「AIR エアー(TVアニメ動画)」

総合得点
87.1
感想・評価
3370
棚に入れた
16588
ランキング
172
★★★★☆ 3.9 (3370)
物語
3.9
作画
3.7
声優
3.8
音楽
4.2
キャラ
3.7

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ネタバレ

山の翁 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

終盤は存在感が「空気」になった主人公

本作は、2000年代を代表するアニメの一つで、『泣ける作品』として知られています。有名作だけに「一度は観てみよう」と思いつつも、これまで「泣ける」と言われるKey作品とは相性が悪かったこともあり、なかなか視聴する機会がありませんでした。
キャラデザは「いたる絵」がやや人を選びますが、京アニによる作画や音楽、声優演技などはかなり高いレベルでまとまっている作品です。

今回の視聴では、作品そのものは楽しく観れたものの、残念ながら最後まで「泣ける」要素を感じることは出来ませんでした。終盤、ヒロイン(神尾観鈴)の余命が残り少ないことや、川上とも子さんや久川綾さんの熱演もあって、「泣かせにきている」ことは分かります。
しかし、「ヒロインは一体何を頑張っているのか?」がよく理解できなかったため、今一つ感情移入することができませんでした。多くの人を感動させたストーリーを存分に味わいたいと思っていましたが、やや残念な気持ちです。

その原因ですが、本作は世界観・設定・ストーリーが難解で、アニメのみの視聴では、その辺りを理解することが難しい作りになっていることが大きいと思います。特に、下記のような点が、本作の理解を難しくしている要因ではないかと感じました。

原因①:『佳乃の翼人ムーヴは何だったのか!?』

本作の原作は「恋愛アドベンチャーゲーム」です。攻略対象であるヒロインは3人(神尾観鈴、霧島佳乃、遠野美凪)存在し、シナリオはマルチに分岐しています。
アニメ(TV版)では、観鈴をメインルートとしつつも佳乃、美凪のルートも描き、1本のストーリーにまとめ上げています。しかし、そのことで設定上の混乱が生じてしまった印象です。

例えば、佳乃は白穂の魂と同調したり、八雲の手首の痣と同じ位置に傷を作ったり、また、神社に奉納されていた翼人由来の羽根を体内に取り込んで謎の光を発するなど、翼人の末裔であるような描写がされています。
美凪については、佳乃ほど直接的な翼人要素はないですが、「みちる」という生霊のような存在を心の支えにしています。みちるを生み出したのが美凪であるという描写はないですが、美凪には(翼人由来の)不思議な力が宿っているように見えました。

観鈴を含めた3人は「翼人の末裔」または「翼人の能力を受け継ぐ者」であり、最後はこの3人がキーとなって運命に立ち向かうのかと思って見ていました。ところが、物語の後半になったら、佳乃と美凪は全く出て来なくなり、「あれ…?」という感じでした。

実は、本作において、翼人の魂を受け継いでいたのは観鈴だけでした。そうすると、前半(DREAM編)で最も翼人ムーヴを見せていた佳乃は何だったのか?ということになり、情報の整理がつきませんでした。もし、描かれたのが観鈴ルートのみであれば、もう少し理解しやすかったかもしれません。


原因②:『いつの間にか死んでいた主人公』

本作の原作は恋愛ジャンルのゲームなので、主人公(国崎往人)とヒロイン(神尾観鈴)との交流がストーリーの主軸だと思って見ていました。しかし、終盤に描かれたのは、母親(叔母)と娘との家族愛であり、主人公は完全に蚊帳の外でした。
タイトル(AIR)のとおり、存在感が「空気」になってしまった主人公ですが、後で調べたところ、実はストーリーの途中(DREAM編の最後)で既に死亡していたそうです。

終盤(AIR編)は、過去編(SUMMER編)を経て、現代の話に戻ってきますが、DREAM編の終わりより少し前の時間軸からストーリーが再開します。DREAM編が主人公視点だったのに対し、AIR編は第三者の視点になっていますが、この時に主人公は既に死んでおり、その魂はカラスに転生していたそうです。

しかし、同じ時間軸の出来事を視点を変えて再現することはよくある演出なので、視点の変化が主人公の死亡を意味するものだとは全く思いませんでした。カラスの声が(国崎往人と同じ)小野大輔であることや、カラスの意識の中から国崎往人が現れるような描写はありましたが、意識が分裂しているのか同調しているのかくらいにしか思いませんでした。
本作のテーマが家族愛であるということ自体は良いのですが、主人公の死亡シーンが分かりにくいため、終盤の展開は、やや消化不良な感じがしました。

そもそも、「転生した」と言われても、AIR編で国崎往人とカラスは同時に存在しているので、「なぜ同じ魂が同一時間軸に複数存在しているのか?」という疑問は残ったままです。


原因③:『しかし、なにもおこらなかった』

死んだことが分かりにくかった主人公の退場シーンですが、その意味合いもまた、アニメ勢には理解が難しいものでした。往人は、体調不良に苦しむ観鈴の枕元で自身の能力(法術)を使った後、謎の光に包まれます。そして、観鈴が目を覚ました時には誰もいなかった…という場面が往人の退場(死亡)シーンになっています。

SUMMER編において、翼人には呪いが掛けられており、柳也と裏葉の子孫(主人公)には、翼人を救う能力(法術)が受け継がれているという説明がありました。この時の「謎の光」によって呪いが解けたのかと思いましたが、観鈴の体調が良くなることはなく、この後も悪化の一途を辿っていきます。ドラクエであれば、『しかし、なにもおこらなかった』とテロップが出そうな、肩透かし感です。

後で調べたところ、実は、往人の行動によって、翼人の転生者(観鈴)に掛けられた呪いは、この時に解けているそうです。その呪いとは、『親しくなった者を衰弱死させる』ものです。しかし、観鈴にはもう一つ呪いが掛けられており、衰弱の原因は、「もう一つの呪い(または翼人由来の宿業)」によるものであるため、回復には至らなかったというものです。
アニメでは、呪いが2つあることや、その内容についての説明が不十分なため、この時に何が起きたのか、理解が難しくなっています。


原因④:『非常に難解な観鈴に掛けられた呪い』

翼人の転生者(観鈴)に掛けられた呪いは2つあるとされています。一つ目は、『親しくなった者を衰弱死させる呪い』です。これは、元々は八百比丘尼にかけられた呪い(穢れ)でしたが、神奈備命が母の身体に触れたことで感染し、転生者もその影響を受けるようになったそうです。

アニメでは描写されていませんが、観鈴は、幼い頃に友達を作ろうとして、その相手を死なせてしまった過去があるそうです。そして、そのことがトラウマとなり、友達を作ろうとすると、パニック障害のような発作を引き起こすようになったそうです。

アニメの描写では、『友達(親しい存在)を作ろうとすると発作が起こり、そのことで孤独を余儀なくされること』が観鈴に掛けられた呪いのように見えます。しかし、呪いの本質は、(観鈴自身でなく)心を通わせた相手を殺すことです。発作はその副産物に過ぎないのですが、この辺りは非常に分かりにくくなっています。

そして、もう一つの呪いは、『翼人を空に封じる呪い』だそうです。約1000年前に神奈備命が人間(僧侶の集団)にかけられた呪いで、全身に矢を受けて絶命した後も、その身は上空に封じられ、苦しみ続けているとされます。
その後、神奈備命の魂は何度も人間に転生したそうですが、呪いによって悲運のままに生涯を閉じたようです。観鈴もまた、悲しみの記憶を継承したために長く生きられない身体であり、(前世の?)夢を見る度に衰弱し、やがて亡くなる運命を背負っています。そして、観鈴が幸せな気持ちで死を迎えることで、その呪いを解くことができるそうです。

1つ目はともかく、この2つ目の呪いは本作の中でも最も難解な設定で、アニメ視聴中は全く理解できず、視聴後に解説を読んでもその原理がよく分かりませんでした。


原因⑤『翼人の宿命と呪いとの違い』

本作では、翼人という種族に由来する宿命と、八百比丘尼由来の呪い、そして約1000年前に神奈備命が人間にかけられた呪いが複雑に絡み合っているため、非常に理解が難しくなっています。

翼人は、転生時にこれまでの記憶(「星の記憶」と呼ばれる)を全て継承し、魂に刻まれるとされます。作中の描写を見る限り、翼人は恐竜の時代(約1億年前)には存在していたようで、継承される記憶も膨大なものになっています。
しかし、翼人は約1000年前に絶滅したため、最後の翼人である神奈備命の魂は、人間の器に宿ることになります。作中では、人間という小さな器では、この膨大な記憶を受け止めきれず、壊れてしまうという説明がありました。

そして、観鈴が幸せな気持ちで死を迎えることで、神奈備命の魂は救済され、呪いから解放された状態で新たな輪廻転生を迎えることができるとされています。
アニメ版の最後には、観鈴と往人の転生体とされる少年と少女による『彼らには過酷な日々を、そして僕らには始まりを』をセリフがあり、彼らは呪いから解放された状態であることが示唆されています。

しかし、翼人の転生者(観鈴)が短命な理由の一つは、「魂の器が小さいから」であって、これは本来呪いとは関係がないハズです。「夢を見るごとに衰弱する」現象が翼人の宿命によるものなのか呪いによるものなのかは定かでないですが、観鈴がどのような気持ちで死を迎えようとも、翼人の魂が人間に転生する限り、短命の定めは変えられないことになります。

仏教では、限りなく生と死を繰り返す輪廻転生は「苦しみ」であり、輪廻転生のサイクルから解放されて涅槃(ニルヴァーナ)に至ることこそが「至高」されています。
本作においても、翼人の魂を輪廻転生させるのではなく、そのサイクルから解放することが、神奈備命の魂の救済に繋がるのではないのか?と疑問に感じました。


アニメ勢に本作の理解を難しくしていると感じる要因は以上の5点ですが、その他にも疑問を感じる描写は色々とあります。例えば、下記のようなものです。

疑問①『なぜ晴子は観鈴を病院に連れて行かないのか?』

観鈴の体調が悪化の一途を辿ってからも、何故か晴子は病院に連れて行こうとしません。橘敬介が大病院で精密検査を受けさせようとしても、頑強に抵抗します。
「神の視点」を持つ視聴者であれば、病院では治せないことは分かります。しかし、第三者の目線で見た場合、晴子は、必要な治療を受けさせずに観鈴を死なせた酷い保護者という風に見えてしまいます。
個人的には、2人の最後のやり取りに感情移入できなかった理由の一つになっています。


疑問②『なぜ橘敬介は観鈴を死なせたことを後悔していないのか?』

橘敬介は、観鈴の病状を見て、即刻入院させようとしますが、晴子の要求を受け入れて、3日の猶予を与えます。そして、その間に観鈴は死んでしまいます。
自分が同じ状況であれば、「即入院させていれば、助かったのではないか?」という後悔を抱えそうですが、敬介はサバサバした表情で、晴子とも普通に会話を交わしています。この「物わかりの良さ」は、脚本の都合で動かされている舞台装置のようで、かなり違和感がありました。


疑問③『なぜ晴子は呪いの影響を受けなかったのか?』

観鈴が抱える呪いの一つは『親しくなった者を衰弱死させる呪い』です。作中で晴子は、観鈴の誕生日を意図的に祝わないなど、距離感を保って呪いを回避しようとしている様子が描かれました。
しかし、少なくともアニメの描写を見る限り、神尾家の親子仲は良好で、観鈴は晴子に親愛の情を抱いているように見えます。これが『琴浦さん』(2013年アニメ)の母親のような毒親であれば、晴子が呪いを回避し続けたことも理解できます。しかし、これだけ良好に見える距離感にも関わらず、呪いの影響を受けた様子が全くないのは違和感がありました。


疑問④『ポテト(犬)は何だったのか?』

謎の犬型毛玉生命体である「ポテト」。翼人の使い魔(式神)的な存在か、翼人(神奈備命)の転生体か何かかと思っていましたが、特に重要な役割はなく、その正体が明らかになることもありませんでした。


疑問⑤『神奈備命の父親は誰か?』

こちらも作中で明らかになることはありませんでした。不明のままでも作品は成立していますが、個人的には気になりました。


以上が、個人的に理解が難しいと感じた点や疑問点になります。「観鈴は何を頑張ったのか?」がよく分からなかったため、終盤の展開は理解が追い付かない状態でしたが、作品そのものは楽しく視聴することができました。
見終わった後に、意味が分からなかったシーンを色々と調べましたが、それだけこの作品に惹き付けられたということだと思います。

投稿 : 2025/03/11
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サンキュー:

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