ひろたん さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ヤマアラシのジレンマ
長井龍雪監督らしいテンポがよくて、それでいて意味不明にならない丁寧な展開。
脚本は、岡田麿里さんらしいファンタジー要素はあるが基本はこってり人間ドラマ。
今回もお家芸の三角関係あり。
キャラデザは、特に女性キャラのくりっとした可愛い目が特徴の田中将賀さん。
ただ、キャラの一人が「あの夏」の主人公にしか見えなかったのが残念なところ。
そして、この物語で一番面白い、と言うより、怖いのは、「ふれる」の存在そのもの。
視聴者は、物語の前半にきっと妙な違和感を覚えることと思います。
なんだか、気持ちわるい・・・。
その違和感は、実は正しいのです。
その理由が分かったとき、「ふれる」の存在にゾクっとします。
■「ふれる」と言う存在ってなんでしょうね?
{netabare}
人付き合いで、一番楽なのは、お互い本心を出さないこと。
そうすれば、お互いの嫌な面も見ることもなく無難に付き合うことはできます。
でも、本心に触れないので、信頼することはできません。
その場合、本当の親友になることもできません。
だからと言って本心をさらけ出すのはなかなか怖いものです。
なぜなら、どうしても嫌われたらどうしようと不安になってしまうからです。
そこで、「ふれる」の登場です。
「ふれる」は、どことなくヤマアラシに似ているキャラです。
ヤマアラシと言えば、「ヤマアラシのジレンマ」と言う話が思い浮かびます。
これは、哲学者ショーペンハウアーが作った寓話です
人間同士が仲良くなろうと近づきすぎると互いに傷つけあって
一定距離以上は近付けない心理を指すそうです。
人間同士が仲良くなるには近づくことが条件です。
しかし、近寄りすぎると考え方の違いから緊張感にさいなまれ、反発が起きます。
また、離れすぎてしまうと疎外感が生まれ、違和感を抱いてしまいます。
このことをベースにこの物語は組み立てられています。
近づきすぎても考え方の違いが生じないように「ふれる」は力を使います。
そして、3人が離れないように、いつも一緒にいるようにと「ふれる」は振舞います。
こうして、「ふれる」は、疑似的に3人が仲良くできるようにしていました。
しかし、最初は、そのことが明かされません。
「ふれる」のおかげで、3人は、お互い以心伝心だと思い込んでいたのです。
結果的に、3人はベタベタいつも一緒の仲良し三人組となっていました。
しかし、このことが、私たちの実生活における実感とは、とてもかけ離れていました。
つまり、「そんなこと、あるわけないじゃん」って感じです。
そこが違和感の正体だったのです。
この物語では、最後、本当の友達なら距離は関係ないと言う結末に帰着します。
「ヤマアラシのジレンマ」を克服したことを象徴する上手い結末だったと思います。
また、「ヤマアラシのジレンマ」がなければ本当に人間関係は上手くいくのか?
それを「ヤマアラシ」キャラを使って物語にしたアイデアはなかなかなものでした。
{/netabare}
■まとめ
岡田麿里さんの脚本は、哲学をベースにすることがあるようです。
ご自身の作品の「アリスとテレスのまぼろし工場 」も哲学がベースでした。
哲学ってなんだか難しいですよね。
でも、こうやってアニメで表現してもらえると親近感がわいてきます。
哲学って、言葉にするとなんだか学術的です。
しかし、その本質は、私たちが日頃生きていく中での悩み事に対する考え方です。
とても身近なものなのだと思います。
今回の作品も「友達になりたい」、ただ、それだけのことです。
しかし、人間は、不器用なものでそれにすごく悩んでしまうことが多いのです。
その悩みに対しては、決まった答えもありません。
しかし、自分で答えを出し、行動すれば前には進めるんだろうなと感じます。
この作品もそのことがよく表現されていたと思います。