STONE さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
心技体の総力戦
原作は未読。
作品の個性ということに関して、現実的な舞台で特異な人間関係でない場合、なんらかの
核となる題材を用意するというのが割と定番。
この作品の競技かるたのようにレアなものを題材とすると、それだけで作品は充分
個性的。
しかし、何故レアかというと現実においてはあまり人気がないから。実際のところ、特に
接点のない自分にとっての競技かるたは、正月明けのニュースで名人戦・クィーン戦が
ちょこっと報道されるぐらいの存在でしかなかった。大概の人は同じじゃない
でしょうか?。
で、なんで人気がないかというと、やっぱり現実においては面白さが伝わりにくいから
だろうと思います。
そうなると重要なのは、伝わりにくい面白さをいかに作品内において伝えられるかという
ことになるが、その点でこの作品は文句なし。
競技かるたのスポーツ的側面はもちろん、高い戦略性・戦術性、更に文化的要素も余す
ところなく伝えてくれる。まじでこの作品で競技人口増えるんじゃないかと思う。
試合シーンが素晴らしく、特に試合における各キャラの緊張感がよく伝わってくる描写が
いい。
試合などの勝負ごとにおいて、面白さを出すためにリアリティを損ねたり、逆に
リアリティを重視するために地味なものになったりすることがあるが、この作品は面白さと
リアリティの両立がうまく図れているという印象。いや、むしろリアリティを重視した
ために競技かるた自体の奥深さが際立ち、それが試合の面白さに繋がっていると言った方が
いいか。
映像や音も臨場感を感じさせるが、リアリティを感じさせる要素の一つに時間が
あるのではないか?と思った。
作品によっては多くを表現するために、ある行為の描写に関して、実際に要する時間より
長い時間を掛けることがある。例えば、ピッチャーが1球投げるシーンに何分も掛けたり。
それ自体は一概に否定できるものではないが、この作品においては一首の歌が読まれて
から、その札が取られるまで時間が短く、キャラの心情描写などは札を取った(取られた)
後になされている。こういった細かい演出がリアリティを感じさせるのに役立って
いるのではないかな。
序盤において、千早、太一、新の小学生時代の出会いと別れ、そして、千早と太一に
とってのかるたとの出会いが描かれる。これ自体話として面白いが、こうやってていねいに
過去を描くことにより、作品世界での現在である高校生としての3人の状況、思考、行動
理念などのキャラ設定が俄然説得力を増してくる。
これは中心となる3人ほどではないにしても、他のキャラも単にその時その時の心情を
描くだけでなく、過去や背景などを描いているために非常に魅力的に感じる。
瑞沢高校競技かるた部のかなちゃん、肉まんくん、机くんなどは、キャラ絵こそ脇役
以外の何者でもない感じだが(失礼)、彼らにフォーカスが当たる時などは主役級の魅力を
放つ。この3人がかるた部に加わっていく過程は、王道冒険モノの仲間が増えていく感じに
似ていて、見ていて楽しかった。
若宮詩暢を始めとする試合相手も同じくといった感じ。特に試合はスキル・体力勝負だけ
ではなく、選手同士の精神性が試合の流れに色濃く出てくるため、前述のように過去や
背景を描くことにより、キャラの魅力だけでなく、試合自体もより面白さを感じさせる。
試合と言えば、キャラのそれぞれの性格や背景が、かるたにおけるプレイスタイルに
出てくるのも面白い。
ドラマとしては、やはり千早、太一、新の3人が中心となって進んでいくが、少女漫画
原作だと三角関係になっていく展開が多い中、恋愛感情を持っているのが太一だけと
いうのが面白い。今後、どう変わっていくのは判りませんが。
そうやって考えると、少女漫画原作でありながら、展開などはむしろ少年漫画のスポーツ
ものに近い印象。
この3人が安易に勝てないのもリアリティがあっていい。3人とも今後も色々と悩み、
努力しながら、ゆっくりと強くなっていくのだろうなと思わせてくれるものがあり、原田
先生じゃないけど、3人を見守りたい気持ちになった。
人間ドラマとしての面白さと、競技ものとしての面白さを両立させつつ、更に
ユーモラスな要素もちゃんと忘れていない作品。