「映画『化け猫あんずちゃん』(アニメ映画)」

総合得点
計測不能
感想・評価
3
棚に入れた
13
ランキング
7901
★★★★☆ 4.0 (3)
物語
4.0
作画
4.0
声優
3.8
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★★ 4.1
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

俳優キャストの芝居を生かす同録ロトスコープの人情劇

同名原作コミックは未読。
だらしがない父に借金を何とかする間だけと、祖父の寺に置いていかれた少女・かりん。
そこで出会った中年飲んだくれ“化け猫”あんずちゃんらとの、ひと夏の交流を描いた日仏合作劇場アニメ作品(95分)


【物語 4.5点】
内容自体は変哲もない人情ドラマ。
不遇な家庭環境などで、心の澱(おり)を抱えた1人の少女が、
夏の不思議体験を経て、ひと皮向ける。

立ちションに屁こきと化け猫あんずちゃんの奔放な言動も、
昭和のドラマでよく見かけた親父の生態といった感じで懐かしい風味。
温かいなと思いつつも、これ実写だったらイマドキ流行らないと誰も見向きもせず企画通らなかったかもなと穿ってみたりw

実際、本作は冒頭で、かりん父と祖父のありがちな親子喧嘩の余韻に、またこういうパターンか……となっている所に、
猫が当たり前に原付に乗ってやってくる衝撃カットで一気に興味を引く。

化け猫、妖怪の類が街を闊歩していても住民は誰も驚かない。
フィクションとして最初に堂々と大嘘を付くことで、
その後の地獄探訪などのファンタジー要素の配合もスムーズになったと好感します。


脚本もネタやコメディやらが一見、方方にとっ散らかっているように見えて、
{netabare} 自分と違って幸せそうな家族連れを見て自転車を蹴り倒す{/netabare} などグレる萌芽が出始めている主人公少女に、
君たちはどう生きるかを優しく語りかける。
終わってみれば、一本筋の通ったシナリオとしてよくまとまっていたと思います。

ラストシーンは(※核心的ネタバレ){netabare} 当初構想していた、かりんが借金返済に目処を付けた親父について行き、池照町から東京に帰っていく幕引きから、
親父と袂を分かち、あんずちゃんの寺に残る{/netabare} 結末に変更したとのこと。
ですが、逆立ちなど小ネタと思われた要素も後々に回収するなど、
伏線管理も丁寧だったこともあり、
私は唐突感より納得感の方が上回りました。

その観点から意外と好きなのが、かりんが、東京のカフェでボーイフレンドの秀一と語らうシーン。
{netabare} かりんが、このまま都会で猫かぶって、受験戦争の権化みたいな秀一との恋仲を目指すのか。
そもそも都会で勉学ばかりやる生活だけが正解なのか。
今のかりんは、秀一と釣り合う女なのか。{/netabare}
ラストとの対比で脳裏に焼き付いているカットです。


【作画 4.0点】
アニメーション制作・シンエイ動画(日)✕Miyu Production(仏)

Miyuはフランスから世界を巡り、面白そうなんだけど資金不足等で実現が難航しそうなプロジェクトを発見しては、
助太刀して作品完成を目指す活動に取り組んでおり、
今回の日仏合作も国際映画祭での日本側とのスタッフとの交流から。

結果、イマドキ古風でマニアックな人情アニメを鑑賞でき嬉しさ半分、
海外から救済されねば好企画が成立しない本邦の映画界という寂しさ半分……。


役割分担としては、シンエイが実際の役者の芝居映像から人物作画等を起こすロトスコープ制作。
Miyuが背景美術を担当。

舞台となった池照町のモデルとなった静岡県沼津市戸田の港町。
Miyuはフランスの画家・ピエール・ボナールの作風も意識して、
大胆に塗りを重ねるなど、
夏と海のカラッとした南国風の田舎町を好表現。

配色も東京のカットでは冷たさを意識した寒色系、
地獄のシーンでは赤系を入れたりと、一工夫、色を加えることで空気感を醸成。


【キャラ 4.0点】
化け猫あんずちゃん。
寺で大切に飼われていたら長寿の末、二足歩行し人の言葉をしゃべるようになってしまった化け物。37歳。
マッサージ屋などとして地域社会に溶け込んでおり、住民からはほぼ人間扱い。
{netabare} 猫なのに原付無免許で切符きられるシーン{/netabare} は笑いましたw

酒飲みで、パチンカスで、{netabare} かりんちゃんから“預かった”バイト代を溶かす{/netabare} など、自堕落なのも人間味が溢れて?いますw
そんな、あんずちゃんの罪の告白もまた、真っ直ぐ生きるか否かテーマを問う要素として機能しており、
ここもコメディを散らかしているようで筋を通して来ます。


もう一人の主人公少女のかりんちゃん。
その父・哲也は、すぐにお金作るからと嘘を重ねる、
こちらも、あんずちゃんに負けず劣らず、清々しいくらい自堕落な親父。
グレ気味な娘から哲也と呼び捨てられるのも無理ありませんw

が、かりんもまた小5にして演技力を駆使して、
東京から来たデキる美少女を演出し、
田舎の不良小5少年の井上と林を籠絡し手駒にするなど、
早くも誑(たら)し込みの技術相伝の片鱗がw

所詮、蛙の子は蛙ということなのでしょうか。
あっ、自称“大妖怪”カエルちゃんも良かったです。
穴掘りキャラ設定は、展開を動かす上でも重宝しました。
{netabare} 妖怪や小5少女の洞穴温泉入浴シーン実現して頂き、どうもありがとうございました。{/netabare}


あとは地獄の鬼軍団がまんまヤ◯ザで、こちらも懐古な任侠映画風味。
地獄に落ちた人間に残虐行為を働く鬼たちの憩いの場が意外とホテルだったり、
冷めた口調で鬼の“組員”を顎で動かす閻魔大王が、静かなるドンって感じで可笑しかったです。


【声優 4.0点】
近年、ナチュラルな演技が欲しかったなどと、劇場アニメにタレント・俳優がキャスティングされる度、
ナチュラルな演技くらい今のアニメ声優でもできる。
そんな言い訳するくらいだったら、最初から企画成功のため俳優の知名度が欲しかったと言ってくれた方がまだ潔い。
などと方方に毒を撒き散らしている私ですが。

本作は実際の芝居を撮影して制作するロトスコープ。
しかも音声収録もアフレコではなく、撮影現場で収録する同録。

俳優キャストがアフレコに挑む度、声だけで演技する難しさを語られ、
だったら最初からアニメ声優でいいじゃんとささくれる私ですが。
同録ロトスコープならば俳優でも文句はない。
むしろ俳優の方が適任まであります。

あんずちゃん役の森山 未來さんも暑い中、
猫耳を付けて毛づくろいするなど人間味のある化け猫を熱演。

かりん役も当然、子役から。
演じた五藤 希愛(のあ)さんは芝居も上々でしたが、
スタッフは撮影当時かりんちゃんと同年代の11歳だったという点も重視。

実年齢とタイミングが合わねば成立し辛い。
この辺りも声一つで世代を飛び越えるアニメ声優の収録現場とは一線を画す。

拡大を続けるアニメと実写の中間領域を描く企画のあり方に一石を投じる制作手法だったと思います。


【音楽 4.0点】
劇伴担当は鈴木 慶一氏。
とぼけた縦笛のコメディBGMから、のどかな田舎町の心情曲まで引き出しの多さでファンタジー要素も絡む人間ドラマをカバー。

因みに鈴木氏は、かりんの祖父の寺のおしょーさん役としても出演。
ロトスコープ素材映像用に芝居もした上で、楽曲制作に取り組む。
作品内世界の一員でもある作曲者ならではの解像度の高さで魅せる。


セリフも同録ならば、音響も同録なのも本作の特色。
池照町こと沼津市戸田のやかましい蝉の声も、夏のムード演出に効果的でした。


ED主題歌は、化け猫だけに?佐藤 千亜妃さんの「またたび」
透明感のあるボーカルとギターで彩る、ひと夏のバラードで、ほっと一息。

投稿 : 2024/08/28
閲覧 : 230
サンキュー:

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