ナルユキ さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
未完の名作。永遠の15分をいつまでも
原作は『妖狐×僕SS』でおなじみ藤原ここあ先生による連載漫画作品。だが先生が10年前──2015年──に逝去されたことで未完となり、当時企画されていたアニメ化も一度は潰れてしまった。本作はそんな「まほあく」10周年を記念して復活したアニメ化であり、当時を知る者からすれば感涙せずにはいられない作品である。
【ココが面白い:魔法少女と悪の参謀の15分の逢瀬】
この作品はタイトルでも分かる通り【魔法少女】ものだ。これといって奇をてらった独自設定は無く、ここあ先生の画を下地に頭のてっぺんから爪先まで真っ白で可愛らしい「ベタ」な魔法少女が登場する。
アニメ制作会社のボンズが該社らしいキビキビとしたアクションで短いながらも変身や決めポーズ、戦闘シーンを盛り上げており、そんな戦闘の後、魔法少女は「東京タワー」を背景にして悪の組織の参謀と相まみえる。
悪の組織の参謀・ミラは王の片腕とまで称されるエリート幹部だ。しかし、そんな彼が新米魔法少女によって地上侵略の任務に失敗してしまう。後日、魔法少女を待ち受けていた悪の参謀が持参するは鮮やかな花瓶に高級なティーセット。そのまま互いに血の一滴も流すことなく、2人だけの優雅なお茶会が始まる。
そう、この悪の参謀──よりにもよって宿敵となる魔法少女に一目惚れしてしまったのだ(笑) さらに魔法少女側も度々、優しくしてくれる彼にすっかり懐いてしまっている。こうなるともうこの作品が魔法少女ものらしいバトルに発展することはない(笑)
よって基本的にこの作品は会話劇である。1話1話で起承転結すっきりとした展開が描かれているものの、これが普通の30分枠のアニメなら間延びしてマンネリが生まれてしまうかもしれない。
しかし、この作品は15分枠だ。この2人の敵対する関係性から繰り出される悪の参謀の見え隠れする下心や、それを意図せずつついてしまう魔法少女の天然あざとさが甘々且つきちんとしたギャグにもなっている。
【ココも面白い:参謀さんは薄幸魔法少女に貢ぎたい】
魔法少女である深森白夜{みもり びゃくや}は現在進行形でかなり可哀想な女の子だ。契約したマスコット妖精は例によって「ゲスコット」であり、彼女の財産を全て管理(散財)し怪しげな夜の仕事までさせようとしている。そもそも彼女が魔法少女になったのは自分の生まれ育った孤児院を地上げ屋から守るためだったのだが、その地上げ屋こそCV:三木眞一郎なゲスコットという、とんでもないマッチポンプだった(笑)
まんまと騙された(今も騙されている?)白夜はミキシンと契約したことで悪の組織と戦う魔法少女となり、オフ日はミキシンの酒代のために色んなアルバイトを掛け持ちしている。そんな彼女の住まいは六畳一間のアパートでミキシンと同棲だ(笑)
そんな白夜の事情を知った悪の組織の参謀・ミラはそこにつけいる────ことはなく、スイーツを送って米を送ってetc.彼女に贈り物をしまくるようになる(笑) 貧乏で可哀想な魔法少女に惚れてしまったミラは自身の立場が危うくなっても彼女を倒すことができない。悪の組織の参謀として部下に示しがつかないとわかっていても、彼女を傷つけることに罪悪感を抱き思わず助けてしまう。
無垢で純粋な深森白夜という少女は、無垢で純粋であるがゆえにあざとい。冷酷無比な悪の参謀は彼女の前だけは優しい『参謀さん』になってしまう。恋は時に人を大きく変える。時には価値観を、時には自分の立場を、時には私財をなげうってしまうものもいる。
限度額の限り貢ぎたい。(超大文字)
悪の幹部が思わず、そう思ってしまうほど可哀想な状況にある魔法少女にどんどんと彼はハマっていく。
【そしてココがすごい:サブキャラで映える2人だけの世界】
当然だが悪の組織はミラだけでは成り立っていない。他にも多くの悪の組織の「幹部」がおり、魔法少女を倒すという任務をなかなか達成しないミラに段々と不信感を抱き始める。魔法少女にほだされたのではないか、組織を裏切っているのではないか、と。
そんな疑惑の目を逃れつつも、同時にミラと白夜の間に他の誰かが介入することでより2人の感情が、2人だけの世界が強まっていく。白夜とフォーマルハウトが握手を交わすだけでミラが嫉妬して脅したり、『表情筋が死んでいる』と言われてショックを受ける彼女をフォローしたり──第三者からの交流や指摘を受けることで、2人は自らの中にある言語化できなかった感情──「恋」──を自覚していく。
だが2人には悪の組織と魔法少女という大きな溝がある。いくら互いが心を通わせていても、しがらみが2人の関係性を進展させない。敵同士のはずなのに、他の誰かと一緒にいるときには味わえない「幸せ」を2人は味わう。そんな姿を観ているこちらも幸せな気分に浸れる。
特に聖夜の2人は気持ち悪いくらいにニヤニヤとしてしまった。クリスマスの1日だけ、その日だけは2人とも悪の幹部でも魔法少女でもない。互いの名前を呼び合う、そんなシーンにニヤニヤが止まらない。
【最後はココに感動:未完】
{netabare}終盤もミラと白夜のイチャイチャが描かれている。なにか変わることも、大きく進展することもない。それは2人の関係性が本来は敵同士だからこそ、進展してしまえば2人の立場の問題に踏み入ることになる。
進展しない2人の恋模様。いつもの繰り返す日常──それが永遠に続くことはある意味で幸せだ。全て捨てて2人で生きていく、そんな選択を取ることは今の2人にはできない。
しかし、いつか決断しなければならない日は来る。その日まではこの幸せを、自覚しきれていない恋愛感情を味わっていたい。
この幸せな日々が、そんな日々が続くように。あえて未完の原作をアニオリエンドになどせず、未完のままだからこそ永遠に二人がこの日々を味わい続けられる。
最終話のラストカットの「ENDLESS」はにくい演出だ。続きが観たいと思っても続きが描かれることはもう無い、未完の作品を未完のままに。
くっつきそうでくっつかない二人の日常をいつまでも想像できる「余韻」をあえて残すことで未完だが完全なアニメに仕上げている作品だった。{/netabare}
【他キャラ評】
篝火花{かがり ひばな}
中盤から──と言っても本作は15分アニメなので体感3話くらいから追加登場する魔法少女。白夜のミキシンと違って『御使い』はビジュアル以外はマトモ?な方であり、彼女自身も『フ●ック』としか普段口にしない以外は普通?の魔法少女である。
白夜とは同じ魔法少女仲間にしてライバルだ。だからこそミラと彼女の関係には悪の組織側とは違い懐まで入った上で大きく揺さぶってくる。悪の組織の介入はミラの試練であるように火花ちゃんの来訪は白夜の試練なのである(主にラリアットや噛みつきを耐えるところから笑)。
【総評】
あえて未完の、しかも10年以上も前の漫画をアニメ化する意味をきちんと感じられる作品だと評する。漫画や小説などは未完のままで終わる作品も多く、原作者が亡くなってしまったり、ご存命でも続巻が出なかったりと事情は様々だ。
物語を始めたからには終わらせるべきではある。しかし、終わらせるために物語の登場人物は辛い目に合うことも多い。逆に終わらせなければ幸せな状況にいるキャラクターは幸せなままでいられる。本作はその選択が合法的にとれた作品だとも言えるだろう。
{netabare}悪の組織の参謀として罪を重ねた男が見つけた癒やし。魔法少女になってもいまいち幸せにはなれていない少女が初めて感じた幸せ。互いにとって互いといなければ味わえない「幸せ」を噛み締めている。そんな日々が未完だからこそ永遠に続く。
もう少し複雑な作品だったり、がっつりとしたストーリーがある作品を未完のままアニメ化してしまうとどうしても中途半端な部分が出てきてしまう。しかし、この作品はラブコメだ。くっつきそうでくっつかない、そんなドギマギとした男女を楽しむものであり、ストーリーが進まないということはそれほど重要ではない。だからこそ未完でアニメ化されても続きが気になる!という感じにはならず、未完だからこそ永遠にキャラクターの幸せな関係性が続くことを感じさせられる余韻が生まれている。
幸せなラストと未完だからこその余韻。約10年前に連載が終わってしまった作品をあえて約10年経った今、アニメという媒体で描くことで2人の幸せが永遠に続いているんだと感じさせてくれる1クールだ。{/netabare}
作画のクオリティも高く、ボンズだからこその変身シーンの気合の入れ方には思わず笑ってしまう部分があり、可愛らしいヒロインやかっこいい男性キャラの洗練されたデザインと妥協のない作画で日常を描いているからこそ、より2人のラブコメに夢中になれる。
コミカルな会話劇の中でのギャグは人によっては好みが分かれる部分ではある、特にマスコットキャラの過剰なセクハラや下ネタは度が過ぎている部分があり、好みが分かれるポイントだ。
一部の悪の幹部などのサブキャラはやや掘り下げ不足な部分もあるものの、メインキャラクターの掘り下げはしっかりしている。
1話15分というのも程よい尺だ。これが30分ならば間延びしてしまうところを15分だからこそ二人の逢瀬にニヤニヤできてしまう。
ベタな魔法少女的な設定の中で描くラブコメ、この作品はそれ以上でもそれ以下でもなく奇をてらった要素はないものの、可愛いキャラクターも凛々しいキャラクターもその幸せな表情がまっすぐに描かれているラブコメだった。