101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
<小市民>にだって興味深い動機が潜んでいる
米澤 穂信氏による同名推理小説シリーズ(未読)の連続アニメ化作品の1期目(全10話)
【物語 4.0点】
同作者の『<古典部>シリーズ』のアニメ化作品『氷菓』同様、
学園生活の日常に潜む、不可解な出来事を、
平穏な〈小市民〉を目指す主人公高1男子と、
独特な協力関係にある同学のメインヒロインも巻き込み、また、巻き込まれつつ、
“名探偵”気質の好奇心から、つい解明してしまい、今日もまた〈小市民〉から遠ざかってしまう青春ミステリー。
1話~数話完結の事件を経る内に、
ヒロイン・小佐内ゆきの秘めた心情が徐々に明らかになり、
二人の関係に決定的な転換点が訪れ、1期は締めくくられる。
例え猟奇的な犯行で人が死んだりしなくても、
惹き付けられる動機があれば、ミステリーって出来るんだなと再認識。
そして恋慕は、人を嘘や奇行に走らせると改めて思い知らされました。
さらに、心理解明の矛先が、普通は白日の元に晒さない動機を暴いてしまう、
“名探偵”の性にまで及ぶのが興味深かったし、怖かったです。
世の中には、違和感があっても、そっとして置くことで丸く収まることが多々ある。
そこに狐の如く知恵働きして食い散らかしてしまう“名探偵”小鳩くん。
嫌われても致し方ありませんし、そういうとこだぞと言ってやりたくなります(苦笑)
一方で、ヒロイン・小佐内さんは、平和な<小市民>の日常を糊塗する中で、
嘘や復讐は何処まで許されるのかという問いを内包しています。
ラスト(※核心的ネタバレ){netabare} 復讐相手を誘拐犯に陥れた件が、小鳩との関係解消の決定打{/netabare} となったわけですが、
私も小佐内さんやり過ぎだとは感じました。
が、嘘が全て許されないかと言うと、そうでもないという弁明には情状酌量の余地もあり。
青春における真実の究明の必要性と嘘の許容範囲という、誠にそそるテーマを提示して持ち越される2期。
来年4月予定の放送期間中、私も悩むのを楽しみにしています。
ここまで好評を並べて来ましたが、
単話レベルで見ると、展開が淡々としていて退屈することも。
正直に白状すると、私は何度か寝落ちしましたw
できるだけ頭が冴えている時を選んで観たい、渋いミステリー作品です。
【作画 4.0点】
アニメーション制作・ラパントラック
昨年のTVアニメ版『アンファル』で、背景美術と小物によるムード演出に関しては信頼できるスタジオだと好感していたので、
制作会社は私の視聴を後押しする要因となりました。
舞台となった岐阜のロケハンからの落とし込みも良好。
夏に展開された“小佐内スイーツセレクション”についても、
各店内の描き込みも含めて“飯テロ”は周到でした。
見事な造形のパフェを眺めていて、
私も聖地巡礼行きたいなとも思いましたが、
行ったら間違いなくスイーツで食い倒れるのでw
胃腸の調子と相談しながら機会を伺いたいですw
会話劇中心で単調になりがちなシナリオを、
作画による演出で支える、また、本作を実写ではなくアニメーションで制作する意義を確立するため、様々な工夫が施された本作。
シネスコサイズの大画面に、大胆な人物配置やアングルを入れてみたり。
全部シネスコサイズで撮影処理したというわけではなく、OPアニメーションではシネスコ画面枠外から、
主人公&ヒロインを象徴する狐と狼が舞い込む演出が成されるのも粋でした。
果ては会話中、物理法則を超越した「背景チェンジ」を次々に繰り出してみたり(※1)
が、私の眠気を覚ますには、「背景チェンジ」にもうひと工夫、
心情を示唆するなど、考察を煽る要素を盛り込んで欲しいという要望も残りました。
もっとも、第三話では小佐内さんのドス黒い感情を示唆するため真っ赤な夕暮れの「背景チェンジ」を仕掛けるなど、
「背景チェンジ」による実験的な心情演出は成されていたそうですが(※2)
率直に、私には、そこまで心情をえぐって来たなという手応えは感じなかったんですよね。
2期目では、会話にリズムを生み出すだけでなく、より噛み応えのある情報量の多い「背景チェンジ」で、寝落ちしかけた私を叩き起こして欲しい。
今後の期待も込めて作画は、ほぼ4.5点の4.0点ということで。
【キャラ 4.0点】
主人公・小鳩常悟朗と腐れ縁の新聞部員・堂島健吾。
無骨で不器用な好漢として、私にとっては作中ほっと一息つけるスポット。
一方で、小学校時代の小鳩を知る彼に言わせれば、
今の<小市民>を目指して、才能を隠し、猫かぶっている小鳩は腹に一物抱えた嫌な奴らしい。
小鳩は、ある程度<小市民>志したほうが良いと思っている私とは逆の小鳩観。
では、どこが小鳩くんの落とし所なのか?
小鳩にはラスト(※核心的ネタバレ){netabare} 仲丸という彼女もできましたが、{/netabare}
2期以降、小鳩を見極める際も、私は堂島を頼りにしたいと思います。
小佐内さんに加えて、堂島という視点“拡張キャラ”がいる小鳩と異なり、
1期において、ヒロイン・小佐内ゆきには、ほぼ小鳩くんしか観察眼がなく、
より謎が残った感。
その意味において、ラスト(※核心的ネタバレ){netabare} 小鳩と離別後、彼氏となった瓜野高彦の新コンビで、2期以降、小佐内さんの何がこぼれ落ちるのか、垂涎の食欲の秋です。{/netabare}
【声優 4.0点】
リップシンクを廃した、ほぼプレスコに近い手法で収録し、
声を張らないナチュラルな会話劇を追求する。
ヒロイン・小佐内ゆき役の羊宮 妃那さん。
これまで数多くの役を射止めてきた傑出したモグモグ演技への期待もまた、
私の視聴動機の一因。
が、今回は、スイーツを頬張る演技も、そこまで露骨じゃなかった印象。
一方で、ふわふわした声質の中に、芯やクセを込める羊宮さんの特技は相変わらず。
スイーツへの執念はむしろ、淡々とした演技の中に垣間見える、
狐狼の如き復讐心の強さから痛感しました。
食べ物の恨みって恐ろしいですw
そんな羊宮さんと掛け合いを繰り広げた主人公・小鳩常悟朗役の梅田 修一朗さん。
人の秘密を暴いてヘイトを受ける際も、人当たりの良い高音ボイスを崩さない。
怒りのぶつけどころが分からなくなる、良い意味で嫌な狐ぶりでした。
そんな小鳩くんでも、小佐内さんのこととなると、多少語気を荒げていたのが印象的でした。
やはりこの2人、<小市民>を目指す利害が一致したコンビ関係だけではないことが、
掛け合いの演技からも伝わって来ました。
【音楽 4.0点】
劇伴担当は小畑 貴裕氏。
会話と推理を邪魔しないため、基本は無音と環境音。
心情が滲んで来た際に、スッとピアノやストリングスが挿入される静かな構成。
氏のバックボーンがジャズとあって、スイーツが美味いおしゃれなカフェにもマッチ。
OP主題歌はEve「スイートメモリー」
柔らかい高音男性ボーカルとメロディで、
“君が真実(ほんとう)でも嘘でもどうでもよかった”とクリティカルヒットを決めて来る。
油断できない良作バラード。
ED主題歌はammo「意解けない」
如何にもトイズファクトリーな、しゃがれ声の気だるけバンドサウンドに乗せて、
紹介される実写の岐阜の映像で、ホッと一息付いた所で、
“表でも裏でも君だよ”とかまして来る、やはりこちらも確信犯。
【参考文献】(※1、※2)Febri「第2期決定!監督に聞いたTVアニメ『小市民シリーズ』の演出術」