とまと子 さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
風に向かう
原作は読んでいませんが、羽海野チカさんが「ハチミツとクローバー」のあとに中学生でプロになった高校生棋士(将棋)を主人公に描いた漫画です。
実写映画にもなっていて、ポスターで見た主役の神木隆之介さんが漫画そっくりでびっくりした覚えがありますw
その映画の写真でも、原作漫画でも、このアニメでも、主人公=桐山零の伸ばし放題のようなボサボサの髪が風になびいていて、まるで風に向かう若い…というよりも幼いライオンのように見えます。
この物語は将棋のプロ棋士という「勝負師」たちの物語です。
彼らはみな「勝ち」にこだわり、しがみつくように闘い続けていくのですが、登場する個性的な棋士たちひとりひとりのエピソードは、彼らがただ自分の生活やプライドのために負けられないのではなく、それぞれの家族や家庭、誰かとの繋がりを守り続けるために闘い、勝つために挑み続けているのだ…ということを丁寧に解き明かしていって、どの棋士も…憎まれ役であるはずの棋士も含めて、とても魅力的に見えてきます。
彼らはみな、自分の群れを自分に繋ぎ止めておくためだけに闘う、雄ライオンなのかも知れません。
ただ主人公の零だけは、独りきりでがらんどうのようなマンションの一室で暮らし、ただその日その日をやり過ごすように生きていて、自分には「勝つ理由がない」と感じています。
彼には誰との繋がりもなく、「勝つ理由」の前に「たたかう理由」が見つからないのです。
どちらが進むべき方向かわからない中、橋の上で千々に乱れる強風に巻かれるように…このアニメでは何度も繰り返される”溺れる”シーンのように、上下も前後も見失って迷っているようです。
でも彼は、そんな勝負の世界とは無縁のようなあたたかさに満ちた川本家のひとびとに出会います。
そして彼自身も気づかないうちに、温かな人々との繋がりが生まれていき、彼らに癒やされ、励まされるるようになっていきます…。
まだ2期を観ていないのでこれから物語がどうなっていくのかはわからないのですが、零が少しづつ人との繋がりを取り戻し、そこから「たたかう理由」を、「生きる理由」を、見つけ、まっすぐに風に向かって歩いて行く…物語になってくれたらいいなと思います。