「忘却の旋律(TVアニメ動画)」

総合得点
61.2
感想・評価
46
棚に入れた
249
ランキング
5521
★★★★☆ 3.4 (46)
物語
3.5
作画
3.3
声優
3.4
音楽
3.5
キャラ
3.4

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ネタバレ

YOU0824 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

世界は複雑だ

映画やアニメを観るきっかけって何だろうか。

の話だがカフカの『変身』を昨日読んだ。
高校時代、図書室で見つけた解説書で
『異邦人』や『ゴドーを待ちながら』などと
一緒に知った。
読むタイミングが今だったのだろう。
経緯がある作品、それを満を持して読む醍醐味ってある。
この場合作品の内容だけでなく、その紹介者の
世界観や思いも味わうことになる。

『忘却の旋律』もそうだった。
ササキバラ・ゴウの著書『戦時下のおたく』で知った。

「私たちの『現在』が抱えこんでいるさまざまな
問題を自覚して、それに向き合い、表現しようという
努力がなされ、かなりのところまでそれに肉薄して
いる数少ない例」(P126)

不思議な話だった。旅館の客がタライを抱えた
キューピーだったのには驚いた。何なの?
20世紀に大きな戦争があった。
勝ったのは人類ではなくモンスター。
映画『T2』のような驚愕の展開、
だからなのだろう奇怪なことが日常的にある。

「人々はあのメロディを忘れていったのです…」

その奇怪さに人々は慣れ、異様だと思わなくなっている。

「メロスの戦士が戦っているのは、表面的には
モンスターやモンスターユニオンのエージェントだが、
実際には『社会の構造そのもの』」

21世紀はモンスターに支配された世界、
人々が大切なものを「忘却」した世界だと暗示している。

「世界はもう死んでいる。ここはすでに死んだ世界なんだ」

と総理が言う。絶望…それでもなお戦いを継続しようと
する者は、一体何とどう戦えばいいのか?

「勝てないわけじゃない。勝ってはいけなかったんだ
あの二十世紀戦争は」
「(なぜモンスターたちは人々を石に変える?)
彼らはもともと石だったんだ。ただそれに気づいただけ」
「(なぜモンスターなんて生まれた?やつらは
どこから来た?)どこから来たのではない。
最初から居たんだ」
「今この私は夢の中にいて本当の自分は現実の世界で
死んでいる」

さらにボッカを補佐すると思っていたツナギじいさんと
黒船の顛末に驚く。

「ノスタルジーの風呂に浸かったまま老いて
溺れ死んだツナギじいさんと、ノスタルジーを忘却した
青年のままで箱庭に留まって『次の一歩』を踏み出す
こともなく戯れ続けている黒船」(P139)

変わろうとしない者への描写は容赦ない。

「手っとり早くマッチョな気分になれるような目前の
状況に迎合したり加担したりすることはせず、
かといって逆に、自分のマッチョ性を否定したあげく
『イメージでしかない他者(女)』に行きついて、
傷つくことのない閉じた世界に充足してしまうこと
もせず、なおも戦いを貫く」(P130)
「主人公が戦う相手はモンスターじゃなくて
モンスターの側に寝返った人たち」(P177)
「人間社会が出来た際に、元々存在していた何かを
モンスターというふうにカテゴライズしてしまわないと、
人間社会が成立しない」(P178)
「人間社会に過剰に順応してしまった人は、結局、
モンスター的なものになっていく」(P179)
「最終的にモンスターは倒せないし、倒せるような
ものでもないし、しかしそれでも戦士は戦い続ける」(P181)

そして榎戸洋司は

「ちゃんとくだらないアニメにするために、
すごい努力をしてる」(P192)

と言う。
カフカ的世界を見ているようだ。

投稿 : 2024/08/27
閲覧 : 34
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