どうまん さんの感想・評価
2.8
物語 : 1.5
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.5
キャラ : 2.0
状態:観終わった
度の合っていないメガネ
●
周囲を壁に囲まれた、出る事が出来ない隔離された街という設定は、村上春樹の某小説のパロディ。
物語の初めはその不思議な街の様子を、主人公ラッカの目を通して視聴者にガイドするような内容。
所々不思議な単語が出てきて、しかしその詳細は特に触れられる事はなく、幻想的/非現実的な雰囲気を作るのに成功している。
一方で、どうしてもそれだけのアニメとなっている感が否めない。
「壁を越えるという事の意味」や「呪い」などの諸々の現象に関して、徹底的に抽象的な概念として説明をしないまま話を進めている。
ある種セカイ系に似た側面を持ち、同時に「文学的」な解釈も出来るようになっている。
「明確な解釈が無いからこそ探りがいがあって奥深い」と穿って見るとすれば、まさに村上春樹の小説の世界そのものと言って良い。
不思議な世界の不思議な話としては完成されている。
と、それはそれで1つの物語の形にはなるのだが、この作品ではそうした不思議をメインとして人間味の無い人々の不思議な話を描くのではなく、現象に触れて悩み傷つく人(灰羽)の心情を中心に据えて話を進めているので、却って視聴者が感情移入し辛くなっており、たとえば誰かが悲しんでいても「理由はわからないけれど悲しそうにしているから悲しいのだろう」というように、一歩離れた目線からしか心情を探る事が出来ない。
とりわけ主人公の行動の動機はそれら「感情」による所が大きいので、「どうしてそう思うのか」という理由がはっきり分からないとなると、話の展開や説得力に疑問を抱かざるを得ない。
このように序盤で築いた「主人公の目=視聴者の目」という同一性の物語の指向がまるで活かされず、活用されないばかりかむしろ中盤以降からの「主人公と視聴者の乖離」によって、視聴者側が置いて行かれかねないという、情緒を中心としたプロットにおいて致命的とも言えるデメリットを生じさせている。
まとめると、村上春樹的な抽象的で不思議な世界を前提としながら、そうした世界に合わない「掘り下げた心情描写」を両立させようとして、結局どちらも上手く成り立たず、焦点が定まらない結果になったものと考えた。
「不条理に対して抗う灰羽の姿を描く」か、あるいは「不思議な世界での不思議なお話」としていれば、静謐でどこか物悲しい音楽と合わせて、とても良いアニメとなっていたように思う。