「ルックバック(アニメ映画)」

総合得点
78.3
感想・評価
68
棚に入れた
279
ランキング
563
★★★★★ 4.2 (68)
物語
4.2
作画
4.4
声優
4.1
音楽
4.1
キャラ
4.1

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nyaro さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0
物語 : 3.0 作画 : 3.0 声優 : 3.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

京アニ事件の消化か、実存主義的責任論か、アシへの未練か。

 原作既読で、私の原作の読み取り方って、京アニ事件への鎮魂かなと思っていました。例の事件が2019年で本作が2021年発表ですのでそれが正解かどうか時期で判断するのは微妙です。ただ、本作を読んだときに、あの事件で才能ある人たちが亡くなられたことについて、違う道に進んでいた方が良かったのか?創作に携わる事が不幸だったのか?という疑問が少し解決したからです。

 ただ、そう考えると鎮魂という生易しいことではなくクリエータとしてあの事件を自分で消化したかったのかなとも思いました。つまり、悼む気持ちよりも自分事と捉えたのかもしれません。

 結果として、ショックを受けてもヒロイン藤野はマンガ家であることはやめませんでした。つまり、漫画家でも画家でも結果がどうあれそうしなければ生きていけない人種だととりました。京アニ事件のショックを創作者の視点でとらえたという意味です。つまり意味付けも幸不幸もなく、創作者としてしか生きられなかった被害者と自分の生き方を消化したかったのかな、と。


 一方で、運命論を否定した実存主義的な人間の選択と結末についての自己責任論と捉えることもできます。もしあの時と考えたところで、進む道を選択したのは自分自身です。途中の妄想の中でifを考えたところで結論は変わりません。ただ、それレベルであればかなりの凡作に見えてきます。普通過ぎるくらい普通の話になってしまいます。

 そうしたときに、事件を単純にモチーフにしたととるだけだと、悼む気持ち、自分事と捉えていないなら、扱い方がかなり下品かなという気がしてきます。
 友情論もあることはあります。が「京本が死んだのが私のせい」と捉えている限りにおいて、ちょっと違うかなと思います。人生がクロスしなければというifはよくある話ですし、そこに注目しすぎると感動ポルノになりますし、創作論とも相容れません。味付け程度でしょう。

 創作論で言えば、2人を比較した場合、藤野は話を作る才能があった。京本は絵を描く才能が有ったあるいは、絵を上手く描く才能と漫画を描く才能と別物である、という話程度のことではないでしょう…ないと捉えたいです。

 やっぱり焦点は人生がクロスする場面の話ですよね。そこをしつこく書いていました。その出会いがなければ藤野は漫画家をあきらめていたわけで、ifを使ってそこに焦点を当てています。つまり、藤野にとって漫画を描かざる負えないということにつながります。そして、それを鎮魂ととるのか、責任ととるのかと考えられると思います。最後の数分、漫画の数ページですね。ここをじっくり考えると面白いと思います。


 で、実は現在「ダンダダン」が放映中です。「チェンソーマン2部」について、藤本タツキ氏の元アシスタントで「ダンダダン」の作者である龍幸伸氏の事を知ったわけです。「ダンダダン」の連載が2021年です。ちょうど本作の掲載時期です。

 龍幸伸氏の絵が素晴らしくて、彼がアシスタントを抜けてから「チェンソーマン」の作画がひどくなったという話があります。作中の2人の関係に非常に近しいものを感じます。ですので、藤本タツキ氏の龍幸伸への未練を断ち切る作品だったのかな、という気もします。

 そうなると完全な自慰行為じゃんと思わなくはないです。まして、殺される結論とそのモチーフとして京アニ事件を出すなら最低だと思わなくはないです。

 で、本作の劇場アニメ版ですが、私は演出過剰で冒頭の空から住宅にズームするシーンからちょっとイラッとしました。それは本作の中身を味わうのに必要なのか?という気もします。そして、机の上に鏡があってヒロイン藤野の顔を映していましたが、余計な演出です。背中で魅せるのが良かったのにと思います。

 と上げてゆくときりがないですが、原作はわずか140ページ程度の短編なので余白、行間があった作品です。無駄な演出で水膨れになっただけじゃんという気がします。
 そして今回、上のどの解釈が正しいのか、新しい視点はないのかと思い見ました。が、原作でいいじゃん、という内容でした。60分足らずの作品にわざわざアニメ化する意味があったのか疑問が残ります。

 評価3なのは上の解釈の答えがわからないので、評価できずにします。そして、原作が2021年だから京アニ事件の鎮魂・消化の意味があるのかなともとれましたが、2024年に見ると、自己責任論・運命論かアシスタントへの未練かどちらかに見えてしまいます。


追記 評価した部分を書いていなかったので追記します。

 創作論、云々よりやっぱり人生における分岐点の話、そういう人がいたという話の方が本質に近いのかなという気もします。どっちの才能が上という話ではないし、お互いが依存していた話でもないし。
 内容は、人の死に意味があるとすれば、人との交わりである…うーん、やっぱり実存主義的な話なのかなあ。原作版そのものはまだまだ色あせていない気もします。


 そして、アイデンティティの問題ですね。変わり者といわれてもその道を行くのか。平凡に生きるのか。いばらの道に行くのがマンガ家であるというのも大きな話の幹ですね。

 その選択のきっかけとして承認があったわけで、その承認をしてくれて自分を漫画家まで持ち上げてくれた人物の死の話がありました。

 だから、その人の死を悼むには漫画を描くしかないということがもっとも中心となる話の構造でしょう。もちろん、この部分があるから私も評価しています。

 

投稿 : 2024/11/09
閲覧 : 62
サンキュー:

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