薄雪草 さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
コンクリフトにぞくぞくする
雪にも玉にも優るエロティシズム。
精密にして頑健なサイバネティックス。
圧巻はシェルに格納された剥き出しの脳髄。
オープニング早々、攻め気満々の映像演出に、手もなくひねられました。
粋を集めた無双・・、贅美を尽くした造形・・。
まさにサイバースペースに降臨した軍神マルスと女神アテナの "結晶体" の如きです。
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公開から30年の時を経ていますので、技術論的、倫理的、その他もろもろにミスマッチが散見され、それなりに違和感もなくはないですが、温故知新として整理しておこうと思います。
ゴリゴリのサイバーパンクの世界観の背景には、一つにはバブル経済とその崩壊という意識変容、閉塞感からの思考委縮などの硬直性を感じます。
もう一つには、当時のインターネットが、カウンターカルチャーだった時代性を、言うなら心的自由への憧れなどを写しているように感じます。
シナリオには自己実現の難しさや生きづらさにあえぐ重いリアリズムと、自我の内外に理想を希求するユートピアニズムとが、オーバーラップし、補完しあうような構成が見て取れ、太い骨格を成していると思います。
バブル以前の作品群に見られる目的達成至上主義(宇宙戦艦ヤマトなど)とも違うし、バブル絶頂期に輩出された終末論的テイスト(AKIRAなど)とも違う。
ましてや失われた30年などと揶揄される厭世感に派生した "なろう系やチート系" とは全く無縁ともいえる「稀代の逸品」です。
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自己の確立、居場所探しは、誰にもどの年齢でも共通するテーマです。
それに沿うなら、現在地に居心地の悪さを感じる草薙素子の行動原理は、脳髄の至極健全な発達・成長とも言えそうです。
「ゴーストが囁く。」
それは自己のポテンシャル、あるいはクリエイティビティーとのコンフリクトへの誘導を暗示しています。
草薙素子が覚えた不完全性は、攻殻機動隊の局地戦では補えず、リーダーという器もどうやら小さすぎたようです。
「さぁ、どこに行こうか。」
それは自我の覚醒を得た歓びと、本来の自己を求道する旅立ちの宣誓。
国家に縛られ、また依存するポジションから脱皮する者として。
柔軟な想像力に立脚した能動的なチャレンジャーとして。
さまざまな価値観を自在にミキシングする表現者として。
それらは、あたかも「心が探求するままに志を高く持て」と、私たちに叱咤しているかのようです。
終幕、草薙素子は、人形使いと融合し一体化します。
これ以上ない強大無辺な存在になっても、その容姿がいたいけな少女像だったのは、心機一転、うぶ心で世界に対峙するという、なかなかの洒落っ気の効いた演出に感じました。
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ところで、 {netabare}令和7年2月28日から、全国のTOHOシネマ(限定館)で、本作とイノセンスの4K版のリバイバル上映が決まったそうです(1月28日づけニュース)。
レヴューを書くさなかでの発表に思わずのけぞりましたが、嬉しいお知らせでした。
できれば、IMAXなどの高精細スクリーンで、新たなコンクリフト(衝突などによる緊張)を堪能してみたいです。
ちなみに、2週間限定上映だそうですので、ご興味のある方は是非! {/netabare}