どうまん さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
どこまでも丁寧な作品
●物語
作りがとにかく丁寧な作品。
物語の舞台は近未来、架空の都市で、某Project Glassのようなメガネをつけた子供たちの日常と事件を描いている。
そこでは我々の日常とは馴染みのない、物語の中での特有の単語が飛び交い、主人公ヤサコの目を通して視聴者は、電脳世界の陰と光に触れていくことになる。
こうした作りは実にありがちではあるのだが、しかし上手に視聴者にその世界の成り立ちや仕組みを伝えられている物は、あまり多くはない。
設定を盛り込み過ぎたあまりに説明不足になってしまうケースは珍しくなく、その世界での一定のルールの中で人物が思考し動機づけがなされるようなプロットにおいては、設定に関する説明不足の結果として、視聴者を置き去りにしてしまう事が間々ある。
対してこの『電脳コイル』では、あからさまな単語説明をせず(2クール分もあるのもあって)、話を見ていく内に何がどういう物であるかが分かるような作りになっている。
かつ設定の必要な部分部分を効果的に面白く演出する事で、視聴者の関心をそれぞれの設定に向け、どういう物であるかを無意識に定着させている。
そのため設定を刷り込まなくてはという強迫観念を抱くこともなく、自然体で、主人公の目を通して『電脳コイル』の世界を見ていくことが出来るようになっている。
その点が何より丁寧であると感じた。
●プロット
演出や目線と並んで、プロットの敷き方も丁寧。
主人公はあくまでヤサコなのだが、俯瞰的に見ると、ヤサコを含めた3人が主人公とも言える。
ヤサコが視聴者目線、つまり円の外から中心に向けた視線だとすれば、あとの2人は円の中ないしは中心から外に向いた視線と言える。
物語が進むにつれて問題となる「根幹」が現れてくる。
ヤサコはそれに初めてぶつかるのだが、先の2人は既にその根幹に触れた状態でヤサコと出会い、行動をする。
この二方向の視点を基礎とした話づくりは、『電脳コイル』の世界が抱える問題や主題を明確にするのに役立っており、その点でもまた視聴者にとって分かりやすい作りとなっている。
諸々の設定に基づく伏線を回収し、最終的には3人の視点が1か所で交わるようになっている辺り、非常に丁寧に練られたプロットであると言える。
●総じて
様々な固有の設定に準拠した話ではあるが分かりづらさや押しつけがましさはなく、子供の頃の好奇心をくすぐるような関心の引き方につられて、1話また1話と見てしまう。
とにかく分かりやすく、けれど先が明らかではないので、主人公ヤサコの目線に立って、飽きずに見ている事が出来る。
OPEDの素晴らしさ、作画の丁寧さがより一層、この作品の良さを引き立てている。
見て損をすることはないと思う。