「クズの本懐(TVアニメ動画)」

総合得点
83.2
感想・評価
1031
棚に入れた
5274
ランキング
330
★★★★☆ 3.6 (1031)
物語
3.5
作画
3.7
声優
3.6
音楽
3.6
キャラ
3.5

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nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

肉体と精神と関係性の不一致。クズばかりですがクズは不在です。

 原作コミックスが好きでアニメで見るのがちょっと怖くて見てませんでしたが、なかなかの再現度で満足でした。原作の印象が強すぎて内容がアニメと原作がごっちゃになっていますが、ほぼ同じなので問題ないでしょう。

 さて、この作品の題名である「クズの本懐」なんですけど、クズが出てこないんですよね。いや全員クズですけど、それが人間の本質だということでもあります。

 花火と麦の契約がキャッチーなのでそこがクローズアップされますが、結局「寂しさを埋める」「自分の存在を確認する」「関係性を継続させる」ためのものであることの言い換えです。
 セックスをしないというところが「好きな人とやる」ということの言い換えで非常に乙女チックでもあります。こういところがヒロイン花火の行為の大胆さと内面のギャップを上手く表していました。男と女のキスやセックスの意味の差も感じられます。

 そう、ヒロインが純情なんですよね。そこが上手く皆川茜先生と対比になっていました。ただ、茜は逆に他人の承認がないと男の価値が分からない女だし、好き嫌いとは関係なく自己承認というか男への復讐としてセックスするだけということで、見方によっては過去に縛られて恋愛ができない不自由な状態とも言えます。
 つまり、花火と茜は対になっていて心では鳴海を挟んで、そして肉体では麦を挟んで、恋愛が分からない表裏の関係になっています。この構造がいいんですよね。自分の存在の確認の意味でも、花火と茜にとって肉体関係は違う意味ですが、結果は同じでした。

 また、茜はビッチと皆から言われる存在で視点を変えれば都合のいい女になっています。もちろん心という面で優位には立っていますが、男の本質が性欲だとすると、彼女の行動は彼女がいる男にとってやれる女でしかありません。
 ですので必ずしも茜=クズと見ることはできません。もちろん自分を惚れさせるという男の心を弄ぶのはありますけど、彼女が作れる男ですので傍から見ると痛みはそれほど感じません。むしろ真の恋愛から一番遠い場所にいる一番歪んだ女=みじめな女に見えました。

 花火の描写として、サブキャラの早苗の存在が大きいですよね。恋愛感情と友情そして依存。お互いのベクトルが違うのにお互いが必要とする関係。

 そう…相手にどんな関係性を求めているかが大事です。この作品に肉体関係の描写とかNTRとか、いろいろ衝撃なマンガ・アニメとかいわれていますけど、それは全然本質ではないと思います。相手に望む関係性と相手に望まれる関係の不一致がどうやって生じているかを描いています。肉体関係はそれができない穴を埋めるための一つの手段でしかありません。
 つまり肉体関係の有無だけでは、関係性ですらなく自分のための自己確認であり関係性をつなぎとめるだけの行為でしかないとも言えます。

 自分の過去や周囲の人間関係で、お互いが相手に望む関係性と肉体関係の意味の不一致がどうしても生じます。その点では早苗の存在が大きくて非常にわかりやすく描かれていました。このあたりが、クズというテーマにかかわってくると思います。
 
 麦にとってのモカもありました。この2人にも他の人間との恋愛模様があり、この絡みあった関係性が、男女関係のいろいろな模様を表現しています。長い付き合いのなかで近くにいた存在の恋愛を否定しきったのも面白いですね。幼馴染的恋愛…疑似恋愛の否定です。自然だと思いますが、そこを不自然にする作品が多いですので。

 教師と生徒という関係性を配置したのも、倫理と男女関係を表現するのに非常に効果的だったと思います。

 あとは、女からみた女という視点が生々しくて、そこも魅力でした。そして女からみたら肉体関係=処女とか貞操とかそういうものではなく、コミュニケーションであると同時に、女を武器として使うという意味が強調されていました。ただし、花火はそこがまだ子供で貞操・純愛指向でした。それなのに自分の肉体を作り、自分の居場所を作った。そこがクズとも言えます。
 
 この作品で唯一不自然なのがやはり鳴海です。彼を聖人にして茜と対比することで作品の構造を作っていますが、やはり彼に嫉妬とか葛藤があった方が良かったと思います。ただ、そうすると肉体と精神の関係性が、ありきたりになってしまうのかなという気もします。
 鳴海を置くことで、作品の落としどころとヒロイン花火と茜の内面が決まってきますので、聖人にする必要があったのかもしれません。ただ、理解できないキャラも、嫌いになるキャラもいない本作で、彼だけ気持ち悪いです。 


 そう「俺ガイル」で比企谷が本物を探していましたが、この作品はまさにその本物を求めることを決意するラストでした。私はこの結末に非常に感銘を受けました。クズなのは誰だ?と言えば花火そしてキャラ全員です。その本懐とはなにか?ですね。


 作画は原作の雰囲気を写し取っており、とてもいいです。メンゴ氏の絵って少女漫画風ですけど青年コミックス的な要素も入っている感じなんですよね。それがこの作品の雰囲気にとてもよくあっていました。キスシーンも生々しい作画だし、ベッドシーンも直接描写はないですがなかなかエロい表現になっています。

 EDアニメのロールシャッハのような演出とそれがエロティックな象徴になっているような感じも素晴らしかったです。

 全体的に素晴らしい作品でした。原作厨だったので見てませんでしたが、遜色ないいい出来ただと思います。オール5点は盛りすぎかな。音楽を4。あと鳴海の人物造形分、キャラを4.5にしておきます。声優は茜さんの声優さんはもっとフェミニンでよかったかなあ…悪くないですけど…4.5点


 そうそう…こう言ってはなんですけど「推しの子」に期待したのはこういう話なんですけどね。本作を知っているだけに。
 

投稿 : 2024/09/09
閲覧 : 33
サンキュー:

9

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