nyaro さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
破滅へ向かうきっかけと心理が生々しい。「僕ヤバ」闇落ち版。
「僕の心のヤバイやつ」の市川が一つ間違えると、本作の主人公春日になっていたのかなと思います。正直「僕ヤバ」の1巻の途中までいつ体操着を盗むんだろう?と思ってました(いや、チョコレートの手を握るシーンまでそう思ってたかも)。
本作あるいは原作と「僕ヤバ」の主人公は、青春期の潔癖と自分の内部にあるエロスとタナトス。持て余す性欲と破壊衝動。そこに理屈をつけるための読書。しかも読む本は…という比較が面白いと思います。
ボードレールの「悪の華」はどこか図書館とかで数編読んだ記憶がありますが、主人公春日の言うところの悪とはちょっと違うかなと思います。むしろ神という絶対基準を相対化させるような詩の印象がありました。
悪というのは特に青春期ではテーマですよね。本作でいう悪は、学校の破壊へと向かいますが、バブル期の尾崎豊氏の抱えていた「支配からの脱出」「既存の構造への疑問」のような、社会のレールへの疑問ではありません。
犯罪を犯す機会が偶然訪れたことによる悪による破滅という感じでした。それを加速する支配者の存在ですね。そして破壊衝動へと突き進みます。巻き込まれ型のテロリストでもありました。それが教室の破壊でした。つまり、彼の悪はいつの間にか正義へと転嫁されやらなければならない悪=確信犯となっていきます。
ただ、パンツ泥棒に至って彼の正義は仲村さんに認めてほしいという欲望に帰結していきます。「こんなに悪い事ができる」というアピールですね。つまり、彼の中にもはや「悪」はなく「悪い行為」が目的化してしまいました。
本来好きだったはずの佐伯さんと付き合うことができた。体操着も許してもらえた。ですが春日の心は仲村の虜になります。この辺は宗教的支配も似てきます。そう、この辺って宗教テロのメカニズムなんですよね。あの小屋はまさにあの狂気の宗教施設でした。
一方で佐伯の春日への執着ですね。悪…犯罪を糊塗しようとして、誰も出来ない善行を行う。胆力がついて女子を誘えるようになる。秘密を持ったが故に人にはない魅力を抱えてしまった。いままで女子に感じていたハードルの高さが、自分の行い故にどうでもよくなったのかもしれません。佐伯の優等生からすると今までの男子とは全然別に映ったでしょう。ここも「僕ヤバ」とつながる部分があります。
そして最後。破瓜の血を流すところを見せつけても、仲村には勝てません。女の執着の怖さはこの続きですね。
市川と山田の関係は春日と佐伯そのままです。少なくとも本作の春日や「僕ヤバ」の市川に共感できれば同じことをする可能性がある。ということです。「血の轍」よりも格段に自分にとってはリアリティがある話でした。
で、アニメ表現ですね。まあ、アニメ的魅力があるかと言われると否定的になります。しかし、この作品はリアリティが大事な気がします。何度も言いますが自分に起きるかもしれない話です。
ですので、この表現に寄せたくなる気持ちもわかります。少なくとも萌え絵ではダメです。ただ、実写にすると日本においては役者ありきになってしまうし、感情移入が難しくなることがあります。この表現で行きたいと思った意図は汲めると思います。
評価は普通にオール5でもいいんですけどね。ストーリーの区切りも悪くないと思います。最後が原作勢じゃないとわかりづらいかもしれませんけど。
OPEDがちょっと文学臭に作りすぎだったかなあ…でも…まあ類例のない怪作ですからね。うん、オール5にしておきます。「僕ヤバ」と読み比べすると面白いです。