中であの場面をどうやって表現するかを...。
上映の結果については、このアニメの知名度がそれほど高くもないのにもかかわらず、また、全国24館のみという小規模公開ながら、公開1週目時点で興行収入2億円という記録をたたき出しました。
私にとっても作画は言うまでもなく、物語の内容も素晴らしい出来だと思いました。ただ、やはり原作と比べると、ハルヒを見つけるまでの過程があまりパッとしなかった印象です。つまり、キョンに対する感情移入をあまりする事が出来なかったなということです。原作を先に見たこともその原因のひとつかもしれませんが、原作の活字にしか表現できないものが感情移入を引き立てていたので、そこがアニメと原作の違いだなと感じました。
しかし、その原作とアニメの差というものを感じさせなかった、もしくは原作よりも良いと思った点(シーン)が5つほどあります。
まず1つ目に、SOS団の部室の本棚の本に挟まっていた希望の光の発見。例のfrom長門の栞です。
あの場面の演出が素晴らしかった。不安・消失感という点で感情移入させられた観客にもホッと安心させるような、衝撃を与えるような、躍動感を与えるような演出&シーンでした。 もちろんこの演出を可能にしたのが声優さんの技量です。素晴らしい演技でした。
次に、ハルヒを発見したシーン。
そこに至るまでに心を散々ズタボロにされたキョンが、キーパーソン:谷口の『そのハルヒって、ひょっとして涼宮ハルヒのことか?』の一言で新たな、元に戻ることが出来るかもしれないという微かな希望の光を見つけ、感情を抑えきれないまま光陽園学院まで走り、そして彼女を発見する。
ここまでにキョンに感情移入を出来た人なら、この突然起こった世界改変における緊張感や不安などは殆んどと言って良いほど無くなったかもしれません。
そして、この場面における演出も非常に良く出来ていました。彼女を発見した時の“スローモーション”と“背景を薄く白くぼやけさせてハルヒを強調する演出”は、不安の絶頂にあったキョンのそれを打ち砕き、えもいえない程の安心感というものを私達視聴者に強く感じさせた気がします。また、それまで殆んど出て来なかったハルヒをという存在をここで強調しているのだなと思いました。それまでは、長門メガネverの印象が強過ぎましたので、うっかり、このシリーズのメインヒロインがハルヒだということを私は忘れてましたし、もうこの映画のヒロインは長門でも良いんじゃないかとも思ってしまいましたw
それまで登場が殆んど無かった涼宮ハルヒですが、この暫く出て来なかったと言う事、そしてキョンがずっと探していたと言う事で勝手にハルヒに対する感情移入が成されていましたし、逆に今回のように暫く出ていなかった方が視聴者に何気なくハルヒの登場を待ち望ませる形となってとても良かったと思います。 今作は素晴らしいタイミングでハルヒを登場させた様な気がします♪
3つ目は、5人が部室に集結し、改変前の長門が残した緊急脱出プログラムとなっているPCが起動、そこには『Ready?』の文字。というシーンです。それまでは、特にこれといった展開も無く話が進んでいきましたが、このシーンで再び緊張感が戻り、皆さんも目を釘付けにして見たはずです。
結果はタイムリープという形でキョンだけ過去へ戻りましたが、その後はアニメ版の『笹の葉ラプソディ』に繫がる展開となり、まさに最高レベルと言っても良いくらいの話の展開、繫がり方だと思いました。この展開についてはアニメ版を見た人意外は『なぜキョンが2人居る? 3年前がどうした?』の様に思うでしょう。やはりこの場面を理解していなければクライマックスの展開においてついて行く事が出来ないと思います。故に消失編から始めて見た人にとっては評価が下がってしまうところなのでしょう。
4つ目は、前にも少し触れましたが『笹の葉ラプソディ』にあった場面を別の視点から見るというシーン。 これに関しては原作の文字による表現よりもずっと良かったです。こういうアニメ特有の演出が原作の良さを補完しているのだなと思いました。
5つ目は、朝倉の登場シーン。これは原作を既に読んだ私にとっても衝撃的なシーンでした。原作で表されていた朝倉図よりも遥かに怖かった…。ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル
あの笑みが非常に恐ろしかったです。
そして同時に流れたBGMがこの衝撃と恐怖の演出を強め、さらにキョンの心の声が恐怖の色に変化したこと、ナイフで刺された時の血の出方と効果音がリアルであること、キョンの表情が『苦』で染まったこと、それを見た長門の恐怖で満ちた表情、剣の舞を踊る朝倉、迸る血痕…。
『恐怖』そして『衝撃』を表現するのに十分過ぎる演出でした。 特に朝倉の動き方は良かったです。そして中の声優さんも素晴らしい演技力を見せ付けてくれました…。
ここは原作を凌駕したシーンだと私は思っています。
私にとってはある意味で一番インパクトのあるシーンであり、この場面を高く評価しています。
全体的に評価をすると、まず、原作の再現度が高いと感じました。これに関しては特に言うことはありません。
そして、視聴者を飽きさせない話の構成が良いと思いました。どういうものかというと、緩い展開→シリアス展開→ホッと一息を付く展開→緩い展開→シリアス展開→クライマックス→Happy End→ちょっとした余韻を残す展開…。
無駄に緩い展開が長々と続くのではなく、ずっとシリアスな展開が続くのでもなく、両方を織り込みながら話が進んで行き、視聴者を疲れさせない(飽きさせない)ような構成になっていたと思いました。
作画に関しては、皆さんが口をそろえて言うようにアニメの中でも最高クラスの素晴らしい出来だと思います。
ただ、アニメにはアニメの良さがあったのですけれど、原作と比較するとやはり原作には及ばなかったなという印象です。
劇場版においては原作ほど感情移入が出来なかったので…。
しかし、この映画の出来は私が今まで見てきたアニメーションの中では最高のものだと思います。
話変わって、私は“キョン”に対してとても感情移入いたしました。
世界が改変され、唯一元の世界の記憶を持ったキョン。キョン本人以外の人との間に記憶に齟齬が生じていており、いなければならない人が消え、そこにいてはおかしい人がいる。つまり、自分の大切な仲間達はある日突然消失した…。
もし、ある日、気が付いたら自分と仲が良かった友達がまったくの他人(容姿はいっしょでも、相手が自分についての記憶をなくしている)になり、それまでに過ごしてきた日々が架空のものとされてしまったら、皆さんはどうに思うでしょうか?
少なくとも、私の場合は人格崩壊したはずです。
自分以外の人たち全員と記憶に齟齬が生じ、自分のそれまでの行いを全否定されるのは、何よりも勝る苦しみでしょう…。
そうやってを考えていく内にキョンに対してもの凄い感情移入をしたという結果です。
よって私的にはこのアニメの中心をキョンにおきましたが、これは視点を変えればハルヒでも長門でも言えることである気がします。果たして皆さんは誰を中心として見ていましたでしょうか。
最後に、ハルヒシリーズの中でも傑作とされる消失編は、やはり期待を裏切りませんでした。そしてこの映画の製作の中心となった京アニには、この素晴らしいアニメ(映画)を作ってくださったことに感謝いたします。
いつか3期を作っていただけることも望みながら...。