トロール夢民 さんの感想・評価
3.2
物語 : 4.0
作画 : 2.0
声優 : 4.5
音楽 : 2.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
幸福論
過労で死んだ女性が職人の父の元に転生し、ものづくりの道を歩む
品のある会話で満たされた、落ち着いた雰囲気の健全な作品だ
作中のイケメン作画が低品質だったため、地味な作品に成り下がっている
主人公ダリヤの心情が汲み取りにくく、狙いが良く分からない作品だった
作画の制作段階で北朝鮮の制作会社が関与している疑念を払拭できず「作り直し」をしたとの経緯が、製作委員会より発表されていたことを視聴後に知った
制裁対象国との取引実績があるのは都合が悪すぎるので何とか強引に事態を収拾させたといったところだろう
元請けが現場で働く末端の職人の身元を把握できていないという、ヤバい建設現場のような状況でなかなかに面白い話ではあった
OP主題歌について気になる点があった
曲のイントロを聴いた時、どことなく別の曲に似ていると感じたのだ
しかし何の曲なのか特定できず、煮え切らない思いを抱えたまま視聴を続ける羽目になった
Carly Rae Jepsen の Call Me Maybe のような気もするが、釈然としない
ダリヤとイケメンとの仲は、最後まで友達以上には発展しなかった(ダリヤが段々と心を許していく描写はある)
ここで気になったのはダリヤの心境についてだ
ダリヤがイケメンに対して全く異性としての魅力を感じていないのか、ただ単に仕事に専念したいだけなのか、判断がつかなかった
その辺をもっと分かり易くしてもらえると、私のような不細工で救いようのないハゲにも状況が把握しやすくなったように思う
物語の文脈を加味すると、過去に「婚約破棄」を経験しているダリヤが、新たな恋愛に及び腰・忌避的になっていても不自然ではない
ただしそれは話の流れから推察して得られた解釈に過ぎず、作中のダリヤの様子から判断できる情報ではない
何があっても「うつむかない」というだけあって、ダリヤはタフで弱さを表に出さない女性だ
そのために、過去の婚約破棄の一件には全く影響されていないように見える
となると、やはりダリヤはイケメンに対して全く男としての魅力を感じていないように見えてくる
要は「男に興味が無い」という状態だ
その点『聖女の魔力は万能です』は親切だった
主人公の女性がイケメンを前にして分かり易く動揺したり、頬を紅潮させたり、心の中で「うわ~、すごいイケメン…!」のような心情描写を適宜挟み込んでくるからだ
こうした演出があるだけで、当人に恋愛する気が無くても、相手の男には魅力を感じているという状況が私のような不細工ハゲにも容易に把握できるようになる
本作にはそういった分かり易い演出が無いためダリヤの心情が掴みにくく、情報不足のまま感情移入せざるを得なくなる
そもそも本作は作画の品質が低いため、設定上のイケメンが絵的にイケメンに見えないという欠点がある
イケメンが登場する度に、視聴者が積極的に「こいつはイケメンという設定なんだな」と理解して補完する必要が生じる
しかし見た目の印象というものは強烈で、物事の評価に直結している
作中では大したことのない平凡な男が、ダリヤ嬢の元へ熱心に通いガキのような振る舞いをして空回りしているように見えるのだ(イケメンだから許される行為を、並の男がやり散らかしている痛々しい様子を想像してみてほしい)
そうなると「この程度の男じゃダリヤ嬢から相手にされなくても仕方がないな」と、救いがたい不細工ハゲの私は解釈してしまうようになる
作中では、明らかに100%脈無しだと思えるほどに、ダリヤのイケメンに対する態度は常に冷静だ
イケメンが熱くなって本気でアプローチしようものならどうなるか
ダリヤは困惑した様子で「え、どうしたの?本気で言ってんの?(面倒臭えこと言い出しやがったなコイツ…)」などと言い出しそうな気配が漂っている
今後ダリヤが、いきなり仕事関係で知り合った他所の男とくっついて、イケメンがすぐに忘れ去られる展開があっても何も驚かない
物語の中では、主人公ダリヤが職人稼業から製造者・メーカーとなって市場に新規参入する興味深い題材を扱っている
ダリヤは職人というよりは発明家と呼ぶ方が適切かもしれない
発明家であるダリヤがメーカーとして経営を行う上で参謀と技術屋を仲間に加えたのは、順当な流れのように思える
しかしそうなると、益々作中におけるイケメンの存在意義が薄れていくことになる
ダリヤに全くその気がないなら、イケメンは遅かれ早かれ退場するのが自然の成り行きだろう(イケメンが居ても居なくても事業の存続・発展には影響がない)
他にも気になる点はある
主人公が転生した直後の精神年齢についてだ
幼少期のダリヤには転生前の記憶があるにもかかわらず、身体の発達段階に即して精神年齢が退行してしまうところに違和感がある
もし名探偵コナンのように見た目が子供で中身が大人なら「お父さんに褒めてもらいたかった」と言って、大泣きしたりはしないだろう
あえて子供らしく振る舞っていたとした場合にも不自然さが付きまとう
なぜなら、自宅で小火騒ぎを起こすなどのシャレにならない行動に及んでいることになるからだ
これは良識ある大人のすることとは思えない
仮に精神面が退行しているとするなら、転生前に培った知識を失っていないのはどうにも納得がいかない
コナンを基準に考えるバイアスを取り除くべきなのだろうか
あるいはシンプルに「そういうもの」として受け入れるのが正解なのかもしれない
うつむかない」とタイトルにあるように、どんな状況でも辛気臭くならないダリヤの性格は素晴らしい
つまりダリヤ嬢は自立したタフな女性だ
しかしタフであることは即ち、滅多に寂しさや孤独を感じない性分でもある
したがって、ダリヤはそもそも恋愛に向いている人間ではない
奥手ではなく、人生において恋愛の優先度と重要度が極めて低いのだ
こうした女性に恋愛をさせるのは、作劇的に難易度が高そうだ
作中で恋愛に発展しない友人関係を描き続けるのは、そうせざるを得ないからかもしれない(イケメンがダリヤ嬢を振り向かせるために健気に奔走している話にすら思えてくる)
いよいよ訳が分からなくなってきた
深入りすると面倒なので、自分を好いているイケメンとワインとチーズを嗜みながら談笑するくらいが丁度いい、ということだろうか
気の無い女が一方的にイケメンから愛される状況を描きたかったのだろうか
イケメンが自分の気持ちとキャリアを尊重し、口出しせず見返りを求めずサポートに徹しているという状況に価値を置いているのだろうか
直ぐに結論を出さず、じっくり時間をかけて互いの関係性を深めていく奥ゆかしい物語として理解するべきなのだろうか
私のようなキモい不細工ハゲの頭では処理に難儀する作品だった