青龍 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「小市民」ごっこ
アニメ化された『氷菓』などの米澤穂信による原作小説は、『創元推理文庫』(東京創元社)で刊行中(既刊6巻、原作未読)。
アニメ1期は、全10話(2024年)。監督は、『エルフェンリート』、『すべてがFになる』、『約束のネバーランド』などの神戸守。制作は、『エンドライド』、『アンデッドガール・マーダーファルス』などのラパントラック。2期が2025年4月から放送予定。
(2024.9.19投稿)
【『氷菓』より『すべてがFになる』や『アンデッドガール・マーダーファルス』の方が近い?】
まず、本作を観て思ったことは、同じ原作者で京アニが作った『氷菓』と同じイメージを期待して観ない方がいいということ。確かに、両作は、高校生が日常に潜む謎をロジックに基づいた推理で解いていくというシチュエーション自体は非常によく似ているのですが、話の中心となる二人の男女の関係性が大きく異なっています(後述)。
本作は、『氷菓』より、同じ神戸監督が手掛けた『すべてがFになる』や、ラパントラックが作った『アンデッドガール・マーダーファルス』の方が近い印象(だから、この監督と制作会社の組み合わせになったのでしょう。また、これらの作品が好きなら、本作もオススメできます。ちなみに、どっちもレビュー書いてます(笑))。
どちらの作品も、緻密なロジックに基づいた推理を得意とする主人公とその相方が繰り広げる軽妙なトークが見所で、登場人物たちにはフランス映画のように一風変わったところがあるという共通点があります。
なので、これらの作品を知らない場合でも、「ロジックに基づいたミステリー作品」と「フランス映画」のどっちも好きだ!という人にオススメできる作品だと思います(別の言い方をすると、『氷菓』より人を選ぶ作品だと思います)。
【二人の主人公の関係性の違い】
『氷菓』のヒロイン・千反田えるは、優等生ではあるものの、あの有名な「わたし、気になります!」というセリフと共に目を輝かせ、主人公の折木奉太郎に対して日常に潜む謎を推理するよう一方的にせがむというのが基本的な関係性でした。
他方、本作では、主人公・小鳩常悟朗(CV.梅田修一朗)の推理の最大のライバルで同等の推理力を持つのがヒロイン・小佐内ゆき(CV.羊宮妃那)という関係性になっています。
本作は、ゆきのスイーツ好きに常悟朗が付き合わされるうちに、何らかの事件に巻き込まれるというパターンなのですが、常悟朗視点で物語が進み、ゆきが何を考えているのかわからないようになっています。
例えば、常悟朗の実家が「和菓子屋」で、ゆきは、そのことを知っているにもかかわらず、一緒に「洋菓子」ばかりを食べ歩かせる(笑)
まあ、これだけだと、一見、仲睦まじい高校生カップルのように見えるのですが、このスイーツ巡りが終盤の伏線になっていて、実は、お互いの本音を明かさない部分での二人の知恵比べが1つの見所になっています。
{netabare}さて、最近のアニメを観て思うことは、主人公だけ最初からチートクラスに強いので、ライバルが弱すぎるということ。
でも、主人公の強さや凄さを引き立たせるのは、「ライバルの強さ・凄さ」だと思うわけです。例えば、星飛雄馬と花形満、桜木花道と流川楓、夜神月とLなどなど。
本作では、最初、単にスイーツ好きのお気楽な女子高生なだけかと思いきや、小佐内ゆきが何を考えているのかわからず、次第に不気味さすら感じさせてきます。
ヒロインが主人公の推理の前に立ちはだかる最大のライバルという点が本作の特徴でしょうか。{/netabare}
あとは、二人が単なるライバル関係ではなく男女ということもあり、ゆきの常悟朗に対する恋愛感情もブラックボックス。その辺も考察しながら観ると面白いかもしれません。
【「小市民」ごっこ】
というわけで、本作の主人公とヒロインは、人並外れた緻密なロジックに基づいた推理を武器としています。
この二人、幼いころは、そんなことまでわかるなんて、すごいねーと周囲からチヤホヤされた時期もあったことでしょう。しかし、次第に歳をとっていくうちに、「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」といわれ始めたに違いない(笑)
辞書的な「小市民」の意味は、中産階級、プチブル(ジョワジー)、一般人、普通の人。
もっとも、本作で常悟朗が小市民にとって一番大切なことは、「現状に満足すること」と言っている。そうすると、本作でいう「小市民」とは、一度この世に生を受けたのであれば何事かをなしとげてやろうというのではなく、「何事もなく、ただ毎日を平穏に過ごしたいと思っている人たち」くらいの意味なのだと思います。
二人は、才能を披露しても、感謝されるどころか疎まれるのであれば、もう何もしない、日々平穏に暮らすだけの小市民になってやる!と意気投合したんじゃないでしょうかね。いうなれば、「小市民」ごっこをしようと。
もっとも、二人は、こうして小市民に憧れながら、その推理の才能が小市民でいることを許さない(笑)
ただ、個人的には、恋愛については小市民的な方がいいとも思うわけです。
人生一度は『ロミオとジュリエット』のように破滅するような激しい恋慕に身を焦がしたいという憧れはあるかもしれませんが、「小市民的な恋愛」とは、「ただ何となく一緒にいることが心地よい」ということになるでしょうか。
二人は恋愛関係にあることを否定し続けるので({netabare} 最終的には、この二人の謎の関係も終わりを迎えます{/netabare})、「小市民」ごっこの延長でスイーツ巡りもしていたのだと思います。
でも、二人のスイーツ巡りは、二人の憧れであった「小市民」を体現していたと思うんですよね。ごっこ遊びが本当になる。謎解きは止められないとしても、こっち(恋愛)は、アリだと思うんですけどねえ。
さて、2期以降で、二人の関係はどうなるんでしょうか。