「君を愛したひとりの僕へ(アニメ映画)」

総合得点
67.3
感想・評価
40
棚に入れた
159
ランキング
2556
★★★★☆ 3.4 (40)
物語
3.5
作画
3.6
声優
3.0
音楽
3.4
キャラ
3.5

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ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

誠を嘘で締め括る

平行世界を描く2連作(2重作?)の一つ。
"君愛" と "僕愛" 。どちらから観ようかと少し迷いましたが、劇場のスケジュールに乗っかって "君愛" から鑑賞しました。

THE 純愛、そんな感じでしたが、一人の男を愛した二人の女という構図。
暦の動機は "君愛" において鮮明に描かれており、栞への執着、というか自責の念がシナリオの骨格を支えています。

その枠組みの中で栞と和音の相関性をみると、恋敵のようでもあるし、得難い戦友でもあったような、不思議な取り合わせだったのではないかなって感じました。
"君愛" の栞にしてみると、和音はあくまでも暦の同僚で研究者仲間の一人なわけで、ほぼほぼ無関係な人物です。
でも、和音がいたからこそ、EDのシーンで "君愛" の二人が、虚質としての存在で、60年ぶりの邂逅が得られたわけです。

ひと時ののち、二人の虚質は別々の世界線へと分かれてしまうのですが、非常に感傷的な気分になりました。
そう思うと、"君愛" の結末は "僕愛" の過程がなければ成り立たず、平行世界ならではの発想と着地点だったと感じました。

ED後、やや唐突な印象で、"僕愛" の暦と栞の会話が、声のみの演出で表現されます。
これは "君愛" から "僕愛" への慎ましい伏線になっていて、"僕愛" でははっきりと映像化されているだけに感極まる思いになりました。

おまけに、"fin" だなんて、こんな余韻と期待を持たせた終わり方をされてしまっては、"僕愛" を観ないわけにはいきませんね。
ところで、映画用語では、fin は、「本当に終わりです」の意味があるとのこと。
そうであれば、"僕愛" を先に、"君愛" を後に見ることが原作者や制作陣の意図なのかしら?と思いを巡らしたりします。



"君愛" も "僕愛" も、パラレルシフトの完成は、それぞれのルートで描かれるのですが、"君愛" のエピソードでは、暦と栞のダイレクトな関係性が時間を割いて描き込まれているので、よりエモーショナルに訴えかけてきます。

栞は、暦に自分への「執着」を切り離してほしいと懇願し、和音は暦の意志の強さを「狂気」と言い放ちます。
言い方に違いはあれども、お互いに手の届かない暦なわけですから、痛ましいというか、呪わしいというか、心が抉られるような気持ちになりました。

ところで、暦と栞の出会いを "なかったことにする" には、暦が死ぬことが条件という設定は、科学的な理屈や知見はよくわかりませんが、情感としては利己愛なのか利他愛なのかの線引きがあいまいな気がします。

似た作品に、シュタインズ・ゲートの牧瀬紅莉栖、ゆめみる少女の夢を見ないの牧之原翔子を思い出します。
両作とも哲学的パラドックスを素地にした作品ですが、命と世界とのバランスをとるために利他愛に振り切ったセカイ系とまとめてもいいのではないでしょうか。

ここでは、岡部倫太郎も梓川咲太も "死ぬ" というシナリオではなかったので(主人公なので当たり前)、本作との違いをどう整理すればいいのか戸惑いもあります。
THE 純愛なのですから、命との引き換えというのは、なるほど "美談" らしく聞こえて心地よいのかも知れません。
でも、パラレルシフトという革新的な技術が、誤ったメッセージを伝えはしないかとちょっぴり心配しています。

というのも、過去を見れば第2次世界大戦の特攻隊にそれが見られますし、現在においてもテロリズムや戦争の遂行にはなじみやすい要素があるからです。
本作は、道具としてのパラレルシフトマシンがその媒体となっていますが、命の尊さに対してのフィクションとリアリティーとの境界線をしっかり引くことが大事だと思いました。

その意味では、栞や和音の言う「狂気」「執着」というキーワードの解釈が、世界を生ききる内実づくりとして求められるだろうと感じます。
原作は未読ですが、作家性がどのような指向性を向いているのか、気になるところです。



"君愛" は、センシティブとアカデミックな要素が入り混じっていることが高いハードルになりました。
また、暦の意識がシーンによってたびたび平行世界を行きつ戻りつしていることを理解するストレスを強く感じました。

それを補うのが "僕愛" のエピソードですので、両方を観る必要があります。
どちらかからを観るかではなく、両方を観比べること。
三者三様の相関性を掛け算のように掛け合わせながら、科学的な知見を少しと、情感の交わりを多めにして鑑賞するのがコツのように感じました。

後日、わたしの記憶と印象が薄れたタイミングを見計らって "僕愛" → "君愛" と順序を変えて鑑賞しました。
うん、この順番もあながち悪くなかったかなと思いました。
なので、私は「どちらでもお好きなほうから。でも必ず続けてみてほしい」と思います。

2作あわせて4時間になるのでお時間は頂戴しますが、都合がつけばいかがでしょうか。
大作というほどのグレードではありませんが、栞と和音という二人ヒロインの人生を、交錯させつつ成就させるというコンセプトに触れてみるのも面白いかもしれません。

なお、"君愛" では暦と和音の出会いによって、研究目的がパラレルシフトからタイムシフトへと移行しています。
平行世界では栞は救えず、"なかったことにする" にはどうしても時間を遡る必要があったのですね。
その意味では、一粒で二度おいしいSFの味わいがありました。

恥ずかしながら(2原作×2アニメ)×3周で、やっと全体像が理解できました。
ついでに言うと "君愛" は原作のほうが好みでした。



苦肉の策で "僕愛"、"君愛" と使い分けて書きましたが、意味が通りにくいところが多々あったと思います・・。
それは、ひとえに私の筆才のなさです・・(汗)。

投稿 : 2024/12/03
閲覧 : 76
サンキュー:

6

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