「風のスティグマ(風の聖痕)(TVアニメ動画)」

総合得点
69.2
感想・評価
710
棚に入れた
5265
ランキング
1872
★★★★☆ 3.5 (710)
物語
3.6
作画
3.4
声優
3.5
音楽
3.3
キャラ
3.6

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ネタバレ

レトスぺマン さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 3.5 作画 : 3.0 声優 : 4.0 音楽 : 3.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

これは任侠物を中高生向けにアレンジした作品

2007年当時、本作の制作会社であるGONZOの業績の観点でいえば下降傾向になりかけ気味であったことは事実である。
それでも瀬戸の花嫁、ぼくらのといった有名作品。
それに加えて海外向けの劇場版作品としてAFRO SAMURAIのような本格派バイオレンス時代劇の作品が発表されるなど、まだまだ制作への熱量があった時期でもある。

そんなGONZOの複雑な事情が拮抗する時代に本作「風のスティグマ」も放送された訳だ。
しかし、上記に挙げた作品と比較するとマイナーである点はどうしても否めない。
それは中高生が対象となるライトノベル原作であるからか、シンプルでわかりやすい超能力バトルが展開されたことは大きそうだ。
つまり、これといった考えさせる要素やある種の癖といったものを極力排除したアニメらしい作品であることから作品の独創性が少なくなり、逆に注目されない流れになってしまったという意味でもある。

しかし、個人的にマイナーアニメが好きであることも一因ではあるが、結構楽しめた作品となった。
それは主人公和麻のカッコよさやヒロインである綾乃の気の強さと可愛さを併せ持った魅力に惹かれたことも理由ではあるが、先ほどの「独創性」の観点からすると、それを「完全に無い」と言い切ってしまうことも違うような気がしたからである。
この作品の魅力はどんなところにあるのか、今回のレビューではそれを2つ挙げてみたいと思う。

①主人公とヒロインが両方とも強いキャラクターであることの良さがあった。
例えば、ライトノベルで主人公とヒロインが存在する物語である場合、主導権がどちらか片方に与えられるパターンが多いと思える。
男性に与えた場合は男としての強さや、か弱いヒロインを勇者が助けにいくといった昔ながらのなじみ深いエピソードが展開されやすい。
そして女性に与えた場合、これは90年代にの美少女系アニメにありがちなものであったが、女性ならではの可愛さ・母性本能・パワーの三位一体を見せていくことで、そのキャラクターの魅力を軸に進むエピソードが展開される傾向にある。
本作にはこの2つの強さがどちらともある状態で展開されているのである。

勿論、主人公とヒロインが能力的にも発言力も強いということはそれだけ両者の間で喧嘩が起こりやすくなる懸念はある。
しかし、パワーバランスが同等であるということはお互いが「対等」の関係になっている訳で、とてつもなく強い敵を共闘で倒すといった爽快感のあるストーリーや、時にはギャグのような形でお互いの微笑ましい会話が行われるといった楽しい展開もある。
そして、時には両者の強さだけではなく弱い部分も出していた。
特に、主人公和麻に関していえば子供の頃は軟弱であり、また中国での修行中に大変つらい目にも遭っている設定だが、物語後半でそういった部分が映ったときに、普段は気の強い綾乃のサポートが入るというような流れがある。
こういった描写はキャラクターに対して素直に好感を持つ機会になるし、主役級登場人物のパワーバランスが対等であることのメリットというのは確実にあると感じたのが本作を視聴したことによる一番の収穫だったと思う。


②任侠・893物としての側面があった。
これについては私の身勝手な考察的なところではあるが、ライトノベル原作アニメとはいえどうもそれらしくない部分も見て取れたという話である。
そもそも任侠・893物とは日本の一般娯楽として歴史が古く、最早一種の伝統文化として昇華されているところがあるのではないか。
しかし、作品の中で発せられる暴力的なセリフやグロ表現から、高校生ならまだしも中学生以下の世代に視聴ハードルが高いという欠点がある。
ところが、本作「風のスティグマ」はそういった作品の視聴がまだ難しい人のために制作されたアニメなのではないかと思えた面があった。

第一に、本作は炎術師や風術師といった特殊能力を持ったキャラクターがバトルをするストーリーではあるのだが、そういったキャラクターが所属する道場的な建物が映し出されるシーンが何回も存在する。
それらを見ると、道場というよりは川崎や神戸辺りにありそうな「広大な敷地と明らかにそういった人たちが住んでいると想像できる組員事務所」的な建築物が多かったのである。

第二に、主要人物以外のキャラクターでもいわゆるチンピラ的な恰好をした人物や、和麻の父親でもある厳馬は893の若頭、綾乃の父親の重悟は893の元締めといった出で立ちとなっており、明らかに任侠・893物を意識したキャラクターであることがわかる。

第三に、任侠・893物の特徴として闘争シーンが多いことが挙げられるが、それと同じくらい「謎に笑えてしまうシーン」が多いことも挙げられる。
それは、暴力的なセリフに対し「最早やりすぎだろ!」とツッコミを入れたくなってしまうことでもあるが、
感情的に暴走しがちな893キャラクターの子供っぽい部分や、そこへの意外性を見たときになかなかにクスリと笑える描写となってしまうということである。
本作に例えれば、厳馬の和麻に対する対応や温泉施設での親子バトルはそれと重なるものであり、硬派なキャラクターの中にあるギャップを見せつけてくれた良さがあった。
また、任侠・893物の闘争シーンはその作品が舞台となるエリア全体が闘争場所になりやすいが、本作でも街中でのバトルや高層ビルを真っ二つにするといった描写があり、ここにも共通点を伺うことができる。

最後に、主人公の和麻・ヒロインの綾乃は上記の要素をくみ取るのであれば893の息子、娘になってしまうわけだが、
和麻の「クール」かつ「弱きを助け、悪を挫く」性格は任侠もので正義とされている人物そのものである。
また、綾乃にしてもその気の強い性格から、将来的にはどのような姉御になっているかわかりやすいキャラクターだ。
ここも任侠・893物との共通項目である。

最初にお伝えした通り、本作はGONZOの中では確かにマイナー作品となってしまう。
しかし、自分なりの深堀をしてみた結果ではあるが、独創性があまりないといわれている作品でもいろいろ調べてみると日本が誇る娯楽伝統文化との共通点が見えたことは面白い。
むしろ本作の評価がイマイチなのは、そういった娯楽の癖を排除したことによる産物ともいえるが、ストーリーのわかりやすさとキャラクターへの好感から手軽に楽しめる点はアニメ作品として申し分ない。
確かに設定面が強い作品に劣ってしまう面は多々あるが、もう少し注目されてもいいのではないかと思えた。

投稿 : 2024/09/09
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サンキュー:

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