たナか さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
原作完結記念全話配信中
このアニメは未完…
要素だけ見ればよくある深夜アニメのキメラ。豪運な落ちこぼれ主人公のやらかしドリブン。不遇で無能な雑魚だったはずの主人公が世界を脅かす存在感を獲得。みんな大好き名前まんまの擬人化。美麗な容姿に陰や毒を内包する少女たち。びっくりドッキリ後付けちゃぶ台返しのカタルシス。細身キャラが長物を振り回す人外異能バトル。長寿ゆえに語れる盛者必衰諸行無常の悲哀。要素だけを見れば虚淵やKEYみたいな悪趣味さ。前述のエロゲ文法によくある「わるいあのひと」&「かわいそうなワタシ」をモロに全面に押し出した露悪な濃ゆい味付けを徹底的に回避し、荘厳かつ独特で不思議な世界観によって毒を華麗に包み込んだパッケージの見事さ。可哀想な目に遭う少女を愛でてブヒりたい層から、現実逃避で不可思議ファンタジーに没入したい人までまるっと包み込んでしまえる懐の広さ。これぞ芸術。
原作
アフタヌーンなので特に序盤は普通に読みにくい。設定の羅列はもちろん何が起こってるか不明な構図、キャラの判別のしにくさもあって人気作!との印籠がなければ撤退する人も多そうな完成度。初期は。アニメ化されなければ一部のマンガ好きにしか刺さらないような、いかにもアフタヌーン的なマニアックな作品で終わってたのかも。でも後半はかなり技術が向上したようですこぶる読みやすくなってた。というかこれが初の連載作品とか信じられない。
OP
照井順政による世界観が作品の完成度に大きく貢献している。これがYOASOBIだったら台無し。照井氏のプロジェクトはもれなく独特の世界観を構築している凄まじい仕事ばかりなのだが、演者の拙さや未熟さも味のうちみたいな芸風なので一般ウケは難しく、作品同様に儚げな存在感を残すに至りでいずれも終了。若者の拙さを許容できる御仁なら唯一無二なんだと思う。衝撃と呼べるくらいにはすごいとは思うんだけど、でもこりゃ売れんわなあとも思ってしまうインディーズ臭溢れるオルタナ感。
ED
これもOP同様に普段使いのながら聴きには向かない芸風。YOASOBIのような聞く時間や場面、再生機器を一切問わない海苔ポップのような気安さも、ADOはじめボカロPのようなグリグリと突き刺してくる厨二メンヘラ感もない。歌唱も声を張り上げて耳をつんざくハイレンジDIVAインパクトのオラオラ感や、やたらとファルセットを多用する技巧押し付けキンキン感もなく、とにかく優しく透き通る透明感が作品にシンデレラフィット。品質も異常に高レベルでしかもOPED双方揃ってる作品はものすごくレアだと思う。個人的にはゆゆゆもそんな感じ。生活の中でのながら聴きで聴けないタイプ。ついでに劇伴も素晴らし過ぎて何もいうことないです。
キャラ
アレンジはダイヤの萌え感がやや気になる程度でほぼ原作準拠。ボルツやシンシャなどキャラ立ちしてるメインキャラすらも堀り堀り下げ下げしない作風も再現されててよかった。ありがちな可哀想エピソード回想がないことで1話あたりの物語の情報量の密度がえげつない。かぶりつきを強要させられるのでわりと疲れるタイプのアニメ。原作読んでるにもかかわらず目が離せない。役者もベテラン揃いの太っ腹キャスティング。元子役である黒澤ともよの引き出しの深い演技に感心。無駄に万能感に溢れる世間知らずなアホガキが世界を知るにつれて心境の変化が態度にも現れる成長譚的なやつ。声優になりたかった声優と比べてしまうのもアレだが、リアルに元役者だった声優はやはり幅というかもう格が違う。
作画
人外キャラなので普通に不気味の谷が発生しにくい。それでいてきちんと美少女アニメとしても成立しているの凄すぎる。そのうえバトルアニメとして見てもきちんとカタルシスがある。構図と決めポーズもちゃんとカッコいい。正統派バトルアニメにも見劣りしない爽快感のあるカメラワークとアクション。どの場面をどこからどう見ても一切手抜き感が見えない原作愛をビンビンに感じさせてくれる超絶品質。なんでこんなんできるの。
物語
このへんまでだとやや散らかり感があるかもだが最終的には一応大きな流れには収束する。設定はかなりトンチキなので破綻のしようがない。こうです、と言われたらそうですか、と納得するしかない。そういう舞台装置の中で、現代劇ならどうしてもクサくなる説教をそこかしこに配置するさりげなさ。ジャンプみたいに読者に向けての名言ドン!にならずにきちんとキャラ同士の会話になってる。これこそがアフタヌーンみ。そのうえで含蓄のある人生訓は刺さる人には刺さるだろうから、これがまた時間をおいて読み返すたびに発見のある作品の深みにもつながる。設計のメリハリがすごい。新人ならではの思い切りのよさ。
アニメ史に燦然と輝く比類なき傑作。完結までやれば、ね。