hiroshi5 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
Green VS Red Complete Review: New Wave
今作品はルパンジェネレーションの成り行きを描いたものです。
ルパン三世のシリーズでは異色な作風です。しかし、この1時間半に込められた情報量やメッセージはどの作品よりも優れているように思えます。
個人的には「傑作」と賞したいところです。
■設定
物語は平凡な日本を描いていますが、何年かは明らかにされていません。
■作画
今作品の作画はいつものルパンシリーズよりのリアルだったように思えます。特に学校のシーンなどは少し新海誠さんの作画方式に通ずるところがあったように思えました。他にも片山さんなどモブキャラがいつもよりリアルだったような気も。
この作画チェンジは何を意味するのか。
私が思うに作画をリアリスティックにすることで、作品自体を現実的に見せたかったのではないでしょうか。
本作はルパンの存在定義を明確にするもの。そういう意味でエンターテイメントの枠を超えていたように思えます。
現実味を出すことで、作品内容を深く捉えて貰おうとしたんじゃないでしょうか。
■キャラ&物語
・ルパン
ラーメン屋に来たおっさん(本屋のおじさん)が初代ルパン三世。
赤いジャケットのルパンは現在のルパン三世です(ちなみに、このルパンは日本の学校のシーンから分かるように日本人の可能性が高い)。
物語から分かるように、今回の一連の出来事は初代ルパン三世と現役ルパン三世が仕組んだ次世代ルパン三世を決める壮大なカラクリです。
その第一候補が緑ジャケットのヤスオ。
・不二子
ユキコのおばあさんにあたる、寝たきりの女性が初代不二子(である可能性が高い)
緑ジャケットのヤスオと組んだのが現役不二子
次世代は未定。ユキコが候補なのかもしれないが、作中で出てくる偽銭形警部(赤ジャケットルパン)がユキコに聞いた問いに答えられていない。というより、ルパンを(例えそれが恋人であろうと犯罪者であろうと)愛せるか?の問いにNOと答えたまま。
最後のユキコがヤスオを待つシーンが彼女がまだ決断しきっていないことを表しているようにも思える。
・五右衛門
風呂場で斬鉄剣を研いでいたのが初代五右衛門(である可能性が高い)
現在が二代目だと思われる
・次元、銭形
二人とも初代のまま。
次元は子供のリボルバーを見て「おじさんなんか40年も使っている」と発言していたことから、銭形は「片山刑事(63歳)の五つ上」ということから68歳だと判断でき、どちらも初代のメンツであることが明らかになります。
また、二人とも初代から声優をやっていることから変わっていないというメッセージがあるのではないでしょうか(他のキャラは声優が変わったことがある筈)。
■論題
まず、「ルパンとは何なのか」という問いが作品内で問われていましたが、答えも出ていました。まぁこれは初代ルパンが発言していたことから完璧な答えであると断言しても良いと思われます。
答え:自由の象徴
ここで一番注目しなければいけないのは、ルパンは人物では無い、ということ。自由の象徴たる存在こそがルパン三世なのです。
自由、この項目には様々な考えを巡らすことが出来ます。
例えば、
・主観的に捉えて自由なのか、客観的に捉えて自由なのか
・自由は必然なのか偶然なのか。
・自由の前提条件
・不自由との相互関係
これらは、しかし、今作品に置いてあまり重要視されるべき点では無いのです。
今までルパンがやってきた行為=自由、です。
言葉で説明すると、既得権益を主とする莫大な権力を保持する人間たちがさらなる己の利益を欲するが為に行う悪事をルパンが自分の得意技で制裁を下す、ということです。
この制裁こそが、キータームです。制裁とは無秩序の中で起きるものでは無い。社会(秩序の象徴)の中で規定や規則、倫理や道徳に反する行いをした人物に下される罰、それが制裁です。
しかし、ルパンが行っている行動も、また、秩序を乱すもの。ではルパンがやっている行動は何なんだ?という話なんですが、一つこの作品で出てくる重要なセリフをあげたいと思います。
次元と五右衛門に赤ルパンが合流するシーンで次元は
「本物かどうかなんて関係ねぇ。組んだら他のどんなやつよりも面白い。そういう奴のことだろ、ルパンってのは」
と発言しています。
重要なのはこの「面白さ」なんでしょう。彼らの快感はスリルやドラマに通じるところがあります。その「面白さ」を感じることが大前提。社会の秩序はその次、三の次です。
彼らは「犯罪者」だから秩序を乱しながらの制裁をするのでは無くて、「面白さ」を求めるから秩序を乱しながらの制裁を下すのでしょう。
誰もが子供の頃にちょっと危ないことをしたりするように、スリルとは既定された事を破ることで得られる快感です。
逆に言うとルパンたちは「犯罪者」にならなければ、己が求める快感に辿りつけ無い。
そして、その利己主義的行動や発想が単純に「自由」に通じているのだと思われます。
エゴを(他人、または社会が作りあげて来た)秩序に反してまでも押し通す度胸を持つ人物こそが、ルパン三世の肩書きを名乗ることができる前提ということですかね・・・。
■仮説
「ルパンは特定の人物でないことから、その存在に該当する人物が複数いても不思議ではない」から導きだされる一つの仮説があります。
「カリオストロの城」で活躍していたルパン三世は「ワルサーP38」「燃えよ斬鉄剣」「炎の記憶」「ヘミングウェイ・ペーパーの謎」などで活躍していたルパン三世は同一人物だと断定出来ない。もしかしたら違うかもしれないし、同じかもしれない。
実際今作品では、ルパン三世は全て同一人物ではないという設定で物語が作られていました。
物語の初めで登場するルパン三世達。誰が本物で、誰が偽者かと言われていましたが、彼らの中には本物も混じっていたということです。
ルパン三世の肩書きにその人物の本名や履歴に関係はない。単に自由の象徴たる人物になれるだけの技量と勇気があればいいということです。
シーンを一つ思い出しましょう。ルパン三世達が集まって話をしているシーンがありました。あの中でルパンたちが
「つ〜か、一般的には俺の事指す訳じゃん、っというか人気ある訳じゃん。」
「おまえなんか結局何も盗んでないじゃん!」
「でもやっぱさ、こいつの事が一番有名なんだよな」
と発言していました。
ここから分かるように多分あの中の一人が「カリオストロの城」で活躍したルパン三世だと思われます。
そしてそのルパンは一斉検挙される。つまりルパンとは時代によってその存在定義が変わる人物。
過去のルパンはそれ以上でもそれ以下でもない。
新しい時代くれば、その状況に合ったルパン三世が必要になってきます。
これがこの作品の本質であり、テーマでもあります。
■真相
この作品は制作者からの問題提起と言っても良いでしょう。新しい時代のルパンはどんなルパンが良いのか。
このテーマを表すシーンは他にもあります。
・片山さんが病院で余命っぽいことを告げられているシーン。
これはジュネレーションというものが移り変わることを表しています。
・銭形警部が警視庁から軍隊の民営化が国民投票で決まったことを告げるシーン
時代の流れを表しています。
・ナイトホークスの社長が民営の軍隊、核兵器が今の日本に
いかに必要かを述べるシーン
ニーズは時代と共に変わる。ルパン三世も同じです。
最後の場面の話をしましょう。髪を抑えているシーンと、最後のセリフ、「今度の(ルパン)は新型だ!」から分かるように赤ルパンは無事にヤスオを現役ルパンとして迎えたわけです。
私はこの、「今度の(ルパン)は新型だ!」というセリフ程この作品の意味を表している物は無いと思っています。
新型=新しい時代に合ったルパン
ここで注目したいのはヤスオがルパンになりたかった理由です。彼はドラマを求めていた。劇的な何か求めて本物になろうとしていた。
つまり、我々が「メディア」または作中で出ていたフレーズ、「ヒーロー」に求める象徴とは「ドラマ」なのではないでしょうか。
現代人がルパンに求めるものとは、ドラマなのです。そしてそれはルパン三世だけに関する話ではなく、我々若者が現代社会に何を求めるか、でもあるのです。
ルパン=現代社会。ルパン三世を通して、新しい時代の波を表す。その質問と回答は、これから先も続いて行くのでしょう。
■作品をさらに深めよう!
・一つの説があります。
今回核のネタが出て来たのは↓のような背景があるからとかどうとか。
ナイトホークスの社長・日下部は九州弁・長崎のペナント・招き猫(サラリーマン兼軍人)
片山刑事~長崎出身・銭形と同期。つまり原爆症の体験可能性大。
・作画から見るテーマ
この作品で一番混乱しやすいのは作画です。ルパンの顔が皆一緒で、初代などのキャラは以前の面影をまったく見せていない。ここら辺がこの作品の理解の難しさを強めています。
しかし、作中で赤ルパンが言っていたように、問題は顔ではありません。
我々はアニメ(アニメだけではない)というメディアを通して確定された情報を受信していますが、その受信した情報が正しいという保証はどこにもありません。
事実は常に多面体であるように、我々が得た二次情報が真実とは限らない。
実際今まで同一人物だと思われていたルパン三世は複数の人間だったわけです。
また、今作品ではルパンの存在を肯定するのは他人が肯定しなければいけない状況でした。この手のテーマ(自己の存在を肯定する方法)は色んなアニメに存在しますが、ここまでダイレクトに問いかけている作品は少ないのではないでしょうか。
・謎のロボットと核兵器について
本編で片山さんがバス停で銭型警部と話していた時、この話が出ました。憎しみや憎悪といったものを一瞬にして葬り去ることができる。それが核兵器もとい現代兵器です。その技術や事実に片山さんは疑問視していた。
ここで対立するのは次元や五右衛門を含めた鍛錬して磨きあげて来た技を武器とする人間たちです。
どちらが人間の進むべき道として正しいのか。これはこの作品のサブトピックのようなものです。
ロボットが出てくるシーンがありますが、正直あれは意味不明でしたね(笑)
突然出てくるし、空を飛んだ後何も描かれてないし、ニュースにもなっていない。何事も無かったように放置されていました。今回は実験作ということで合理性を追求しないのだろう、と割り切ることも出来ます。
しかし、私が思うに、あのロボットは前述したように、人間が対抗できない強力すぎる力を具現化したものでは無いでしょうか。
本編ではアフロルパンがロボットを操縦して緑ルパンを助ける訳で、これが新しい波を現すものと思われます。
現役ルパンたち →技術や技
次世代ルパンたち→強力な力
この強力な力はある意味「ドラマ」に通ずるところがあると思います。核兵器の使用などは「劇的」変化を望めますしね。
そういう意味でも、視聴者や製作者自身に問いかけた「これからのルパン」に関する質問の一部なのかもしれません。