nyaro さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
勤め人の終わらない日常かな?刺激的ではないですが面白かったです。
面白いといえると思います。微妙な言い方ですが刺激という点では物足りなさが残る気はします。押井作品ということもあって何を描こうとしているんだろうという興味としての面白さがあります。それと、一体どこに着地するんだろうというストーリーとしての面白さがありました。素直な感想としては見て満足でした。
この作品「すべてがFになる」の犀川と萌絵のシリーズの森博嗣氏が原作です。本作原作も実は購入しているのですが、はじめの数ページでフィーリングが合わなくて読んでいませんでした。部屋にも見当たらないので捨てたのでしょう。
世界観が良くわからない、キャラ作りすぎ、推理でもないというような印象だったからだと思います。ですが、本で読むよりも映画で映像がある分、訴えかけるものがあったので、冒頭を乗り切ることができました。はじめの方だけ乗り切れば普通に乗っかれると思います。
で、最初の内はゲームに依存し成長できない子供のアナロジーなのかなと思います。設定がそのままです、ティーチャーなる存在が子供を殺しに来ますし。
が、そうではなさそうな事に途中で気が付きます。はじめは草薙に子供がいるというところをどう消化すればいいんだろうと引っ掛かりがあります。そして、オヤ?とはっきり思うのは白髪の男が名前を変えて登場するところぐらいでしょうか。
この話は永遠の日常を生きる倦怠感なんだな、と思います。酒・たばこ・女と大人の象徴がやけに強調されています。楽しみがそれしかない資本主義社会の勤め人のアナロジーでもあるのかなと思いました。つまり、働いて、大人の遊びをして、結婚出産をしても、本質は子供から成長できていないということでしょう。
この世の仕組みが分かって裏で動かしている人は大人なのでしょう。つまり資本主義の象徴でもあります。
この作品の原作者の森氏の著作は小説はもちろんですが、エッセイも2、3冊読んだことがあります。氏は非常にクールで自分が好きな事をやることに躊躇がない気がします。お金がたまれば名古屋大の助教授もあっさりやめてしまうような人です。
つまり、森氏が「勤め人」であることにほとほといやになっていたのかなあ、という気もします。理系の助教授なんて好きなことをやっていると思いますが、どうも試験作成や会議など犀川というキャラに託して作中愚痴をこぼしていました。たばことコーヒーが手放せない体質だった感じです。
何かそういう気分を作品にしたので、こんなにわけのわからない世界観だったのだと思います。
押井監督は普段はわけがわからない表現をしますが、本作は含意はわかりやすかった気がします。私の勘違いがあってもう1段なにかあるかもしれませんが、主人公の気分に乗っかれた気がしました。犬はまあ押井監督のサインみたいなものです。作品世界を客観視している存在なのかもしれませんけど。
演出は心理描写というかその場面に何を込めているかが効果的に伝わってきたと思います。ボーリング場のシーンとかまるで学生3人が制服で遊んでいるような感じとか、面白い工夫でした。そう、草薙は色気があるかと思うとどんどん子供っぽくなっていくんですよね。その感じもとても良かったです。
映像も時代性抜きにしても良かったです。特に戦闘機の場面は作り物的な感じがこの作品のテーマに合っていたと思います。
初見なので読み取れていない部分もあるかもしれませんが、じゃあ、何度も見て考察したくなる映画化と言えば、正直すぐはかったるいです。時間をおいてみたくなる映画かどうかもわかりません。