あと さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「等価交換」でない不条理な世界において生きる
1期を鋼の錬金術師世界の否定で終わりその続編かつシリーズ完結編として公開された本作。現実世界ではナチス政権の台頭する激動のドイツでのエドと、錬金術の世界では舞台はエドを探し求めるアルたちとが描かれる。
まあ率直な感想を言えば、ハガレン終盤の雰囲気ではあるもののこれはハガレンなのか?と戸惑うほどに世界観やテイストが違いすぎる。特にキャラクターに関してはオリジナルキャラクターも多いし、キャラも年齢を重ねていて各々この不条理な世界でどう生きていくのかという自問自答をしている。また、ミュンヘン一揆を主題にして戦争を起こす狂信的なトゥーレ協会との対立…。そこから世界を超え排外主義的な思想を打ち出す信者との戦い合い、いやSFアニメでもこんなテーマを扱うことは普通ないだろう。そもそもアニメの展開もかなり暗すぎるし重い。このテーマを中心に据えたためにキャラの扱いはちょっとかなり適当になっている印象はある。エンヴィーとホーエンハイムの最期ってあれで良かったのだろうか。ラースやウィンリィなどあの中で詰めるには結構あっけないような急展開だったような気もするが。
結果として、今までの人生の贖罪としてあの世界で生きることを決め元の世界と決別したエド、錬金術の使えない世界でエドとともに生きることを決めたアル、この二人が最後にもとに戻るというのはまあ腑に落ちるエンドではあるか。ウィンリィは救われないが。ただこの作品のメッセージ性については考えなければいけないとも思う。自分たちと違う世界、これはナショナリズム的な思想もそうだけど、自文化中心主義、自分たちだけの視点を見てよくわからない相手のことは考えもせずに行動をする、これはかなり危険な思想だが、そのほうが自分にとっては都合がいいし単純だから。そのために戦争は起きたわけだが、エドは現実を受け入れ、等価交換ではないこの世界において生きる決意をしたわけで、それは世界のことに自覚的であろうという明確なメッセージ性を感じさせる。ただそれは決して正解ではないというのが難しい話ではある。何かをなすためにそれ相応の代価・犠牲を払ってもできないこともある。
個人的にはかなりインパクトを感じた映画で旧作ハガレンを締めるにはビターではあるが相応しい作品であり完成度も高く、また作画に関しては超一級品でもあり見る価値は大いにあるとは思う。