とまと子 さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
惜別
わたしがリアタイでアニメを追いかけ始めたのは夏目友人帳の4期=「肆」からでした。
そこから1期から改めて観とおして、ずっと大切なアニメとして追い続けています。
もう6期まで続いていますけれど、でも原作連載はまだ続いていますし、わたしとしてはこれからももっともっと、ずっと続いてほしいと思っています。
この映画は現時点でシリーズ中最新作になりますが、「石起こし」と「怪しき来訪者」の2つの完結したお話からできていて、それぞれがちょうどTVシリーズ1話分くらいの長さです。
映画のように直接にお金になる形であればもっと続く…というわけなのでしたら、こういう形でもいいです。
とにかく、終わらないでほしい。
まだまだ、貴志くんとあやかし達のいる世界で遊びたいです。
この映画を観ていて、はじめて感じたことがあります。
貴志くんが妖しの世界の近くにいる、ということはもちろん最初からそういうお話なのですが、それがもしかしたら貴志くんの”何かの力が強い”というよりも、彼は普通に比べて人が持つべき”生命力が弱い”から…なのではないか?ということです。
華奢で色が白くて、女性であるお祖母様のレイコに間違われるくらいに線が細い…という設定ですが(そういう中性的なところが魅力的なんですけど♡)でも「病弱」という描写はありません。
だけれど、祖母のレイコさんも、貴志くんのご両親も、おそらくは若くして亡くなっていて、もしかしたら”短命の家系”なのかもしれない…
その「死」との近さゆえに、レイコさんも貴志君も妖しと話しができるのかもしれない…
原作者の緑川ゆきさんとしてはそんな設定はお考えじゃないかもしれませんが、でもそんなふうに考えると、この作品に通じてある”この世の儚さを達観している”ような感覚にも、なんだか得心がいくのです。
舞台が山間の静かな場所ということもあって、春・夏・秋・冬 の四季の移ろいはとてもしっかり感じられる夏目友人帳ですが、でもいくら蝉が鳴いていても風鈴が鳴っていても、ここで描かれる夏はどこか遠くにある感じがします。
まるでずっと昔の楽しかった夏を思い出すような、優しくてちょっとだけ胸が痛む…そんな感じがします。
往く夏を惜しむ
離れゆく人を惜しむ
この映画でも
「ちっぽけな人の子とこうして見た月のことも いつか懐かしいことになるのだろうか…ああきっと、あっという間か…」
というセリフがあって、そのシーンの美しさとともに深く印象に残ります。
わたしたちは今生きていて、これからももう少しは生き続けるのでしょう。
その間はまだ、この美しい世界にいられる。
でもこの世界が愛しければ愛しいほど、この瞬間も光の速さで過ぎていく「今」が惜しくなります。
惜しければ惜しいほど、すべてが大切に思えてきます。
それは何度もの別れを続けてきた貴志君が、藤原の家のひとややっとできた友人たちを愛おしく思うのと似ているのかも知れません。
そしてわたしはただ、この愛しい世界を美しい水彩絵の具で描き留めてくれる、この夏目友人帳に終わってほしくはない…と願ってしまうのです。