蒼い✨️ さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
これは、原作を読むべき。
【概要】
アニメーション制作:プロジェクトチームアルゴス、マッドハウス
1986年12月20日に公開された60分間の劇場版アニメ。
原作は、『COM』で連載されていた漫画作品。
著者は、手塚治虫。
監督は、りんたろう。
【あらすじ】
奈良時代。生まれた直後の父親のやらかしで片目と片腕を失い、
障碍で村人から差別を受け続けた我王は心が歪みきって、
盗みと殺人を繰り返す大悪党に育ってしまっていた。
旅の仏師の茜丸がいて、我王と出会い焚火に誘ったのであるが、
片腕しかない我王が両腕を扱う職人の仏師について語る茜丸への暗い感情で、
利き腕の腱をを刃物で傷つけて後遺症で彫刻が出来ないようにしてしまう。
その後、我王は手籠めにした女性と共に暮らすようになり、その女性に心を許すようになるのだが、
勘違いから彼女に騙されてたと思い込んで怒りのままに殺害。
本当に自分を思ってくれた女性を短慮で殺めてしまったことで、
ますます心が沈んでいった我王はやがて、己の才能を知って仏師として目覚めていく。
血も涙も無い極悪人だった我王が人間らしさに目覚めて変わっていくのと同時に、
まっすぐな青年だった茜丸は都の権勢に触れて立場や状況に流されることで、
精神的な変化を遂げてしまうのだった。
【感想】
漫画の神様と言われた、手塚治虫先生を代表する作品のひとつでありますね。
小学生の時に一度観た映画ですが、バッドエンドの暗いアニメとの当時の認識でした。
仏教の思想をベースに生きることについて真正面から取り組んである作品であって、
人間とは愚かな生き物であって、不幸な境遇への怒りや憎しみが心を曇らせて、
それによって他者を傷つけたり、苦しみの連鎖を背負いながら自らの生涯を全うしていく。
生きている人間は限りある命だからこそ、過去に過ちと迷走を繰り返しても、
経験から学んで人は変わって行きたいものだという、教育的な説話みたいなアニメですね。
報恩と報復という言葉がありますが、正しく愛情を受けて育てば、
他人にへの愛を施せる人間になり、我王は生い立ちから精神的にボロボロで、
他人を傷つけることでバランスを保っていたというところで、
その不毛な連鎖を断ち切れるようになるまでの我王の半生の物語でもあります。
原作漫画は輪廻転生を題材にして魂の在り方について語られている、
情報量が多い学術的な作品なのですが、
例えば、速魚(はやめ)の死によって罪の意識が芽生えた我王を、
血も涙もない獣から人間として生きる道を示して導いた、
仏法の師匠である良弁僧正がアニメでは未登場であるので、
我王の精神的な変化の段階的な描写であったり、
もう一人の主人公である茜丸であったが当初は善人だったのが、
権力者の精神的な毒に触れることで徐々に私利私欲に溺れる描写の説得力が若干薄かったりで、
原作漫画で描かれている様々な過程の部分がすっ飛ばされて結果ありきの構成になってるのが、
シナリオとして若干物足りませんでした。
「時空の旅人」と同時上映で単行本2冊分の内容を1時間の中編映画の尺に収めるべく、
大幅にお話をカットせざるを得なくて、文字で説明せざるを無い部分を敢えて説明せずに、
言葉・字面ではなくて芝居と映像の雰囲気でそれとなく察せよという作風に見えました。
漫画や小説と映像作品の表現の違いを重々承知の上で、
原作漫画をそのままアニメ化することの難しさを観ながら思いました。
どちらかと言いますと、原作漫画を読むきっかけのイメージビデオとして楽しむのが、
妥当かもしれませんね。
これにて感想を終わります。読んで下さいまして、ありがとうございました。