「劇場版「風都探偵 仮面ライダースカルの肖像」(アニメ映画)」

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感想・評価
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ランキング
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★★★★★ 4.3 (6)
物語
4.2
作画
4.2
声優
4.4
音楽
4.3
キャラ
4.5

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

MOVIE大戦から整理された真なるビギンズナイト

前作『風都探偵』が、新ヒロインのときめに左翔太郎{ひだり しょうたろう}とフィリップの戦い──Wの始まりを語ろうとするところで〆られたことは覚えているだろうか。本作はその直後から始める一方で『仮面ライダーW』の前日譚、“ビギンズナイト”のアニメ化を図ったものとなる。「始まりの夜」って言いたいなら“Night of the beginning”だろって? だから翔太郎ってそういう所が残念なのですよね(笑)
ビギンズナイトは、特撮時代の仮面ライダーWの展開の中で第1話冒頭であったり劇場版作品のエピソードの1つだったりと、これまでは断片的に散らして語られていたものだった。それら断片を今一度整理して未公開シーンを追加し、ガイアメモリを生み出した組織『ミュージアム』と今宵、再誕する仮面ライダーの因縁を全て明かす様にリメイクされている。

【コイツがカッコいい:仮面ライダースカル】
ビギンズナイトを語る上で欠かせないキャラクターが「仮面ライダースカル=鳴海荘吉{なるみ そうきち}」だ。現鳴海探偵事務所の所長である照井亜樹子{てるい あきこ}の実父にしてフィリップの名付け親、そして翔太郎に探偵としての流儀と技術を叩き込んだ師匠でもあるなど、現在を生きる登場人物たちに多大な影響を与えた漢──「おやっさん」である。そしてWの誕生以前、麻薬と密輸武器の両方の特性を持つ『ガイアメモリ』が持ち込まれた風都に平和をもたらさんと奮闘した初代「仮面ライダー」でもあった。
そんな彼の生き様や強さもスタジオKAIがアニメーションで魅せてくれる。荘吉の声は津田健次郎氏が担当することとなり、特撮の演者さんが出してきた渋みは薄まったものの翔太郞の細谷氏やフィリップの内山くん同様、アニメ作品として非常にマッチした配役となった。
あらゆる地球の記憶が1つずつ内包されたガイアメモリを使う者たちを描く以上、戦闘シーンは専ら「能力バトル」へ傾倒する。特撮時代のスカルはその特性があまり表現されていなかったが、それも本作で余すことなく描写された。
{netabare}『ONE PIECE』で例えたらやはりブルックに似てしまうかな。死んだ生物の成れの果てである"骸骨"の記憶を保有する『スカルメモリ』の力により、変身中の荘吉の身体は強化されるだけでなく死人と同然の状態へ変化することが明かされた。攻撃を受けても痛みを感じないその特性を盾に依頼人を守るだけでなく「弱味を見せない」安心感すら与えるスカルの戦いはWとはまた随分と異なった魅力がある。{/netabare}
何よりもドクロを模したマスクの額を抉るようなSのイニシャル、それを隠す白い帽子に黒のボディに映える白いマフラー、そして帽子を変身に捲き込まないように一度外してから被り直すというスカル=荘吉のこだわりの仕草まで如実に再現されており、前作の『風都探偵』に続いて仮面ライダーWファン垂涎物の一作として仕上げてきたことが強く感じられた。

【コイツもカッコいい:若き翔太郞】
不死身の仮面ライダーでありハードボイルドを絵に描いたような探偵でもある荘吉だが、彼もまた1人の「人間」だ。
荘吉が解決した最初のメモリ犯罪は彼の「相棒」が犯人として関わっており、メモリの力に呑まれ罪を重ねすぎた相棒を荘吉は已む無く殺めてしまっている。
メモリの力が人を殺すことを痛感している荘吉が、相棒を喪った哀しみや解決に時間をかけ過ぎたことで多くの犠牲を出してしまった罪悪感により、探偵を辞めようとしていたことが明かされるところから本格的に物語は始まる。塞ぎ込んだ荘吉に光を差したのは、彼の戦いを見た少年期の左翔太郞だ。
{netabare}現在よりももっと無邪気で思慮に欠けており、何より怪人に対する力を持っていなかった翔太郎。しかし「風都」を想う気持ちはこの頃から人一倍に溢れていた。

『訂正しろよ……俺の街じゃなくて、“俺たちの街”だろ間違えんな!!』
『俺も街を自分の庭みてえに駆け回ってるが「住まわせてもらってる」って気持ちを1日だって忘れたことは無い! この街はみんなのものだ!!』
『それを踏みにじって独り占めしようとするようなヤツは、とっとと出てけよっ!!』

新たに出現した怪人に向けて切った翔太郎の啖呵は、その怪人にではなく殺めた力に悩まされた荘吉の胸に届く。

『手頃な穴があって良かった。“穴があったら入りたい“……そう思っていたところだ。こんな小さな子供の方が、俺などよりよほど風都に生きる人間の誇りを強く持っていた!』

『休業は今日で終いだ。俺はもう一度戦う。俺自身の手がどれだけ血塗られようとも……
街を愛するこいつらの……未来のために!』

何のため・誰のために闘うのかを宣言してからの『変身』の掛け声は、『仮面ライダー1号』から続くライダー作品の中で最高のシチュエーションだ。1号と『BLACK』のオマージュ要素を多分に取り入れたWらしさであり、そしてWならではの決め台詞もスカルという原点から飛び出す。

『心を捨て、街を泣かした悪党はもう人ではない。倒す事以外では救えない』

『さあ、お前の罪を……数えろ』

{/netabare}
{netabare}こうして幼いながらも荘吉の迷いを振り切る切欠を作った翔太郎は無事、彼に認められ助手に──とすんなりならないのは良い梯子の外し方だ(笑) 翔太郎が荘吉の弟子入りを志願して探偵事務所に通い、荘吉はその度に断り続ける。まるで「父と子」のようなやり取りが翔太郎が高校生になるまで続いたからこそ、また彼の台詞・思いが活きてくる。

「お互い意地の張り合いはここまでにしようか、翔太郎。──(中略)──自分のことより他人のための我慢を選べるようになった今、おまえを半人前の男ぐらいには認めてやる。
その心で、俺と一緒にこの街の涙を拭おう」

苦節十余年。憧れた思いに中々答えてくれなかった男からの称賛の言葉に、御年頃が故に荒れに荒れていた翔太郎が嬉し涙を流す。効果的に流される挿入歌『Nobody's Perfect』もあって、彼の涙が観ている側にも思わず伝染ってしまう名シーンであった。{/netabare}

【そしてココが悲しい:裸の骸骨。そして──(1)】
時間が進むことで特撮時代に語られていたビギンズナイトへと話が繋がっていく。もう10年以上前に描かれていることなので書いてしまうが、ここで鳴海荘吉は命を落としてしまう。ただ、不死身の特性を持つ仮面ライダーがどうしてやられてしまったのかは既存ファンも風都探偵から入った人も気になるところだ。
{netabare}仮面ライダースカルの実力は旧組織『ミュージアム』の幹部怪人にも通用していた。しかし敵の本拠地に乗り込んで戦うということは必然的に一対多を強いられることになる。
荘吉が雑魚を捌きながら幹部を攻める最中、雑魚は捨て身で彼を羽交い締めにし身動きを一瞬、封じてしまう。その隙に幹部から放たれた高エネルギー弾。避けるタイミングを逸した荘吉は已む無く必殺技で迎えうつ。
剥き出しの変身ベルトが自分の技と幹部の放った技の余波に晒されたその交戦後、スカルの変身は解除されベルトは崩壊してしまう。身体は不死身でも変身アイテムはそうではなかったのである。
残ったスカルメモリも組織に囚われていたフィリップを救うために消費し、荘吉は仮面ライダーとしての力を喪ってしまう。じわりじわりと追いつめられる不穏な空気が劇中に漂い始める。{/netabare}

【そしてココが悲しい:裸の骸骨。そして──(2)】
荘吉に唯一残された道は『ダブルドライバー』でフィリップと共に変身する“W”となること──仮面ライダーWは当初、運命の子であるフィリップと完成された探偵である鳴海荘吉の2人で変身することを想定された戦士だったことが明かされた。
しかし、荘吉は思う。この子を利用することは、今対峙している敵組織と同じ事をすることになるのではないか、と……
上記でも書いたが、荘吉は1人の人間だ。この男が本当に利己的で非情な「人間未満」の男であったのなら、即座に変身して自分の身を守り、剥き身の青年2人(しかも1人は意識が無くなる)を連れ回しながら脱出することになったのだろう。果たしてそれが「ハードボイルド」な漢の姿と言えるのかは疑問ではあるが。
{netabare}迷ってしまった、選ぶことが出来なかった荘吉を嘲笑うがごとく、敵の凶弾が彼の急所を背中から貫く。これを「油断」と評した荘吉は、狼狽える翔太郎に自分の白い「帽子」を託そうとする。

『よしてくれ……俺に帽子はまだ早い……まだ早えよっ!! そう言ったのはおやっさんじゃねーか……!』

『……似合う、漢になれ……!』

初陣で愛娘との触れ合いを禁じられた以降、その手を血に染めてまで街を守ろうと奮闘し、最期は力も命も奪われた仮面ライダースカル=鳴海荘吉。彼の戦いには常に「喪失」が付きまとっていたが、そんな彼が奇しくも物語の舞台から降りることによって翔太郎とフィリップの2人──皆の知る“W”へと繋がっていく。{/netabare}

【そしてココが熱い:脱出】
鳴海荘吉の死とWの誕生で以てこのビギンズナイトという物語が締め括られてもいいのだが、特撮時代との差別化点としてそのもう少し先も描かれる。翔太郎が最愛の師匠を殺された一方でミュージアム側も大事な秘密基地を荒らされている。各々がその落とし前をつけなければ気が済まない。
{netabare}初めて変身したためまだ戦い慣れていない翔太郎に代わり、再変身したのはフィリップの身体を主体とした『ファングジョーカー』。基本9フォームをまだ使いこなせないだろう初戦でどうやって幹部怪人のいる敵陣から脱出できたのかは長らく疑問であったが、それが氷解する熱い展開だ。
対してスカル戦もあって疲弊した幹部・園崎冴子{そのざき さえこ}に代わり最後の砦を務めるは冴子の男・大嶋{おおしま}が変身するオーシャン・ドーパント。2人がアジトから脱出するためには外海を渡らなければならず、その行く手を「海」の能力を持つ怪人が阻むというクライマックスシーンである。
足場も無く過去編が故にファングメモリの色濃い破壊衝動によって理性をいつまで保てるかわからない中、冴子の汚名を返上し彼女の寵愛を受けんと攻める大嶋。この圧倒的不利な状況を新ヒーローにして現在も戦い続けるWがどう打破していったのか。{/netabare}
ファンはファンだからこそ、そして前作『風都探偵』から入ったばかりの人はWの過去をまだ知らないからこそ、しっかりと見届けるべき戦闘シーンとなっていた。

【総評】
全体的に観て、シリーズファンにとっては観たいものを観るという大きな満足感が得られる作品だと評する。そして普段は特撮も仮面ライダーも観ず、深夜アニメだったのでたまたま『風都探偵』から入ったという方にも翔太郎と荘吉の関係や鳴海探偵事務所の背景、仮面ライダースカルの謎にフィリップとの出会い、そして仮面ライダーWの誕生など、バックボーンとなる秘話などをしっかりと知ることができるだろう。
中でも翔太郎の、父のように慕う荘吉との絆を感じさせる描写が熱い。荘吉が幼い彼の中に光るものを感じて以来、厳しく接しながらも成長を温かく見守り続けてきた姿に沁みるものがある。高校時代にやさぐれる翔太郎にも芯にある強さや優しさを感じ取ったり、愛用の帽子を譲ったりする荘吉の姿に実の親以上の深い愛情を感じ、思わず目から熱いものがこみ上げてくる。
最後の戦闘シーンではW-G-Xではなくそのアレンジ前の「W-B-X 〜W-Boiled Extreme〜」が挿入歌として起用されたのもサプライズ感が強かった。まあ両者は歌詞以外に殆ど違いがないのだが(笑)、『仮面ライダーW』の前日譚を描く本作ならではのこだわりが感じられた所でもある。「ここからWの長い戦いが始まるんだよなぁ」とファンならしみじみと思う筈だ。
映像的にはアニメシリーズを大きく超えるものではないものの、前作のクオリティが元々高く保たれていたのでそれが劇場スクリーンになっても見劣りすることは無かった。仮面ライダースカルにWのサイクロンジョーカーやファングジョーカーだけでなく、漫画版でもその姿が描かれなかった{netabare}サイクロンスカル{/netabare}も観られたので、私としては眼福と言う他に言葉は無い。
{netabare}最初はときめにビギンズナイトを語り始める夜の埠頭から、最後は現在の仲間たちを撮しながらの明日を描くという構成は風都探偵の2期を見据えた展望の様でいて大きな期待が持てる。『裏風都』の万灯雪侍が分析するWやスカル、そして「ジョーカーメモリ」の考察も非情に興味深く、このビギンズナイトを語った本作を踏まえて是非、彼らとの本格的な戦いもアニメ化してほしいものだ。{/netabare}

投稿 : 2025/02/06
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サンキュー:

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