ナルユキ さんの感想・評価
3.4
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 2.0
状態:途中で断念した
真面目にコスプレを描くのが遅すぎた作品
まさかの『着せ恋』フォロワー、いやこういう呼び方は良くないのだけど……まあなんというか、アニメ化のタイミングが悪かったね。多くの人がそういう風に本作を観ては「着せ恋のパクり」「劣化着せ恋」と心無い感想を呟いている印象だ。
原作はジャンプ+ということでファン曰く、「コスプレ」を題材にしたとは思えないような熱血スポ根展開が待っているらしいのだが、果たしてアニメ組がそこまで追いつこうと思ってくれるのだろうか?
まあとりま、序盤の感想を書いていきます。
【ココがひどい:部室を私物化する痛ってぇオタク】
見出して感じるのはいきなり「ちょっとこれついていけないかもな……」という最早、拒絶に近い程の不安だ(笑)
様々な部活動が着替えや活動の場として活用し、同好会や新興クラブの憧れとなる「部室」をたった1人で占有してアニメ鑑賞する男……これが本作の主人公・奥村正宗{おくむら まさむね}。漫画研究部の先輩が卒業したのを機に現在の彼はやりたい放題している様だ。
部室は自分の1番好きなキャラクター・リリエル一色に染めて漫研とは名ばかりなオタク部屋をクラブ棟に作ってしまっている。そして何回観たのだろうアニメの旧作を再生して奥村は叫ぶ。
『リリエ〜〜⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎ル!!!!!!』
外にいた人が思わずビクッと身を震わせるほどの絶叫だ(笑) 恥も外聞も無い奥村は所謂“今期の嫁”というのを持たないコテコテの「痛いオタク」として描かれている。現実の女性からは母親含めて散々な目に遭わされてきたが、2次元の存在である『リリエル』は自分を絶対に裏切らない。『次元を一つ落とせば天使が待っている』とはどこか別作品で聞いたことがある彼なりの持論であり、それを自分唯1人が占有する部室内とはいえ声高らかに主張している。
これを「気持ち悪い」と言わずして他に何の表現があるだろうか。間違っても「おもしれー男」とはならない、ありきたりかつ主人公には相応しくないキャラ付けだ。痛いオタクの“痛い”は「見ているこっちが恥ずかしい」という意味であり、そんなキャラクターを主人公という立場で頻繁に登場させることは作品に対する視聴意欲の減退にそのまま繋がる。
「学校にオタク部屋がある」「漫研なのに同じアニメばかり観ている」「推しキャラの活躍に度々絶叫」といったツッコミどころの数々も、要は「メインヒロインが主人公のオタク部屋に入り同じキャラ愛に意気投合する」展開をスムーズに行うための装置なのだが、設定としてはかなり強引だ。
【そしてココがつまらない:衣装が既に完成済み】
開始早々「頭の悪い『着せ恋』」としか思えないような展開を連発するのだが、肝心のコスプレ要素も残念──というより「それでこの後どうするのよ?」と呆れるような切り出し方をしてしまう。
メインヒロインの天乃リリサ{あまの - }は奥村と同じくリリエルが大好きなオタク女子であり、遂には自身がリリエルとなって彼女オンリーのコスプレROM{ロム。CD媒体に焼く写真集}を制作しようと夢見るまでに至った。彼女の愛は、好きなキャラが50人以上はいて裁縫の得意な彼氏に衣装を作ってもらうマリンを凌ぐ強さを秘めるのだろう。
そのおかげ(せい?)か、コスプレの最初にして最大の難関である筈の「衣装作り」をリリサは物語開始時点から1人でこなすことができてしまっている。しかも完成品が3着、第1話からお披露目であり、新規に作る場合も水着のような生地が少ない衣装であればたった一晩で作れるというハイスペックぶりだ。これは着せ恋が最初、渾身の1着を生地の調達から始めて完成させるまでにおよそ4~5話かけたことを考えると実に呆気ない。
何よりリリサもオタクで作品知識にも隙が無く、リリエルに関する様々なバージョンの完璧な衣装を既に用意しているため、同じ趣味でしかない奥村に出来ることはそれらでコスプレする彼女の「撮影」くらいしかない。俗に言う「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」状態である。撮影もこだわればコスプレの副題にはなり得るかも知れないが、こちらも奥村の腕前はリリサの満足いく程度には既にある様だ。
総じてコスプレ作品の醍醐味である「衣装作り」も「撮影」も、それら技術の専門知識を知れたり、未熟な学生が試行錯誤を重ねて技能を高めたりといった部分がこの作品には見当たらない。同じテーマを掲げているのに着せ恋を観て面白かった部分を総スルーしてしまっているのはある種、勿体無いとも思ってしまう。
【でもココがエロい:手作り衣装は壊れやすいんですよね】
代わりにふんだんに挟まれるのが着せ恋以上『To LOVEる -とらぶる-』未満のエロハプニングだ。着せ恋も相当「エロで釣ってる」などと言われてきたが、本作は原作から『1話完結でエロいことだけ』描くつもりで連載が始まっており、さながら「エサが釣り針」と言ってしまえるムフフなシーンが満載である。それも結構、直接的。
先ず、やはりコスプレ担当のリリサがマリンと同じく「コスプレが絡めば羞恥心が薄れる」「作品内のエロに寛容、むしろ嗜む」といった設定を持っているのが実に都合がよろしい。異性の前で平然と着替えたり『下着も衣装の一部なので別に大丈夫ですよね?』とスカートをたくし上げ、尻を突き出して履いているパンツを見せつけたりする。まごうことなき痴女だ、そっちもマリン以上だよ(笑)
そしていいタイミングで衣装が壊れる。ファスナーが噛んだので男子の奥村が力任せに開けるのだが、勢いあまっておっぱいポロリ。それを全く気にせずお礼に駆け寄ろうとしたリリサが転び、受け止めた拍子に奥村の手は寸分狂わず乳を鷲掴んでいるという「ラッキースケベ」の王道だ。懐かしい展開とスムーズな流れには「そうはならんやろ」とツッコむ暇も無い(笑)
『2.5次元の誘惑{リリサ}』というタイトルの意味はもうおわかりだろう。2次元少女趣味な主人公の大好きなキャラクターに扮したヒロイン=3次元女子が無自覚な誘惑で落としにかかるという【お色気ラブコメ】を表している。扇情的な肢体を隠しきれない露出度の高いコスチューム、それが都合よくパージされて裸体が顕になる展開を重ねる本作はまごうことなき紳士アニメであった。これでファン曰く「後から熱血青春コスプレマンガになる」のだから、連載マンガというのはどんな路線変更が為されるのか予測できない。
【総評】
3話で断念。後から路線変更で面白くなるらしいのだが、じゃあそこまで頑張って観てみようかな、とまでは今の所思えない。主人公で見せた「古典的なオタク像」に痛々しいものを感じ取ってしまったことが原因だ。あのテのキャラは準レギュラー等の脇役なら特に気にならないものの、主人公というポジションに置いて頻繁に見せにくるのは抵抗を感じてしまう。
主人公たち──本作──の言いたいこと(メッセージ)ややりたいこと(コンセプト)は私もオタクだしよくわかるのだけども、アニメ(マンガ)のキャラクターが2次元と3次元の違いやこだわりを熱弁するというのはどう考慮してあげても滑稽に映る。劇中内のテレビ画面に映るキャラクターも現実で活動する主人公たちも、私たち視聴者&読者側から見れば全く同じ「2次元存在」だからだ。なのに『俺は3次元女子には興味が無い』だの『2次元女子はこういうことしなきゃ』だの言ってても、いやでもお前らの存在は2次元じゃんってツッコミを入れたくなる。
なのでリリサがやるリリエルのコスプレも劇中作に登場する彼女との「差違」が生まれていない。本当のコスプレはアニメ(マンガ)という絵(2次元)をレイヤーという人間(3次元)が演じる時点で拭えない違和感が生まれており、その点を“野暮”という形で周りが触れない(暗黙の了解とする)ことで成立する娯楽だ。なのにアニメ(マンガ)のキャラクターが劇中作のキャラのコスプレをすると「似ている」どころの話ではなく本当にテレビ画面から現実へそのままコピペしたかのようになり別の可笑しさを生み出してしまう。これを『その着せ替え人形は恋をする』の方は上手いこと躱しており、そもそも2次元と3次元の違いを話題には出さないし、リフトアップテーピングを知らない状態でやった初めてのコスプレではつり目のマリンとたれ目の雫たんとできちんと差違が出ている。そういった細かい配慮に本作は欠けている様だ。
作画はJ.C.STAFFにしては頑張っている方(特にダンスとオタ芸を両方描いた前半クールED)だが、それで見せるのが女子のコスプレよりも着替えや半脱ぎ、パンモロや脱衣といったセクシーシーンに傾倒しており、着せ恋以前のコスプレの醍醐味(着せたものを脱がす)に趣を置いた安直な紳士アニメとなってしまっている。もちろん需要はあるが、忌避されることも多い要素である。
冒頭でも書いたが、原作含めてタイミングが悪かった不憫な作品だ。後2年くらい早く連載してアニメ化出来ていれば唯一無二のコスプレ【ラブコメディ】としてより注目度を高めた可能性もあったのだが、着せ恋より後手に回ったことで両作は徹底的に比較され、作者のコスプレに対する姿勢の高低差までが如実に顕にされてしまった。
原作者の橋本悠氏は筆が速く、読者の反応を鑑みたり電子書籍版でエロの表現規制が入れられてしまったことを機に「コスプレイヤーについて真面目に描きたい」という思いを単行本3巻程度の辺りから抱いたらしいが、その思いが序盤の作風に反映される筈もなくそのままアニメ化されてしまったのは何とも気の毒な話である。