薄雪草 さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
誠を嘘で締め括る
平行世界を描く2連作の一つ。
"君愛" と "僕愛" 。どちらから観ようかと少し迷いましたが、劇場のスケジュールに乗っかって "君愛" から鑑賞しました。
THE 純愛、そんな感じでしたが、"僕愛" から見返せば、一人の男が愛した二人の女という構図。
栞と和音の相関性で言えば、恋敵のようでもあるし、でも戦友でもあったような、不思議な取り合わせだったのではないかなって思いました。
"君愛" の栞にしてみると、和音はあくまでも暦の同僚で研究者仲間の一人なわけで、ほぼほぼ無関係な人物です。
でも、和音がいたからこそ、EDのシーンで "君愛" の二人が、虚質としての存在で、60年ぶりの邂逅が得られたわけです。
やがて二人の虚質は別の世界線に分かれてしまうのですが、非常に感傷的な気分になりました。
そう思うと、"君愛" の結末は "僕愛" の過程がなければ成り立たず、平行世界ならではの発想と落とし処だったと感じました。
ED後、やや唐突な印象で、暦と栞の会話が声のみの演出で表現されます。
これも、"僕愛" への伏線になっていて、そちらでははっきりと映像化されています。
こんな終わり方をされてしまっては、"僕愛" を観ないわけにはいきませんね。
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"君愛" も "僕愛" も、タイムシフトの完成は、それぞれ別ルートで描かれるのですが、"君愛" のエピソードでは、暦と栞のダイレクトな関係性が強く描き込まれているので、より感情に訴えかけてきます。
栞は暦に自分への「執着」を切り離してほしいと懇願し、和音は暦の意志の強さを「狂気」と言い放ちます。
言い方に違いはあれども、お互いに手の届かない暦なわけですから、痛ましいというか、呪わしいというか、抉られるような気持ちになりました。
二人の出会いをなかったことにするには、暦が死ぬことが条件という設定は、科学的な知見はよくわかりませんが、情感としては利己愛なのか利他愛なのかの線引きがあいまいな気がします。
似た作品に、シュタインズ・ゲートの牧瀬紅莉栖、ゆめみる少女の夢を見ないの牧之原翔子を思い出しますが、ともに人を好きになる思いに、命と世界とのバランスをとるために利他愛に振り切ったセカイ系、そうまとめていいのではないでしょうか。
でも、岡部倫太郎も梓川咲太も死ぬシナリオではなかったので、本作との違いをどう整理すればいいのか戸惑いもあります。
THE 純愛なのですから、命との引き換えというのは "美談" なのかもしれませんが、タイムシフトという革新的な技術が、誤ったメッセージを伝えはしないかとちょっぴり心配しています。
というのも、過去を見れば第2次世界大戦の特攻隊にそれが見られますし、現在においてもテロリズムや戦争の遂行にはなじみやすい要素があるからです。
本作は、道具としてのタイムシフトマシンがそれを表していて、そこにフィクションとリアリティーとの境界線をしっかり引くことが大事だろうなと思いました。
その意味では、栞や和音の言う「狂気」「執着」というキーワードの解釈が、ポイントの一つなのかなって感じます。
原作は未読ですが、作家性がどのような指向性を向いているのか、気になるところです。
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"君愛" は、センシティブとアカデミックな要素が入り混じっていることがハードルになりましたし、暦の意識がシーンによって平行世界を行きつ戻りつしていることを理解するストレスを強く感じました。
それを補うのが "僕愛" のエピソードですので、両方を観る必要があります。
どちらかからを観るかではなく、両方を観比べること。
三者三様の相関性を掛け算のように掛け合わせながら、科学的な知見を少しと、情感の交わりを多めにして鑑賞するのがコツに感じました。
後日、記憶と印象が薄れたタイミングを見計らって "僕愛" → "君愛" と順序を変えて鑑賞しました。
うん、この観方もあながち悪くないなと思いました。
なので、私は「どちらでもお好きなほうから、でも必ず続けてみてほしい」と思います。
2作あわせて4時間になるのでお時間は頂戴しますが、都合がつけばいかがでしょうか。
大作というほどのグレードではありませんが、栞と和音という二人ヒロインを別々の世界線で成就させるというコンセプトに触れてみるのも面白いかもしれません。
"僕愛"、"君愛" と使い分けて書きましたので、かなり読み取りにくいところがあったと思います。
その点は、私の文才のなさです。
ごめんなさい。