かしろん さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
魅せる演出は京アニ最高の作品へ
【最終話まで見終えて・原作を読んでを追加】
【あらすじ】
{netabare}折木奉太郎は高校1年生。「省エネ」をモットーとし、全ての物事に対し、「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」で過ごしている。
そんな彼に姉から手紙が届く。
そこに記されていたことは一つ。
「部員がなくこのままでは廃部してしまう古典部に所属しこれを存続させること」
部室である地学準備室に赴く奉太郎。
掛けられた鍵を開けると、誰も居ないはずのそこに一人の女子高生がいた。{/netabare}
米澤穂信小説原作。長編は読んだ。
「日常」以来で京都アニメーションが制作することで話題に。
原作長編を読んで観直してみて
【OP映像の楽しさ】
{netabare}京アニがOP映像に意味を持たせるとここまでやるのか、
と感心させられる。
アニメOP映像は、その内容云々よりも、曲のリズムに合わせてテンポ良く場面を転換していき、作中キャラの魅力を全面に押し出すことに注力したものが多い。
氷菓前期後期OPでもこの手法を使ってはいるのだが、場面場面にちゃんと内容と意味を持たせている。
では、前期OP。
・冒頭の色を無くした世界。
波紋が広がった場所にのみ色が付く。奉太郎の灰色の生活に色んな出来事が波紋をおこして色づいていく状況。
・色がついた部室で古典部メンバーから目を逸らし窓越しに太陽を見上げる奉太郎。
ある種の疎外感。色づいた青春を送るメンバーへの戸惑い。窓というフィルターのお陰でそこまで眩しくはない。ここまで奉太郎との関係の薄い町並みや他生徒、学校風景にはちゃんと色が付いている。
・雨中を傘をさし歩く奉太郎、影に古典部メンバー。
灰色の世界が色付いていくことへの戸惑いを不安。最も暗い影の部分すらも古典部メンバーの存在により染められていく。
・傘を外し太陽を見上げ目をしかめる奉太郎。色付いた世界へ。
灰色の生活から色付いた世界踏み出す決意。フィルターが無くなり眩しいが、シッカリとその目は青空を捉えている。
ここから古典部メンバーとともに色付いた世界へ。
一つ分からないのはラスト直前に映る道端に咲く花。花の知識が無いのが悔やまれる。
さて、後期OP。
後期はざっくり。
・文化祭や神社、バレンタインの橋や桜咲く川など後期に関係する場所を平面世界に閉じ込められた奉太郎が巡る。この奉太郎に誰も気付かないのだが、部室で古典部メンバーだけは奉太郎に気付く。そしてえるが彼に手を伸ばしこちら側の世界に引っ張ってくる。
分かりやすくそのまんま。ここでの注目点はえるが伸ばしてきた手に奉太郎も手を出すところ。積極的行動ではないとはいえ、色の淡い平面世界から色のついたそちらの世界へ行くことを受け入れる行動。{/netabare}
【古典部シリーズの根本とその表現】
{netabare}古典部シリーズは推理小説、青春ミステリーである。
つまり、アニメとしてこれを見て推理が出来ないといけないわけだ。
その上、長編2作目の「愚者のエンドロール」においては十戒二十即に言及しちゃうわけだから、そのアニメが推理モノとしての体を成してないなどとなるとダメ過ぎてしまうのである。
小説の場合、明らかに文字として様々なトリックや伏線を用意できるが、アニメーションでこれをやるとなると中々に難しい場面が多い。
はてさて。
この辺で分かりやすく、面白いのは長編1作目「氷菓」。
学校史の記号や図書室司書の名前を如何にして画面に出すのか。
これを態とらしくやったら興醒めだ。罷り間違っても”図書室司書 糸魚川養子”などと人物の下にスーパーを入れようもんなら格好が悪すぎる。
これらをあざとくなく極めてスマートに提示していく手法は中々に面白い。
また、大筋を変えること無く、原作から変えている部分もちょいちょいある。あぁ、この台詞は里志に言わせたのか、とか、このネタにはもう一手間加えたのか、など。比較するとこれも面白い。{/netabare}
【勝手に結末予想】
{netabare}結末、というか、奉太郎とえるがくっつくかどうか、って話。
結論を言ってしまうと、くっつかないと予想。
まずは奉太郎。折木家の長男であり唯一の男子である。
次にえる。千反田家の一人娘という立場に重きをおき、千反田家及び周辺の家の人々と生きるためには将来をどうすべきかと考え理系を選択する。
さて、そんなえるが将来とるであろうこと。それは、婿を取る、ということだ。
高校生の交際に結婚云々は早いだろう、とは思う。
だが、奉太郎が初恋の熱からちょっと落ち着いた時、ここに考えが至るだろう。そして、折木家の長男である自分が婿入り出来る可能性にも考えが及ぶ。
その時、将来的に別れという可能性のほうが高い恋愛にえるを巻き込むという決断を奉太郎が出来るだろうか?奉太郎は相手の心情を慮ることが出来る人間だ。彼がその決断を出来るとは思えない。
灰色を好み「やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーとする奉太郎が、後先考えずに恋愛に身を焦がしていく様を見ては見たいが、難しいだろうなぁ。
が、これをひっくり返せる存在がいる。
奉太郎の姉、折木供恵だ。
長編において、何度も神の如き千里眼で奉太郎に進みべき道を指し示してきた彼女。
彼女が奉太郎の背中をポンと後押ししたら・・・{/netabare}
【感想全般】
{netabare}物語:最後まで「いいよ、僕好みだ」な内容。ほろ苦い青春を描いたライトミステリーってことになるのかな。
アニメを見ながらにして、見終えた後は良書の読後感に近い満足度が得られる。
「氷菓」の明かされた答えがくだらなく軽ければ軽いほどそこに込められた意味の重さが増す結末。
「愚者のエンドロール」の自分の才能に明るい兆しが見え出した途端の挫折と鼻っ柱の折られ方。
「クドリャフカの順番」の三様な才能を持つ者と持てなかった者の対比と期待という言葉の意味。
そして各1話完結のショートストーリー。
それぞれが実に見事。
第一段階の結末の裏にもう一段の真実ってミステリーの王道展開を綺麗に踏みながら、淡い恋心や自信に挫折など青春の王道ネタも綺麗に入れている。
高校一年にしては考え方が大人だなぁ、と思う部分もあるが、まぁ、それは置いておこう。
作画:この作品のキモである。
この物語は一歩間違えば平面的でノッペリしたアニメーションになりそうなもんだが、これをよくぞここまで魅せるものに仕立てあげたものだ。さすが京都アニメーション。
第19話の「心あたりのある者は」はその真骨頂で、登場人物2名の室内会話劇を飽きさせること無く魅せる演出はお見事。会話シーン、推理シーンに二人がその存在をちょっと意識するシーンを巧くアニメに仕立て上げている。
全体的にも、京アニらしさ満点の動きの細やかさに綺麗さに作画の良さ。多少奇を衒いすぎな気もするが、ガリガリにCGを使った演出面も単調になりがちな会話や脳内推理を良く引き締めている。
光の使い方も非常に巧く(多少過剰演出ではあるが)、感心させられる場面が多い。
氷菓、という作品のアニメ化でこれ以上のものは無いんじゃなかろうか。
声優:主人公とその親友に中村阪口コンビ。クラナドかよって感じ。そろそろ中村のちょっと高めの声でやる高校生は厳しくなりつつあるような気もするが。
サブキャラにも名のある声優が並ぶ豪華な配役。
音楽:OP2曲は良い。ED2曲が作品にあってるかなぁ・・・といった感じ。
G線上のアリアやBGMは総じて良い。
キャラ:ラノベにはよくあるやる気無し系主人公だが、いわゆる青春してる側を嫌悪してるわけではないってのは良い。そっちはそっちで薔薇色として見た上で選択した灰色省エネライフ。このテの物語で無理に斜に構えらてもウザいだけだしね。
メイン4人に女帝などサブキャラも立っている。{/netabare}
なんとか辻褄を合わせて「ふたりの距離の概算」をアニメ化して欲しい。この辻褄の合わ無さは微妙なシナリオ変更でどうにかなるはず。これで終わりは勿体無い。