STONE さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
無力の王
原作は未読。
設定がかなり細かく、正直なところ作品内でうまく説明しきれたとは言い難い。2回ほど
全話視聴しても判らない部分が結構あった。
ただ説明不足感があっても面白い作品というのは存在するもので、この作品もそんな
感じ。とにかく作品に勢いがあり、キャラの魅力も相俟って、そういった不満を凌駕した
作品。
実際、事細かく説明をしていったら、ストーリーがまったく進まなくなりそう。
SFとファンタジーを合わせた世界に、更に歴史再現ということで15世紀初頭の日本や
ヨーロッパの要素が入ってくるから、もうなんでもありのカオスワールドといった様相。
色々な要素を取り入れる場合、一歩間違えると収拾が付かなくなることもあるが、この
作品に関してはうまくまとめたなという印象。
こうなると異種バトルとも言うべき、変わったバトルが随所で見られて、なかなか
楽しかった。
序盤においては聖譜歴1648年4月20日という日を5回にわたって描くじっくりとした
ペース。
同じ時間帯も違ったキャラの視点で描くことで、キャラの心情を描くことに成功して
いるし、この4月20日という日を境にこの世界が一変するということを印象付けている。
なかなかうまい演出だなと。
中盤における山場の臨時生徒会を中心に、言葉によるやり取りも印象的だった。
この作品がリアルタイム放映された時期(2011年10月-12月)に近いところだと、
「偽物語」や「Fate/Zero」も対峙する者同士による言葉のやり合いが面白く、かつ
ストーリー上でも重要だったりしたが、この作品での言葉のやりとりは戦術や駆け引きを
駆使したいわゆるディベート(討論)の色合いが強かったのが印象的。
教育ディベートなどでは、あえて自分と異なる考えの側に立たされて討論をすることが
あるが(例えば、原発反対者が原発推進派として討論するなど)、葵・トーリの策略に
乗せられた本多正純などはまさにこれをやらされた感じで、葵・トーリもお馬鹿なようで
いて、結構策士だなと。
ディベートは詰まるところ「白いものを黒と言い含めさせる」ようなところがあるが、
トーリの場合は最終的には言い含めるのではなく、相手の真の思いを引き出すような形で
終わらせている。これは終盤におけるホライゾン・アリアダストとのやり取りでも
そうだし。この辺が彼のやさしさなんだろうなと思う。
後半のホライゾン奪回戦から、次第に加速度がついていき、最後は全速力で駆け抜けた
印象。改めて考えると、この作品って、たった2日間の出来事なんだよねえ。濃密な2日間
だな。
ここでは各キャラが己の能力を発揮して、それぞれが非常に魅力的だが、やはりなんだ
かんだいって主人公のトーリに尽きるのかなと。知恵も力もないが、皆が何かをして
あげたくなる愛される性格で、持たざる者の強みを遺憾なく発揮していた。
このトーリが唯一の術式を使い、代償として悲しむことができなくなる。第1話に
おいて、トーリが泣けるエロゲーを購入して、「泣き納めする」と言っていたが、
これって、ここでの伏線だったんだね。かなり以前からこういう事態も覚悟していたんだ。
ストーリーを動かす根底にあるものは、トーリのホライゾンへの思いというシンプルな
ものだったが、この「思い」がこの作品のキーワードになっているような気がする。
トーリだけでなく、クラスメイト達の友情、本多二代と忠勝の親子愛、トーリと喜美の
姉弟愛、マルゴットとマルガの百合愛、ネイトの民を思う騎士道精神、真喜子の生徒達への
愛、本多忠勝の君主への忠誠心などなど、この作品におけるキャラの他者への思いが非常に
印象的。
バトル主体でありながら、優しい空気感が作品に漂うのは、そのせいなのかなと。