ナルユキ さんの感想・評価
3.0
物語 : 2.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 1.5
状態:観終わった
早く卒業しろ!訴訟を起こされても知らんぞーーーっ!!
まあタイトルでお察しの通り、魔法が使えなくても剣を持てば無茶苦茶強い主人公が最初、学校では不当な評価を受けつつも徐々に見直されていくお話────『魔法科高校の劣等生』と『ブラッククローバー』を足して2で割ったような諸設定だ。
世界観からは『ハリー・ポッター』シリーズを、そして個人的には主人公の性格や目標などから『魔法先生ネギま!』風味も感じている。はてさて、本作の個性は一体、何処にあるのだろうか。
【ココが面白い?:無能が目指すよ魔導士の頂点】
本作はいわゆる魔法のあるファンタジーだ。若者の多くは『魔導士{メイジ}』となるために魔法学院へ通い、侵略者を阻むために結界で蓋をされた空を見守る魔導士の頂点『至高の五杖{マギア・ヴェンデ}』を目指す。魔法絶対主義な世界で、魔法の才こそすべての世界だ。
主人公であるウィルと幼馴染みだったエルフィもそんな魔法世界の倣わしに従うのだがその結果、両者の「才能の差」が2人を別けてしまう。エルフィは最年少で至高の五杖となり空を支える『塔』の頂きへ住まう様になった一方、ウィルは最上級生になっても塔へ登る資格すら与えられていない。彼は魔法が使えなかったのだ。
魔法に対する知識のみが問われる筆記では優秀なものの、初歩的な魔法すら使えない彼は実技で物笑いの種にされ、多くの生徒や先生から迫害されていた。それでもウィルはエルフィと交わした約束を果たすため、彼女と同じ場所へ行くためにどんな手を使ってでも学院を卒業し塔へ登ろうとする。
──あらすじを文章にすると中々面白そうに見えるかもしれないが、正直どこを取っても既存作品の影がちらついてしまう。魔法が絶対な世界で魔法が使えない、そんな設定自体も『マッシュル-MASHLE-』を彷彿とさせるものがあり、連載開始時期やジャンルの違いを考えればパクリなどとは言えないものの、アニメの放送時期が後ということもあってあちらとだだ被りしてしまっている印象だ。
【ココが面白い?:剣は魔法よりも強し】
進学という形で塔へ登れる条件は2つ。新しい魔法を生み出すか、7,200という膨大な単位を取得することである。魔法が使えないウィルは必然的に後者の条件で進学を狙うのだが筆記だけで単位を賄うには限界があり、実技は落第で単位取得にならないのでこれも真っ当なやり方では条件を満たすことはできない。そこで彼は剣を持ち「ダンジョン」へ潜り、モンスターを狩りまくることによって救済措置とも言える特別な単位を取得している。
この方法を学院側は奨励していない。ダンジョンに潜むモンスターは御約束、下層に下りれば下りるほど強く凶悪な個体が占めるようになり命の保証がまるで無いからだ。既に上層を狩り尽くしてしまったウィルは第7層のモンスターと命のやり取りをするようになっており、その無謀さは恩師であるワーグナーから叱責されるほど。しかしそれでも彼は止めようとはしない。彼の身体は生傷どころか所々が削れてしまっており、最早魔導士というよりは歴戦の武人といった方が似合う。
そんなウィルを蹴落とすためにエリート志向なマルフォイ──ではなくシオンが彼の獲物を横取りしようとするものの、それは学院の生徒ではもう敵わないレベルにある第6層のモンスター。見誤ったシオンは取り巻きを殺られて絶体絶命のピンチに陥る。自業自得な彼を心優しき主人公は剣1本で救う。
たとえ魔法の才能がなくとも、ウィルには剣の才能がある。魔法絶対主義なこの世界で剣の才能は評価されない。しかし、評価されない剣を振るうことで彼はこの世界に牙を剥こうとしている。
【でもココがひどい:暗い画面とワンパターンなアクション】
魔法絶対主義な世界を剣で戦い抜く、ということでアクションシーンに大きな期待が持てるのだが、キャラクターデザインや作画にはやや癖がある。最近のアニメでありがちな「陰影」と「光」を強調したような作画のせいもあって、画面全体が妙に暗い。演出面でも気になる部分があり、ときおりCGに見えるほどヌルっと動くのは作画枚数の多さを感じさせるものの逆に違和感がある。
「目」のカットだけを意図的に強調したり、構図やカット割りにこだわりを感じる部分も多いものの、そのこだわりがやや空回りしている印象だ。一言で言えば妙に「濃い」感じがある。意図的に主観に切り替えたり、パーツを強調したり、かなり構図にこだわっているのはわかるものの、そのこだわりが面白さになっていない。
激しいカメラワークとダイナミックな構図で描かれる戦闘シーンの迫力は見事ではあるものの、画面が常に暗く見えづらい。「ダンジョンの中」という光源がない場所だからこそ自然な光の演出とも言えるのだが、その演出がせっかくのアニメーションの魅力を落としてしまっている。
設定のせいでもあるのだろうがアクションの引き出しもやけに少ない。モンスターのブレス攻撃や魔導士の魔法による射撃を広場を大きく駆け回ることによって躱しまくり、瞬時に懐に入って一撃を加えていく。数話観てもこのパターンしか見受けられず、後はどれだけ相手が耐えるかの違いでしかバトルの「棋譜」を差別化出来ていない。ウィルの剣術は独学であり、常に遠VS近の戦いとなるため生じている問題だ。ストーリーの早い段階でワンパターンな展開に陥ってしまっている。
魔法が使えない主人公が剣で成り上がる。この手のファンタジーや能力バトルものではありがちな展開だ。マッシュルもそうだが、ブラッククローバーなど、既存作品の要素が非常に多い。ハイクオリティなアニメーションは素晴らしいものの、それを素直に素晴らしいと受け止めきれない演出や、既視感まみれの要素などいまいち1話からパッとしない感じだ。
【ココもひどい:嫌味キャラが多すぎる!】
そもそも本作は主人公のウィルと幼馴染みのエルフィが魔法の才能差で離ればなれになってしまったことが始まりなのだが、その「エルフィ」の描写がほとんどなく2歳の頃から氷魔法の天才だったという設定ぐらいしか無いため、どうあがいても魔導士らしい魔導士にはなれないウィルがそこまで彼女に並び立とうと必死であることにあまり納得感が得られない。物語の起承転結の起が描かれずに物語が始まってるような感覚である。
序中盤は世界観の説明や主人公がいかに凄いのかという戦闘シーンがひたすら繰り返される印象で、無駄にキャラクターも多く出てくるものの一人ひとりの掘り下げが甘く、ただ嫌味なだけのキャラが多い。スリザリン生ばかりのホグワーツだ(笑)
そんな嫌味なキャラたちが主人公を舐めて因縁をふっかけることで物語を作ろうとしているものの、各キャラは印象に残らない。マルフォイポジションであるシオンが1話でウィルの邪魔をしようとし、4話でもマルフォイポジションな別の同級生が彼のバイト先であるドワーフの酒場を馬鹿にする。やっていることがまるで変わらない。
{netabare}進学のために7,200の単位数が必要だという説明も、無駄にケタを大きくしているだけのように感じるほど数字に実態がない。ダンジョンの中では魔物に単位が設定されておりそれが「レベル」の代わりであるのはわかるが、なろう系と同じくその数値がどんどんインフレを起こしていく。その内、膨れ上がった単位を持つモンスターを討伐すれば高い壁のように言われていた必要単位数にもあっという間に到達するだろう。自ずと本作がどういう展開になるか読めてしまう。{/netabare}
色々とシチュエーションは変えているものの、主人公を舐めて因縁をふっかけてくる同級生や教師に主人公が苦戦しつつも俺TUEEEで圧倒する、という流れを繰り返している印象を抱く。
【最後にココがつまらない:ダンまち展開】
{netabare}終盤になるとウィルは優秀なクラスメイトとともにダンジョンのさらなる下層へ潜ることになる。本来なら潜り馴れているウィルこそがダンジョンを先導するリーダーに相応しいのだが、それに気付かない魔導士たちの前では荷物持ちしかやらせてくれない。特に選別意識の強い「エルフ」は無能者を決して認めない、しかしピンチが起これば別だ。
序盤でも嫌味なクラスメイトがダンジョンでピンチになったところを救い、中盤では別の生徒をダンジョンでピンチになっていたところを救い、終盤でもダンジョンでピンチになった仲間を救う。もうダンジョンで出会いで求めてるのか?と言いたくなるほどダンジョン内で同じような展開を繰り返している。ちなみに原作は『ダンまち』作者の大森藤ノ氏が手がけているため、この終盤のダンジョン攻略シーンはほぼほぼダンまちだ。
ウィルという主人公を舐めていた生徒がダンジョンで彼に救われたことで主人公を見直す。1度ならわかるが、何度も同じような展開を見せられており、それでしかキャラの掘り下げができないのかというほどワンパターンなのがいただけない。
終盤はウィルの本当の力も明かされ、仲間とともに強敵を倒すという王道展開ではあるものの、作画に関しても終盤は序中盤のような凝った演出もなく平坦に物語が一旦、終了する。2期ありきなストーリー構成であり1期がその序章なのはわかるものの、個人的にピンと来ないまま終わってしまった。{/netabare}
【総評】
全体的に観て既視感が強すぎる作品だと評する。魔法が絶対の世界で主人公だけが魔法を使えない、その設定だけでもマッシュルやブラッククローバーなどの先達があり、そこから実は身体能力がチートな主人公が成り上がっていく。いわゆる『なろう系』的なノリが強い。
ストーリーも似たり寄ったりな展開が多く、主人公のことを舐めたクラスメイトや同級生がダンジョンの中で主人公に救われたことで見方が変わったり、エリート志向なキャラが主人公に因縁をふっかけてきたりと、同じような展開が同じように続いてしまう。
要素やキャラ設定も良く言えば王道、悪く言えばテンプレで先の展開も予想できてしまうが故に面白みも薄い。土魔法が得意なハーマイオニーに炎魔法の申し子でやっぱり取り巻きを2人は連れてる赤髪マルフォイ、そしてCV:遊佐浩二のスネイプ先生とハリー・ポッターとだだ被りなキャラも大体揃っており、この作品らしいキャラクターの魅力というのをあまり感じられない。ハリポタ世代ではない20代未満の若者は何も気にならないかもしれないが、逆に某作の全盛期を押さえてきた30代以上はその既視感をひしひしと感じてしまう。
アニメーションのクオリティ自体は高く、主観視点などを織り込みカメラを動かすことで相手が射つ魔法の弾幕や多重魔方陣などの圧迫感及び臨場感を生み出そうとしている様だが、あまり面白くはない。確かによく動くアニメーションではあるもののそれは剣などの近接攻撃をするウィルだけであり、『一歩も動かずに相手を圧倒することこそ魔導士の闘いの理想』という考え方があるだけあって敵方は本当に全く動かないのでワンパターンな演出が多く、シーンの殆どが映像の面白さに繋がっていないのである。
またハリポタを引き合いに出すなら、あちらは超人的な動きこそないものの人体としての細かい所作は実写だからこそよく表現されている。杖も時として魔法弾を射ち出す銃にもなれば相手を叩いて縛る鞭にも喉元に突きつける短剣にもなってアクションが豊富であった。そんな平成前期の魔法ファンタジーより令和のアニメーションが劣るというのは最早、存在意義すら危ぶまれる大きな問題と言えるだろう。
{netabare}正直、連載にしてもアニメ化にしてもよくGOサインが出たものだなと感心してしまった。この作品は書いてしまえば「魔法は学ぶが決闘の時はグリフィンドールの剣を使うハリー・ポッター」であり、オリジナル要素は侵略者を阻むために空に張った大結界をトップクラスの魔導士5人が塔の頂から見守っている、という部分しかない。そんなオリジナル要素を見届けてから初めてレビューを書く資格があると考え、割と我慢して視聴了したが、結局最終話までホグワーツっぽい魔法学院とダンまちなどで散々見たダンジョンを往復するだけであった。
一応、卒業試験の話は少しだけ触れていたので恐らく2期の前半で試験をやり、落ちても受かっても学院からは離れて物語が仕切り直される筈だ────てかほんとに早くそっち方面を描かないとJ・K・ローリングから訴えられても知らんからな(笑){/netabare}