「小市民シリーズ(TVアニメ動画)」

総合得点
68.6
感想・評価
190
棚に入れた
521
ランキング
2047
★★★★☆ 3.4 (190)
物語
3.3
作画
3.8
声優
3.5
音楽
3.3
キャラ
3.3

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ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

このこじらせ案件、どう推理する?

断片化された情報を推理でつなぎ止め、仮説と検証で見えないストーリーの本筋をたぐり寄せる。
シナリオに隠された事実を拾い上げ、状況証拠を積み上げ、動かぬ評定を導き出す。

推理ものは、導入(場の空気感)、展開(謎解きの手順)、結末(驚きと納得感)が高いレベルにあればあるほど、見終わった時に得も言えぬ醍醐味が感じられるものです。

さて、本作の "知恵働き" は如何なる面白さでしょうか・・。



ラノベ原作・学園もの(未読)ですので、読者層は若い方に共感できる作りなのでしょう。
思春期心理のあいまいさ、立場ごとの正義感の違い、価値観のすり合わせ方などがテーマでしょうか。

15才の小鳩くんは知恵働き者を自認し、関心の持てる事案なら、つい出しゃばっては敵を作ってしまうタイプ。
そんな黒歴史を振り返り、高校入学を機に小市民と公言しては自己規制に勤しむようです。
そこを突くのが小佐内さん(中学の同級生)だったり、堂島くん(小学の同級生)だったりするんですね。

でも、むしろ小鳩くんは二人に振り回されることに歓びを感じているようにも思えます。
彼は、口では小市民と言いながら、身についた癖は変えられないし、それほど中身は変わってはいないと言ってよさそうです。
二人はそれを面白がり期待もする、ある意味トラブルの供給者であり、小鳩くんは最高の道化師役なんですね。
その意味では、三人はよき理解者同士ということでしょう。

名探偵を名乗る高校生キャラは、小鳩くんよりもメジャーで、世界を股に掛ける絶対的なヒーローが別作品にいるので、せいぜい一地方の限定甘々事件に関わるくらいがほどほどの味つけ。
事件をスカッと解決するわけでもなく、なんとなく小市民的な落とし所を見つけて安泰しているキャラと言って良さそうです。



小佐内さんは、幼そうな顔立ち、か弱そうな外見とは裏腹に、とんでもない腹黒な奸計家でした。
そんな彼女の性格、私は嫌いじゃありません。(好きでもないですが)。
彼女の人となりは、春季と夏季とで少しずつ開示されますが、どうやら中学時代に "虐められていた" ようです。

小佐内さんは小柄だし、自己主張も弱そうなので、悪い人に目をつけられたら大変かも。
泣き寝入りか、逃げ回るかして、身の安全を図るのが精いっぱいといったところでしょうか。

そんな彼女が小鳩くんに近づくのは、無難に生きていく手立て、危機管理の一つだったのかも知れません。
ただ、本当の目的を果たすためには、なんだって利用する、まさかの展開だって厭わない。
それほどの苦々しい記憶に、リベンジを誓っていた小佐内さんだったのですね。

でも、彼女の動機がそれだけかと言うと、ちょっと違和感があります。
シリーズものとして、まだ何か大きな秘密を抱えていそうなキャラという評価です。



序盤導入のラブレターのお話とかココアのお話は、なんだかよく分からない展開でしたが、堂島くんのプロフィール紹介(正義漢ぶりで甘党?)みたいな雰囲気でした。
でも、前後に関連づくプロットになっていたかというと、少し弱かったかなと感じました。

イチゴタルトがぐっちゃけたのは小佐内さんにはお気の毒でしたが、自転車泥棒騒ぎから彼女の意外な側面を浮き上がらせるにはいい流れに思いました。
ただ、粘着質の割には自転車にロックしなかったのはなぜ?という引っかかりがあとに残りました。

シャルロットの案件で、小佐内さんが小鳩くんにマウントを取るターンに切り替わり、彼女のリベンジに加担させられる展開は、意外性があり面白かったです。
小市民から極悪人への豹変、"互恵関係" の裏設定の種明かし、春から夏へのエポックだったということですね。

とは言え、この春夏シリーズでは、中学時代に訳ありな共感性を持つ二人であっても、視聴者にはどうにも情報が少なすぎて、二人が仲良くする理由や背景が今一つ謎設定なんですね。
このあたりの構成は、ちょっと詰めが甘いというか、興がそがれる思いで観ていました。



小市民という言葉は、一般的にはプチブルジョアを指します。
持ち得る資産があり、そこに労働と生産の喜怒哀楽を含む言葉です。

本作に言うところの小市民の定義は、推理への行き過ぎた有能感からくる奢りへの反省があり、ゆえに目立たず人並みでいたいという望みが込められているように思います。

小鳩くんのそれは、他人への干渉に使ったり、結果として厭われることは避けるべきという "ブレーキ装置" になっている感じです。
小佐内さんは、復讐を果たしたいのはやまやまでも、それをおくびにも出さないという "隠れ蓑" のようなニュアンスです。

小鳩くんはプラス方面の自意識過剰、小佐内さんはマイナス方面のそれという、それぞれ真逆の "資質" を持っていて、だから二人に生じる感情や行動もまた真逆なところが見ものです。
そんなギャップが大きければ大きいほど、ストーリーは面白くダイナミックに感じられました。

とは言え、小鳩くんのつい人には言いたくなる知恵働きも、小佐内さんの絶対に人には言えない憤怒の念も、そうは簡単には変えられないし、抑えきれないものです。
思春期真っ只中の二人は、湧きあがる情動を大いに持てあましており、だからこそ、こじらせ案件を起こしては推理に走り回り、ついには意外な着地点につながっていくのですね。

自分にとっての正義のカタチとは・・・。
あるいは、あるべき人間の姿とは・・・。
何を選ぶべきであり、また、何をなさざるべきなのか。

言わば、自分なりに正しいと思える自己覚知に至るプロセスのありようが、この作品のミソなのかなと思います。
それを「小市民」として定義付け、そこから逸脱してしまうプロセスとプロフィールとを、視聴者に問うているように思えます。



どうやら小佐内さんのプランニングは、新しく友だちになった堂島くんにもその目はしっかり向けられていて、使える役柄かどうかを吟味していた気配があります。

その意味では、小佐内さんの執着心、というよりも "恨みの念" のパワーってすごいなと思います。
2年越しの春季限定イチゴタルトが、怖いくらいの行動力を弾けさせるわけですから、夏季限定の采配はもっと恐ろしい。

彼女は、中学でいじめてきた女子生徒たちに社会的制裁を果たすために、イメージとプランを何度も練り上げ、頭の中で完璧なスケジュールを組み立てていたのですね。

わずか15歳で、シナリオライター、プロデューサー、ディレクター、アクター・アクトレスを一手に切り回していた小佐内さん。
彼女の目線に立って、あらためてお話の中盤までを見直してみると、いろいろと納得できそうなヒントが見つけられました。

初見のアニメユーザー向けには、初手として、小鳩くんとの関係性を丁寧に描き(恋バナ?と思わせるミスリードも織り込んであるのもうまいところです)、次いで、複数のキャラにも出番と役どころを与え(群像劇として進めているのかも?と刷り込ませるテクスチャー)、果ては、小鳩くんどころか、視聴者さえも手のひらの上で転がすというどんでん返しのナビゲーション。

"小市民" は、日常のささいな出来事に、いくらかの知恵を働かせるのが精々のものとして規定していたはずなのに、小佐内さんの腹の中は、そんな甘々な枠組みにはとどまっていなかったわけです。
小鳩くんが推理するほどに、小佐内さんは少しずつ "小市民" から逸脱し、すっかりタバスコ風味に認定されるんですね。

スイーツ巡りに終止符が打たれる9話以降、小鳩くんや堂島くんが最大限活用されていたことが小佐内さんの口から開示されるに至り、なんとなく甘い関係性が続く青春譚と思っていたところを、ドカンと欺くようなオチを作るとは、ものの見事に一本取られた気分です。

高校1年生は、確かに "小市民" かも知れませんが、あくまでそれは見かけ上のもの。
一皮むけば、思いもよらない過去を抱えていることもあるし、むしろ復讐に手を染める意思を練り上げ、実行してしまうことも厭わないなんて、あらためて "小市民" って侮りがたいワードだったんだなと思い至りました。

まさに人を食ったようなタイトルと言えそうです。



夏休みに決行することを決めていた小佐内さんは、小鳩くんを抱き込んだあと、必要な役者をそろえ、マップを用意し、ルート読みさえも仕込むというきめ細やかさです。いえ、手練れ者です。
きっと小鳩くんが推理に走るほど、うきうき、ワクワク、そしてシメシメと思っていたに違いありません。

そんなことは小佐内さんは素知らぬ体で小鳩くんに接し、小鳩くんも彼女の本心などつゆ知らず、ただただ "小市民" 的なシンパシーで向き合い、共鳴しあっていたんだとすれば、さすがにお人よしすぎるというか、狐につままれたようなむずがゆい思いになります。

小佐内さんの可愛げな素ぶりや、もったいぶった口ぶりに、いつかは恋バナの流れが来るのかなと思わせつつ、かつ、フルとかフラれるとかの感情の深まりにも行きつかせず、ただ小鳩くんに推理させ、自分の目的を達成することが狙い目だとすれば、恋愛感情は鼻から必要なかったんですね。

氷菓では「わたし、気になります!」という直球的なセリフでしたが、本作は「わたし、気にさせます!」みたいな言わば意味ありげな変化球。
中学校からよく知っている小佐内さんならではの巧妙な配球だったということなんでしょう。

オススメスイーツご同伴なんて、かなり特殊なマッピングとゾーニングの刷り込みも、どうにも発想が日本的じゃない感じです。
でも、もしかしたらこの手合いは、彼の家が和菓子屋の息子であることを逆手に取ったプランだったのかもしれません。

なかなか手の込んだセットアップですが、今思えば、彼女は小鳩くんの性格分析に十分な知見があり、彼を思いのままに操れる自信と見通しを持っていたのでしょう。
彼だからこそ、危ない橋も渡れるし、鉄火場に首を突っ込む勇気が持てるのですね。

小悪魔的な思わせぶりでなびかせ、男の子たちの強みを全部活用して、自分の計画通りの結末へと目的を果たす。
ここだけを切り取れば、小佐内さんは、かなりな悪女ぶりと言って良いかもしれません。

でも、小鳩くんに「痴話げんかもできない」なんてしれっと言う辺りは、もっとステディな関係を作りたかったのかもと思わなくもないです。
そのためには、スイーツマップの完全制覇にかこつけた、親密な時間を共有する "甘々な夏休み" にしたかったのかな?とも思っています。

とまれ、小佐内さんは、小市民というフレームからは逸脱せざるを得ないシナリオライターだったわけですから、今季の「春と夏」版は、落ち着くべきところに落ち着いたと言うことなのかもしれません。
「一挙両得は難しいもの」。
そんな教訓を思い出すような面白さを感じました。



さて、2期の制作も発表され、新しいキャラも登場しそうです。
ただ、忘れてならないのは、小佐内さん特有の強すぎる執着です。
「積極的な男の子は嫌いじゃない」という彼女の台詞も、何気に意味ありげですし、次のシナリオへの布石なのかとも勘ぐりたくなります。

言うなら、小鳩くんに愛想づかれたことでのリターンマッチ。
小佐内ドクトリンの発動があるのかないのか。
果たして、彼女は誰を本命のターゲットに動こうとするのか、はたまた小鳩くんとのリセットマッチを目論むのか・・。

ちょっとマゾッ気な気分?で、小佐内さんのご活躍を楽しみにし、あれやこれやと推理しながら待ってみようかと思います。

投稿 : 2024/10/10
閲覧 : 88
サンキュー:

15

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