青龍 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
幻想的な夜空に誘い出された、吸血鬼と人間との恋物語
アニメ化された『だがしかし』のコトヤマによる原作漫画は、『週刊少年サンデー』(小学館)での連載が2024年1月に終了(全20巻、原作未読)。
アニメ1期は、全13話(2022年)。監督は、『憑物語』、『ヴァニタスの手記』などの板村智幸。制作は、『東京リベンジャーズ』、『君は放課後インソムニア』などのライデンフィルム。フジテレビ、ノイタミナ枠。2024年1月に2期制作が決定。
(2024.9.12投稿 9.15追記)
タイトルの『よふかしのうた』は、Creepy Nutsによる同名の楽曲由来で、同曲は1期のエンディングとしても採用。ちなみに、オープニングもCreepy Nutsの『堕天』
【あらすじ】
上手く生きていると思っていた中学2年生の夜守コウ(CV.佐藤元)は、告白してきた女子を「好き」ってどういうことか分からないという理由で振ったことが原因で彼女の友達に責められ、学校に通うことが嫌になってしまう。コウは、現実逃避の手段として異世界に転生・転移するのではなく、なんとなく深夜の街を徘徊し始め、そこで酒好きで下ネタ好きだが恋愛には初心という一風変わった吸血鬼の七草ナズナ(CV.雨宮天)と出会う。
人として生きることに嫌気がさしていたコウは、ナズナに吸血されて自分も吸血鬼になることを望むものの、吸血鬼になるためには、「吸血鬼に恋をする」ことが必要であった。
そこで、コウは、『ナズナに恋をする』ために、ナズナと一緒に毎晩夜ふかしをすることになるのだった…
【幻想的な夜空に誘い出された、吸血鬼と人間との恋物語】
コウが住むような都会では、街のネオンが眩しすぎて、天の川のようなきれいな夜空を見ることはできません。しかし、本作では、夜空いっぱいにきれいな星空が描かれていて、それが現実世界ではありえない景色でもあり、幻想的で夜空に引き込まれそうになります。
本作は、そんな幻想的な夜空に誘い出された、吸血鬼というファンタジー世界の住人と人間世界に嫌気がさしていた人間との恋物語。
【「好き」とか「恋」って?】
コウは、あらすじにも書いたように哲学少年なのか(笑)、「好き」ってなんだかわからないので、自分が好きかどうかもわからないと女の子からの告白を断ります。
一つ考えられるのは、コウがこれまでの人生で十分な愛情を注がれてこなかった可能性です(コウは母子家庭で、息子が夜な夜な夜遊びしていることにも気づかいない程度に母親は育児に無関心のご様子)。
もっとも、私も、相手に触れたいという肉欲と区別された、プラトン的な「好き」とか「恋」(いわゆる「プラトニックラブ」)ってどういうことよ?そんなことって実際にありえるの?と問われて明確に答えられる自信はありません(笑)
まして、吸血鬼は人の血を食料とするので、この辺の価値観は人間と大きく異なります。
そうだとすると、吸血鬼の人に対する恋愛感情というものも、元が人だったとしても、人間の価値観からすれば、大きく歪んでいる可能性がある。
朝井リョウの小説『正欲』ではありませんが、多様性といってみたところで、人は別の生き物である吸血鬼のことを完全に理解することなんてできないのだとすれば、両者の間で本当に「好き」とか「恋」といった感情は成立するんでしょうかね。
【人として生きる生きにくさ】
学校や会社には行くべきである。朝は起きるべきである。夜は眠るべきである。
規範とは、こういった感じで「〜べきである」と記述される命題のことをいいます。我々には、こういった規範意識があるので、これに反する行為に対して罪悪感や背徳感、解放感が生じます(※上の例は、法規範ではないので、社会規範になります)。
したがって、コウは、学校にも行かず夜眠らないで外で夜遊びをしているので、一種の憧れもありますが、基本的に「なんて規範意識の欠片もない不届き者だ!」ということになる。
もっとも、こういった様々な社会規範に合致しているかどうかを判定するのは、その人の詳しい事情なんて知らない世間様です。そこで、世間体は、もっぱら外に現れている行為(学校や会社に行っているか、朝起きているか)だけで判断されます。
例えば、コウの幼馴染の朝井アキラ(CV.花守ゆみり)は、彼女自身色々問題を抱えていて、めちゃくちゃ早起きだけど、明け方(朝)に起きて学校に通っているから世間的には普通というのがおもしろい。
しかし、例えば、うつ病になってまで学校や会社に行く必要なんてありませんから、これらの規範を何が何でも絶対に守らなければならないというわけでもない。
まあ、そんなことは分かっていても、私の事情を分かってくれと世間様にいちいち説明して歩くわけにもいかない。
(※2024.9.15追記。文字を読むことはできるがうまく書くことができないという学習障害のある小学生が、その罪悪感から不登校になったというニュースを見たんですが、うまく書けないのは、本人の努力が足りないからだとか障害を言い訳にするなとかって明に暗に言われたんでしょうねえ。
もっとも、判断能力を備えているはずの大人は置いておくとしても、周囲の子供たちは、子供なので必ずしも悪気があって言っているとも限らず厄介ですが…)
なら、いっそ人間なんか辞めてしまって、俺は吸血鬼になる!というコウの決断は、実際にその選択肢を選択するかどうかは置いておくとして、多くの人が共感できるんじゃないでしょうか。
【声優】
ナズナ役の雨宮天さんの演技が、『この素晴らしい世界に祝福を!』のアクアの延長線上にあって、かつそれを発展させたような感じで、特によかったです。